その他 » 平成24年(ワ)6658号本訴特許権譲渡代金返還請求事件,反訴特許権譲渡代金等請求事件

名称:本訴特許権譲渡代金返還請求事件,反訴特許権譲渡代金等請求事件
大阪地方裁判所 平成24年(ワ)6658号
判決日:平成25年7月16日
判決:本訴請求棄却,反訴請求認容
民法96条(詐欺),95条(錯誤)
キーワード:特許権等譲渡契約,詐欺、錯誤

[概要]
特許権等の譲渡契約および顧問契約等について、当該技術に関連する原告製品の製造販売が第三者特許
権の侵害に該当する等の事由から『本件各契約は,被告(譲渡人)の詐欺および錯誤によるものであり、
特許権譲渡代金等を請求する』ことを主張した原告の請求が棄却され、これに対する反訴における本訴被
告の請求が認容された事例。

[契約対象物]
(1)有償譲渡:特許権4件,商標権2件
(2)無償譲渡:特許出願3件,実験装置,技術資料等

[争点]
(1)本件各契約は,被告(譲渡人)の詐欺によるものであるか:争点1
(2)本件各契約には,動機の錯誤があったか:争点2

[裁判所の判断]
本訴について原告の請求には理由がないから,全部棄却する。反訴について被告の請求には全部理由が
ある。具体的には、前提事実(当事者間において争いのない事実)および関連事実を認定し、原告の主張
に対して、以下の通り判断された。

(1)原告の主張について
(1-1)本件譲渡契約が第三者の特許権を侵害するものであることを分かっていたなら,本件各契約を
締結することなどあり得なかったから,本件各契約は詐欺又は錯誤によるものである。

(1-2)本件譲渡特許権等に係る発明の実施品と同じ内容の冷凍機を製造販売したところ,Kから係争
特許の特許権侵害に当たるとして責任を追及された。

(1-3)本件譲渡特許権等を用いた冷却装置を製造するためには,多大なコストと時間を必要とし,原
告にとっては不可能に近いことであった。

(2)争点1(本件各契約は,被告の詐欺によるものであるか)について
以下の理由から『本件各契約が,被告の詐欺によるものであるということはできない。』とされた。

(2-1)原告製品について
『原告製品は,本件譲渡特許権等に係る発明の実施品ではなく,しかも,P1(被告取締役)から本件
各契約締結前の時点において,Kの有する特許を侵害するものであるから設計変更する必要がある旨指摘
された構成のものであると認められる。』と判断された。

(2-2)被告による欺罔行為の有無
『原告の最終的な主張は「古賀産業の有する特許権に係る特許発明を実施したとしても,本件譲渡契約
を締結すれば,古賀産業から特許権侵害による責任を追及されることはないと信じ,そのように誤信をし
たのは被告(具体的にはP1)の欺罔行為による」と解される。しかしながら,被告(具体的にはP1)
が,原告に対して行った以下の事実から,被告に上記誤信を生じさせるような欺罔行為をした事実は認め
られない。』と判断された。

① 本件各契約締結前に,原告製品の構成がKの有する特許権を侵害するものであるから,設計変更をする
必要がある旨繰り返し指摘したことが認められる(このこと自体は原告も認めている。)。

② Kと共有する特許(共有特許)については,譲渡することができない旨繰り返し説明したことも認めら
れる。

③ 繰り返し本件譲渡特許権等を実施すれば回避することができる旨述べていた(当事者間に争いがない)。
(2-3)本件譲渡特許権等に係る発明とKの有する特許権に係る発明(係争特許を含む。)との関係
『原告製品が本件譲渡特許権等に係る発明の実施品であるとは認められない。また,本件譲渡特許権等
が係争特許の特許発明の技術的範囲に含まれることを認めるに足りる主張立証もない。そもそも,本件譲
渡契約5条において,被告は,譲渡に係る本件各特許の特許性及び実施上の有効性,正確性,有益性及び
十分性について一切保証しないこと,譲渡に係る本件各特許発明の実施が第三者の有する特許権その他の
権利を侵害しないことについて,一切保証しない旨明確に規定されている。・・被告において何らかの積極
的な欺罔行為等があったなどの事情がない限り,詐欺には当たらないと解される。』と判断された。

(3)争点2(本件各契約には,錯誤があったか)について
以下の理由から『本件各契約について,錯誤により無効であるということはできない。』とされた。

(3-1)原告が主張する錯誤について
『本件各契約が規定する内容,すなわち本件各特許等の譲渡という法律効果の内容を構成するものでは
なく,単なる事実上の効果を期待したという動機に関する錯誤にすぎない。そして,このような動機,縁
由について,原告が,本件各契約を締結するに当たり,被告に表示したとする主張立証は全くない。むし
ろ,・・明示的に否定されていたものというべきである。・・Kと係争特許を共有する被告との間で契約関
係を持てば,古賀産業から特許権を行使されることはないと独自の判断をしていたものである。』と判断さ
れた。

(3-2)本件譲渡特許権等に係る発明と係争特許との関係
上記(2-3)と同旨であると判断された。

(4)反訴事件(被告の請求)に対する判断
『(4-1)本件各契約における代金の合意等,(4-2)本件譲渡契約における管理費用及び管理費の
請求,(4-3)本件顧問契約における報酬,につき、被告の請求には全部理由がある。』と判断された。

[コメント]
特許権(および商標権)等の譲渡を受けた(受けようとした)者の実施行為に基づき、争点となった特
許権等の譲渡契約における「詐欺」および「錯誤」の有無が明確に判断された事案である。実務的に留意
すべき事項として、原告側の主張の根拠が不明であった一方、当該判断の根拠となった譲渡契約の条項の
内容および被告側から証拠として提示された事前の応答記録等の重要性が参考となる。