審決取消請求事件 » 令和元年(行ケ)第10067号「加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物等」事件

名称:「加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物等」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和元年(行ケ)第10067号 判決日:令和2年1月15日
判決:審決維持
条文:特許法29条2項
キーワード:進歩性、用途発明
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/165/089165_hanrei.pdf

[事案の概要]
「加齢性疾患及び身体機能低下」が、加齢性運動器疾患等として、加齢性筋疾患等と加齢性骨疾患等とが連携したものである、との主張が認められず、本件発明の進歩性を否定した審決が維持された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2014-49007号)に係る拒絶査定不服審判(不服2018-5143号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願発明]
【請求項1】
ローヤルゼリーを含有する加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物であって、
前記加齢性疾患及び身体機能低下が、加齢性の筋疾患又は筋力低下、かつ加齢性の骨疾患又は骨密度低下であり、
生ローヤルゼリー換算量で、1日当たり600~14400mgのローヤルゼリーが、ヒトに対して経口投与されるように用いられる、予防用組成物。

[主な取消事由]
1.進歩性判断の誤り

[裁判所の判断]
『(2) 原告は、①本願発明の加齢性運動器疾患等は、単なる骨粗鬆症等とは別の概念のものであるから、引用発明の「老人性骨粗鬆症の予防又は改善」は、本願発明の「加齢性疾患及び身体機能低下の予防用」であって「前記加齢性疾患及び身体機能低下が、加齢性の筋疾患又は筋力低下、かつ加齢性の骨疾患又は骨密度低下」には相当しない、②見いだされた用途とその用途に使用するためのヒトにおける用量が技術的手段として別個独立のものであるという認識は当業者にはないから、本願発明の用途と用量を分断して、本願発明と引用発明を対比するのは誤りである、③運動器とは身体運動に関わる骨、筋肉などの総称であって、運動器がそれぞれ連携して働いており、どの一つが悪くても身体はうまく動かないというのが本願出願時の当業者の認識であるから、本願発明の加齢性運動器疾患等における「加齢性の筋疾患又は筋力低下」と「加齢性の骨疾患又は骨密度低下」は連携しており、本願発明の加齢性運動器疾患等を「加齢性の筋疾患又は筋力低下」と「加齢性の骨疾患又は骨密度低下」に分断して、本願発明と引用発明とを対比するのは妥当ではない旨主張する。
ア しかし、前記1(1)のとおり、本願明細書の段落【0018】には、「加齢性疾患及び身体機能低下(以下、「加齢性疾患等」という場合がある。)とは、加齢に伴う、筋肉量の減少、骨密度の低下、骨質の低下等の症状を示す加齢に伴う疾患及び身体機能低下を意味する。加齢性疾患等としては、例えば、加齢性筋萎縮症、及び筋力低下症状等の加齢性の筋疾患又は筋力低下、並びに、骨粗鬆症、及び骨粗鬆症による骨折等の加齢性の骨疾患又は骨密度低下が挙げられる。」と記載され、「加齢性疾患及び身体機能低下」として、「加齢性の筋疾患又は筋力低下」(以下「加齢性筋疾患等」という。)と「加齢性の骨疾患又は骨密度低下」(以下「加齢性骨疾患等」という。)が挙げられることが記載されているが、本願明細書においては、本願発明の「加齢性疾患及び身体機能低下」が、加齢性筋疾患等及び加齢性骨疾患等が統合された一つの疾患を意味することや、加齢性筋疾患等及び加齢性骨疾患等が連携していることは記載されておらず、また、その示唆もされていない。
むしろ、本願明細書の段落【0018】には、加齢性筋疾患等と加齢性骨疾患等が、上記のとおり、例示の中で並列的に記載されており、また、段落【0010】には、「加齢性疾患及び身体機能低下は、加齢性の筋疾患又は筋力低下であることが好ましい。」と、段落【0011】には、「加齢性疾患及び身体機能低下は、加齢性の骨疾患又は骨密度であることが好ましい。」と記載され、加齢性筋疾患等と加齢性骨疾患等が別々に記載されていることからすると、本願発明における「加齢性疾患及び身体機能低下」とは、加齢性筋疾患等と加齢性骨疾患等を意味するが、これらは別個の疾患及び身体機能の低下であると理解されるというべきである。
本願明細書には、身体運動に関わる骨、筋肉の総称が運動器であるとの説明はなく、そもそも、「運動器」という用語自体も記載されていないから、本願発明における「加齢性疾患及び身体機能低下」が、加齢性運動器疾患等として、加齢性筋疾患等と加齢性骨疾患等とが連携したものと解することはできないというべきである。
そして、本願明細書の段落【0018】には、上記のとおり、「加齢性疾患及び身体機能低下」の例示として、「骨粗鬆症」が記載されていることからすると、引用発明の「老人性骨粗鬆症」は、本願発明の「加齢性の骨疾患又は骨密度低下」に相当するものであるということができる。
イ  前記(1)のとおり、相違点1と相違点2に分けて相違点を認定しても、相違点2におけるローヤルゼリーの投与量は、本願発明については、「加齢性の筋疾患又は筋力低下、かつ加齢性の骨疾患又は骨密度低下」に対して有効な摂取量を意味し、引用発明については、「加齢性の骨疾患又は骨密度低下」に対して有効な摂取量を意味することは明らかであるから、ローヤルゼリーの用途と用量を分断して認定するものとはいえない。』
『(イ) 引用文献2の上記記載によると、引用文献2には、「ローヤルゼリーはヒトにおいて、加齢による筋力の低下を抑え、増強させる作用を有すること」(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。
イ 前記2(1)のとおり、引用発明は、ローヤルゼリーを有効成分とする老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤であり、また、前記アのとおり、引用文献2記載事項は、ローヤルゼリーは、加齢による筋力の低下を抑え、増強させるというものであるから、ローヤルゼリーを服用することにより、加齢による身体機能の低下を予防し、改善するという点で、両者は、技術分野、課題及び作用を共通にする。したがって、引用発明に引用文献2記載事項を適用し、ローヤルゼリーを有効成分とする、加齢性の骨疾患や骨密度の低下を予防するとともに、加齢性の筋疾患や筋力低下を予防する組成物とする動機付けが存在するものと認められる。』

[コメント]
本判決では、用途的構成において複数の疾患/機能低下についてそれらが連携したものであるとする原告の主張は認められなかった。本判決では、明細書の記載からはむしろ上記複数の疾患/機能低下は別個のものであると認定されているが、たしかに明細書及び審査経過からすると、拒絶対応の流れで当該構成に至ったように推察される。このような用途的構成に関わらず、ある構成間に特殊な関係性や意義を有する場合には、明細書に相応の記載をしておく必要がある。
以上
(担当弁理士:東田 進弘)