IP case studies判例研究

平成25年(ワ)第19912号「加圧加振試験機」事件

名称:「加圧加振試験機」事件
損害賠償請求事件
東京地方裁判所:平成25年(ワ)第19912号 判決日:平成28年2月19日
判決:請求一部認容(中間判決)
特許法第48条の3第1項、4項
キーワード:共同出願契約、出願審査請求、債務不履行、不法行為、特許権取得の蓋然性、消滅時効の中断、信義則、中間判決
[概要]
原告との共同出願契約において権利の維持保全義務のあった被告が、原告の意向に反して出願審査請求をしなかったことを内容とする債務不履行に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由があると判断された事例。
[事件の経緯]
原告は、被告と共に共同出願契約(本件契約)を締結した共同出願人である。
原告は、被告が本件契約上の義務に違反し、出願審査請求をせずに審査請求期間を徒過し、原告の本件各発明について、特許を受ける権利を失わせた旨を主張し、被告に対して、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求を求め、本件訴訟を提起した。
東京地裁は、原告の請求を一部認容した。なお、本判決は、本件各請求に関し、損害賠償額を除く点について判断を示すものである(民事訴訟法245条の中間判決)。
[争点]
・争点1(債務不履行又は不法行為の成否)について
・争点2(特許権取得の蓋然性)について
・争点3(消滅時効の中断等)について
[被告の主張](筆者にて適宜抜粋、下線)
『・・・イ 本件各出願について審査請求期間内に出願審査請求がされなかったことについては、原告に直接意向の確認をしないまま出願審査請求を行わない旨判断した本件特許事務所(Aⅱ弁理士)に責任がある。』『・・・本件各出願について審査請求期間内に出願審査請求がされていたとしても特許権の設定登録を受けることができた蓋然性はなかった。』『・・・債務不履行に基づく損害賠償請求権については、原告が本件各出願の審査請求期間の末日と主張する平成17年12月17日の5年後である平成22年12月17日の経過により、商法522条の時効が完成した結果、消滅した。また、不法行為に基づく損害賠償請求権については、原告は、遅くとも平成18年7月6日までに損害及び加害者を知ったものであるから、平成21年7月6日の経過により、民法724条前段の時効が完成した結果、消滅した。』
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1 争点1(債務不履行又は不法行為の成否)について
『(1)前記前提事実によると、①原告と被告は、平成14年11月26日、「被告は、本件各発明の特許出願の手続、登録までの諸手続及び登録された場合の権利の維持保全に関する手続を行う。」旨の約定(2条1項本文)を含む本件契約を締結したこと、②被告は、本件各出願後審査請求期間内に、本件各出願に係る出願審査請求の手続を行わなかったこと、③その結果、原告は、本件各発明について特許を受ける権利を失ったことが認められる。
上記①によれば、被告が、原告に対し、本件契約に基づき、本件各発明について出願後審査請求期間内に出願審査請求の手続を行う債務を負っていたことは明らかであり、上記②は、被告が同債務を履行しなかったことを示している。
したがって、被告は、原告に対し、上記の債務不履行による損害賠償責任を負うというほかはない。
(2)これに対し、被告は、本件各出願に係る出願審査請求がされなかったことについては、原告に直接意向確認をしないまま出願審査請求を行わない旨判断した本件特許事務所のAⅱ弁理士に責任がある旨主張し、被告にはその責任がないかのように主張する。
しかしながら、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件特許事務所のAⅱ弁理士に対し、本件各発明の出願に関する手続を委任していたことが認められるところ、前記(1)で説示したとおり、原被告間においては、あくまで被告が原告に対して出願審査請求の手続を行う債務を負っていたのであるから、Aⅱ弁理士は、被告の原告に対する同債務に関しては、被告の履行補助者に当たるというべきである。そうすると、Aⅱ弁理士の故意・過失は、原告との関係では、信義則上、被告の帰責事由と同視されるから、被告の上記主張は採用することができない。』
2 争点2(特許権取得の蓋然性)について
・・・(略)・・・
『(5)因果関係の有無について
以上のとおり、本件出願1及び本件出願2については、審査請求期間内に出願審査請求がされていれば特許権の設定登録を受けられた高度の蓋然性があったということができるが、本件出願3及び本件出願4については、審査請求期間内に出願審査請求がされていたとしても特許権の設定登録を受けられた高度の蓋然性があったということはできない。
したがって、本件出願1及び本件出願2については、前記2で説示した被告の債務不履行と損害の発生との間の因果関係を肯認することができるが、本件出願3及び本件出願4については、被告の債務不履行又は不法行為と損害の発生との間の因果関係を肯認することはできない。』
3 争点3(消滅時効の中断等)について
・・・(略)・・・
『(3)上記(2)に認定した事実経過、とりわけ、原告が、本件各出願に係る出願審査請求がされなかったことについて被告が損害賠償責任を負う旨主張して被告に対し損害賠償金の支払を求め、この点が原被告間において問題となる中、被告は、本件原告との間で覚書を締結し、これに基づき、平成20年3月17日から平成22年1月25日にかけて本件金員として合計400万円を原告に支払ったこと、これについて、被告自身が、上記の損害賠償金の実質を有する和解金の支払を求められた本件調停において、本件調停に係る「支払義務」が観念される場合には上記400万円の既払金はそこから控除されるべき金員である旨述べたことに照らせば、被告は、平成22年1月25日に、前記(1)の各債務不履行に基づく損害賠償債務について、民法147条3号にいう「承認」をしたものというべきである。
そうすると、上記各損害賠償請求権の発生日から5年後の平成22年10月31日及び同年11月14日より前である平成22年1月25日に、同各請求権の消滅時効は中断したということができる。・・・(略)・・・
(4)以上によると、本件出願1及び本件出願2について審査請求期間内に出願審査請求をしなかったことに係る各債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効は、平成22年1月25日に中断し、その後、平成25年7月29日の本件訴訟提起により再度中断し、同年9月24日の援用時までに時効は完成していないから、上記各請求権が時効により消滅したということはできない。』
 
[コメント]
共同出願の場合、各出願人の権利維持(審査請求や維持年金の納付など)に対する意向が一致しないことは頻発する問題である。このような場合、出願管理を担当する特許事務所は、各出願人に協議を促し、協議結果による最終的な意向(結論)に基づき、手続きを行うか否かを決定することが通例である。
しかし、本判決のように、一方の出願人が、他方の出願人と協議することなく、独自の意向に基づき、特許事務所に手続きを指示することが想定される。このような状況を避けるため、特許事務所は、各共同出願人から文書にて、最終的な意向を確認することがより安全であると考える。また、最終的な意向が、一方の出願人のみから特許事務所に指示されることもあるため、一方の出願人を窓口とすることを各出願人に了承を得た後、対応することも考えられる。
また、一方の出願人のみが権利維持を断念するような場合、特許事務所は、権利を維持することを希望する他方の出願人に対して、各出願人による協議を提案するだけでなく、持分譲渡の手続き等についても提案することも、他方の出願人の利益を守るためには重要である。
以上
(担当弁理士:西﨑 嘉一)

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