その他 » 平成25年(行ウ)第467号「レーザー発振装置」事件

名称:「レーザー発振装置」特許料納付書却下処分取消請求事件
東京地方裁判所 平成25年(行ウ)第467号(以下「甲事件」という。),成25年(行ウ)第468
号(以下「乙事件」という。),平成25年(行ウ)第469号(以下「丙事件」という。)
判決日:平成26年1月31日
判決:請求棄却
特許法第112条の2第1項
キーワード:特許料の追納による特許権の回復,手続却下の処分,その責めに帰することができない理由

[概要]
特許料の追納期間経過後に行った「特別措置法」3条3項の規定による追納期間の延長の措置の適用の
申し出に対する却下処分について『特許法(改正前)112条の2第1項所定の「その責めに帰すること
ができない理由」があったと認めることはできない。本件各処分を取り消すべき違法はない。』との判断が
され、当該請求が却下された事例。

[本件各特許権]
甲事件 特許第3421184号:波長可変レーザーにおける波長選択方法および波長可変レーザーに
おける波長選択可能なレーザー発振装置
乙事件 特許第3421193号:波長可変レーザーにおける波長選択可能なレーザー発振装置
丙事件 特許第3421194号:波長可変レーザーにおける波長選択可能なレーザー発振装置

【処分の内容】
(1)特別措置法による追納期間の延長の措置の適用の申し出に対する却下理由
特許料の納付の管理体制は特許権者の自己責任の下に行われるものであり、東日本大震災及びその後の
電力制限等の影響で特許関連業務に混乱が生じたとしても,そのような状況下で本権の納付手続以外の特
許関連業務の手続が可能であったのであれば,本権に対する納付手続の点検,確認作業ができなかったこ
とは,特許権者側のいわば内部事情とも言うものであって,これをもって特許料の追納期間を徒過せざる
を得なかった事由があるとすることはできない。特別措置法の適用を受けることはできない。
(2)特許権者側の対応等
上記通知に対して弁明書を提出したが,特許庁長官は手続きを却下する本件各処分をした。原告は,本
件各処分について,それぞれ行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが,特許庁長官は各異議申立てを
棄却する決定をし,同決定は代理人弁理士らに送達された。

[取消事由(争点)]
本件各特許権に係る第9年分の特許料及び割増特許料を追納期間内に追納することができなかったこと
につき,原告(特許権者)に平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」とい
う。)112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」(以下[争点理由]ということ
がある)があるか。

[裁判所の判断]
原告の請求はいずれも理由がないから棄却する。その理由は,以下のとおりである。
1 改正前特許法112条の2第1項所定の「その責めに帰することができない理由」の意義について
(1-1)追納期間が経過した後の特許料納付により特許権の回復を認めることとした規定
(1-2)特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきもの
(1-3)失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることとなる
以上から、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができない
と認められる事由により追納期間内に納付できなかった場合をいうものと解するのが相当。
2 本件各処分の適法性について
(2-1)本件各処分までの経緯について
本件各特許権については,第9年分の特許料の納付期間は平成23年4月18日までであり,その追納
期限は同年10月18日であるところ,原告は,上記追納期限までに第9年分の特許料及び割増特許料を
納付しておらず,原告が本件特許事務所を通じ,本件各納付書を提出したのは,追納期限が経過した後で
ある同年11月21日であったものである。そうすると,原告が本件各納付書を提出したのは,特許料等
の追納期限が経過した後であるから,特許法112条4項により,本件各特許権は,同年4月18日の経
過の時に遡って消滅したものとみなされる。したがって,原告の本件各納付書の提出による特許料等の納
付が,改正前特許法112条の2第1項の要件を充たす追納と認められない限り,原告が本件各納付書の
提出による特許料の納付によって特許権を回復することはできないこととなる。
(2-2)本件における「その責めに帰することができない理由」の適用について
原告において、計画停電や放射性物質の影響等も含めた東日本大震災による混乱の続く状況下でのこと
であるとはいえ,本件各特許権の第9年分の特許料等不納付に係る一連の不手際は,本件各特許権の特許
料の納付期限のデータ入力が適切でなかったことに加え,本件納付指示書自体が他の書類と紛れてしまっ
て適切な管理がされなかったという,本件特許事務所における手続上の単純な人的な過誤によるものとい
わざるを得ない。そうすると,本件において,本件各特許権の特許料等の納付ができなかったことは,通
常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事
由により追納期間内に納付できなかった場合に当たるということはできない。よって,本件各特許権に係
る第9年分の特許料等を追納期間内に納付することができなかったことについて,原告に,[争点理由]が
あったと認めることはできない。
(2-3)小括
特許庁長官は,原告に[争点理由]があるとは認められないことを理由として,本件各納付書を却下す
る旨の本件各処分をしたものであるところ,[争点理由]があったとはいえないことは,上記(2-2)の
とおりであるから,本件各処分を取り消すべき違法はない。
3 原告の主張に対する判断
(3-1)原告の主張「[争点理由]も,諸外国の例に倣い,「相当の注意」が払われたにもかかわらず,
特許料の追納期間が経過するまでに特許料を納付することができなかった場合を意味するものと解すべき
である」に対して
パリ条約5条の2第2項の規定に照らしても,改正前特許法112条の立法理由に鑑みれば,[争点理由]
を文言の通常有する意味から乖離した解釈をすることは適切ではない。したがって,原告の上記主張は採
用することができない。
(3-2)原告の主張「本件各特許権の納付手続以外の特許関連業務の手続が可能であったのであれば,
通常期待される注意を尽くしたものとはいえない旨の説示は、[争点理由]があるといえるためには,特許
関連業務の手続がおよそ不可能であった場合に限定されることとなってしまうから,上記説示は改正前特
許法112条の2第1項の解釈を誤ったものである」に対して
[争点理由]があるといえないことは上記(2-2)のとおりであり,必ずしも,本件特許事務所にお
いて,その頃その他特許関連業務の手続が可能であったことをもって,その責めに帰することができない
理由があるといえないとするものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3-3)原告の主張「特許料納付に係る事務作業の過程における手違いは,たとえ東日本大震災・福島
第一原子力発電所の事故といった未曾有の災害の発生による心理的・物理的混乱の下で生じたものであっ
ても,すべて[争点理由]に該当しないことになってしまうから,上記説示は改正前特許法112条の2
第1項の解釈を誤るものである」に対して
上記(2-2)のとおり,本件納付指示書の一時的な逸失のみをもって,[争点理由]があるといえない
とするものではないことは明らかである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

[コメント]
手続に係る処分取消請求事件として、詳細に検討された結果が明示された判決であり、代理人および特
許権者(出願人)において、留意すべき事項として参考となる事案である。原告の主張において引用され
た平成22年(行コ)第10002号(平成22年9月22日知財高裁判決)も参考にされたい。