その他 » 平成 26 年(ネ)10099号 特許出願願書補正手続等請求控訴事件

名称:特許出願願書補正手続等請求控訴事件
(原審東京地方裁判所平成 26 年(ワ)第 3672 号)
知的財産高等裁判所第1部:平成 26 年(ネ)10099 号 判決日:平成 27 年 3 月 11 日
判決:控訴棄却
キーワード:拒絶査定が確定した出願における願書の補正、発明者名誉権

[概要]
本件は,本件出願の願書に発明者の一人として記載されている控訴人が,本件発明は控訴人の
単独発明であると主張して,本件出願の出願人である被控訴人会社に対し,主位的に本件出願の
願書の補正手続を,予備的に本件発明が控訴人の単独発明であることの確認を求めるとともに,
本件出願の願書に発明者の一人として記載されている被控訴人Yに対し,本件発明が控訴人の単
独発明であることの確認並びに発明者名誉権侵害の不法行為に基づく慰謝料150万円及びこれ
に対する不法行為後の日である平成26年4月4日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

[原審]
原審は,控訴人の被控訴人会社に対する請求について,①本件出願に対し拒絶査定が確定して
いることから,その願書を補正することは特許法17条1項本文に反するとして主位的請求(補
正手続請求)を棄却し,②予備的請求(確認請求)は特許証の発明者欄の訂正を求めることを前
提とするところ,本件出願に対する拒絶査定が確定し,特許証が交付される見込みはないことな
どから,予備的請求には確認の利益がないとして訴えを却下した。また,控訴人の被控訴人Yに
対する請求について,③上記②と同様の理由等を根拠として確認請求を却下するとともに,④損
害賠償請求については,発明者名誉権は法的に保護される余地はあるものの,発明を完成するこ
とにより当然に保護されるものではなく,当該発明が新規性,進歩性等の特許要件を充たさず,
特許を受けることができないとする旨の拒絶査定が確定した場合には,当該発明の完成により発
明者名誉権が発生したとしてもこれが法的に保護され,その侵害が不法行為となることはないと
して請求を棄却した。

[裁判所の判断]
当裁判所も,①控訴人の被控訴人会社に対する主位的請求(補正手続請求)は理由がないから
棄却し,②予備的請求(確認請求)及び③被控訴人Yに対する確認請求はいずれも確認の利益が
ないから不適法な訴えとして却下し,④被控訴人Yに対する損害賠償請求は理由がないから棄却
すべきものと判断する。(丸数字は筆者が追加した。)

<④の理由について>
そこで判断するに,不法行為による損害賠償請求が認められるためには侵害されたとする権利
ないし利益が法律上保護されたものであることを要する(民法709条参照)。発明をした者が,
その発明について特許を受け,その氏名を特許証に「発明者」として記載されることは,発明者
の名誉といった人格的利益に関するものであって,法的に保護されるものである(発明者名誉権。
特許法26条,工業所有権の保護に関するパリ条約4条の3参照)。しかし,このような発明者名
誉権は飽くまでも特許制度を前提として認められる人格権であるから,発明(特許法2条1項参
照)を完成することにより生じる人格的利益がすべて当然に法的に保護されることになるもので
はない。発明が新規性,進歩性の特許要件を充たさず,特許を受けることができないとする旨の
拒絶査定が確定した場合には,当該発明の完成により発明者の人格的利益(名誉)が生じたとし
ても,一般的には,その社会的評価は法的保護に値する程高くはないことが多く,そうではない
ことなどの特段の事情がない限り,その侵害が不法行為になるとまではいえないと解するのが相
当である。
これを本件についてみるに,証拠(甲3,乙6の1~7)及び弁論の全趣旨によれば,本件発
明(当然ながら本件出願の願書に記載された発明に限られる。)は,本件拒絶査定が確定している
だけでなく,引用文献から容易に想到することができたもので,特許法29条2項の規定により
特許を受けることができないものであることが明らかであったものと認められ,その発明に対す
る社会的評価が高かったことなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,控訴人が本件発明に係る発明者名誉権の侵害を理由として不法行為による損害
賠償を請求することはできない。

[コメント]
本件控訴人X(原告)は、本件出願の出願公開(平成23年7月14日)~拒絶査定(平成26
年1月23日、4月28日確定)に、本件被控訴人会社を被告とし、本件特許出願した各発明に
ついて、職務発明(特許法35条)ではなくいわゆる自由発明であるとして、特許を受ける権利
の帰属の確認を求める訴えを提起していた(東京地方裁判所平成24年(ワ)第14905号)。
当該判決では、上記発明は職務発明に当たり、原告(控訴人X)の特許受ける権利は、原告の所
属会社(被控訴人子会社)の規定によって、当該会社に承継されたことになるため、原告の請求
が棄却された。尚、当該訴訟では、上記発明が、原告の単独発明か、あるいは本件被控訴人Yと
の共同発明かは、当該判決の結論に影響しないため、判断されなかった。
本件事件においても、共同発明か否かの判断はされなかったが、特許出願の拒絶査定が確定し
ている以上、裁判所の判断は妥当と思われる。