その他 » 平成23年(受)第1781号 執行判決請求事件

名称:執行判決請求事件
最高裁判所:平成 23 年(受)第 1781 号 判決日:平成 26 年 4 月 24 日
判決:原判決破棄(差し戻し)
民事執行法24条、民訴法118条1号、民訴法3条の3第8号
キーワード:国際裁判管轄(間接管轄)

[概要]
被上告人による日本国内での営業秘密の不正な開示及び使用について、上告人がそれらに
対する差止及び損害賠償を認める米国判決に基づき執行判決を求めた事案。

[争点]
当該外国裁判所の属する国(以下「判決国」という。)がその事件について国際裁判管轄を
有すると積極的に認められる(間接管轄が認められる)か否か。

[原審の判断]
被上告人らの行為地は日本国内にあるため,これによる上告人の損害が米国内で発生した
ことを証明できなければならないところ,その証明がないから,本件米国判決のうち損害賠
償を命じた部分及び差止めを命じた部分のいずれについても間接管轄を認める余地はない。

[裁判所の判断]
(1) 人事に関する訴え以外の訴えにおける間接管轄の有無については,基本的に我が国の民訴
法の定める国際裁判管轄に関する規定に準拠しつつ,個々の事案における具体的事情に即し
て,外国裁判所の判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から,条理に照らして
判断すべきものと解するのが相当である。

(2) 我が国の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定をみると,民訴法3条の3第8号は,
「不法行為に関する訴え」については「不法行為があった地」を基準として国際裁判管轄を
定めることとしている。
民訴法3条の3第8号の「不法行為に関する訴え」は,民訴法5条9号の「不法行為に関
する訴え」と同じく,民法所定の不法行為に基づく訴えに限られるものではなく,違法行為
により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起する差止請求に関する訴
えをも含むものと解される(最高裁平成15年(許)第44号同16年4月8日第一小法廷
決定・民集58巻4号825頁参照)。そして,このような差止請求に関する訴えについては,
違法行為により権利利益を侵害されるおそれがあるにすぎない者も提起することができる以
上は,民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」は,違法行為が行われるおそれのあ
る地や,権利利益を侵害されるおそれのある地をも含むものと解するのが相当である。

(3) ところで,民訴法3条の3第8号の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するため
には,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の場合,原則として,被告が日本国内でした行為
により原告の権利利益について損害が生じたか,被告がした行為により原告の権利利益につ
いて日本国内で損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる(最高裁平成12年
(オ)第929号,同年(受)第780号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4
号727頁参照)。そして,判決国の間接管轄を肯定するためであっても,基本的に民訴法3
条の3第8号の規定に準拠する以上は,証明すべき事項につきこれと別異に解するのは相当
ではないというべきである。

そうすると,違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者が提起
する差止請求に関する訴えの場合は,現実の損害が生じたことは必ずしも請求権発生の要件
とされていないのであるから,このような訴えの場合において,民訴法3条の3第8号の「不
法行為があった地」が判決国内にあるというためには,仮に被告が原告の権利利益を侵害す
る行為を判決国内では行っておらず,また原告の権利利益が判決国内では現実に侵害されて
いないとしても,被告が原告の権利利益を侵害する行為を判決国内で行うおそれがあるか,
原告の権利利益が判決国内で侵害されるおそれがあるとの客観的事実関係が証明されれば足
りるというべきである。

(4) これを本件についてみると,本件規定は,違法行為により権利利益を侵害され,又は侵害
されるおそれがある者が提起する差止請求についても定めたものと解される。そして,本件
米国判決が日本国内だけでなく米国内においても被上告人らの不正行為の差止めを命じてい
ることも併せ考えると,本件の場合,被上告人らが上告人の権利利益を侵害する行為を米国
内で行うおそれがあるか,上告人の権利利益が米国内で侵害されるおそれがあるとの客観的
事実関係が証明された場合には,本件米国判決のうち差止めを命じた部分については,民訴
法3条の3第8号に準拠しつつ,条理に照らして間接管轄を認める余地もある。また,そう
であれば,本件米国判決のうち損害賠償を命じた部分についても,民訴法3条の6に準拠し
つつ,条理に照らして間接管轄を認める余地も出てくることになる。

5 以上と異なり,被上告人らが上告人の権利利益を侵害する行為を米国内で行うおそれの有
無等について何ら判断しないまま間接管轄を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼす
ことが明らかな法令の違反がある。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決
は破棄を免れない。そして,上記の点についてはまだ客観的事実関係の立証活動がされてい
ないのであるから,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

[コメント]
最高裁は、民訴法3条の3第8号の「不法行為があった地」が判決国内にあるというため
には,仮に被告が原告の権利利益を侵害する行為を判決国内では行っておらず,また原告の
権利利益が判決国内では現実に侵害されていないとしても,被告が原告の権利利益を侵害す
る行為を判決国内で行うおそれがあるか,原告の権利利益が判決国内で侵害されるおそれが
あるとの客観的事実関係が証明されれば足りるとしている。判決国内で差止請求が認められ
た場合の不法行為地の解釈の拡大の可能性を認める判決であり、同様の状況に置かれた企業
にとって留意すべき点となり得る。