「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンが、「アイコン」に該当すると認定され侵害が容認された原判決が、無効審判により無効にされるべき権利であると認定されて、取り消された事例(請求認容)。方法クレーム(第3の発明)に基づくソフトウエアプログラムの間接侵害を否定する判断がなされた。

 判決H17930、知財高裁、平成17年(ネ)第10040号、侵害差止請求控訴事件、発明名称「情報処理装置及び情報処理方法」

 

事案の概要

原判決 H16()16732 

  控訴人(ジャストシステム)製品(一太郎、花子)の製造等の差し止め及び廃棄を求める、被控訴人(松下電器)の請求が容認された。これに対し、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。

 争点

(1) 控訴人製品をインストールしたパソコン及びその使用の構成要件充足性(争点1)

(2) 特許法101条2号及び4号所定の間接侵害の成否(争点2)

(3) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められ,本件特許権の行使は許されないか(争点3)

(4) 控訴人の当審における追加的な主張・立証が時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきか(争点4)

 

裁判所の判断

(1)争点1(構成要件充足性)

 「アイコン」とは,「表示画面上に各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示したもの」と一般に理解されており,本件発明にいう「アイコン」も,表示画面上に各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して,コマンドを処理するものであれば足りそれ以上に,ドラッグないし移動可能性やデスクトップ上への配置可能性という限定を付す根拠はないところ,控訴人製品の「ヘルプモード」ボタン及び情報処理機能を実行させるボタンのうち任意の選択に係るボタン(以下「情報処理ボタン」という。)は,本件発明の特許請求の範囲における前記「アイコン」に該当するから,控訴人製品をインストールしたパソコン及びその使用は,それぞれ本件第1,第2発明及び本件第3発明の各構成要件を充足し,その技術的範囲に属する,と判断する。

 

(2)争点2(間接侵害の成否)

<第1発明、第2発明について(装置発明)>

控訴人製品のインストールにより,ヘルプ機能を含めたプログラム全体がパソコンにインストールされ,本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が初めて完成するのであるから,控訴人製品をインストールすることは,前記パソコンの生産に当たるものというべきである。」ので「控訴人製品をインストールしたパソコン」においては,・・,控訴人製品は,本件第1,第2発明による課題の解決に不可欠なものに該当するというべきである。」と判断された。

 また、「・・控訴人製品をヘルプ機能を含めた形式でパソコンにインストールすると,必ず本件第1,第2発明の構成要件を充足する「控訴人製品をインストールしたパソコン」が完成するものであり,控訴人製品は,本件第1,第2発明の構成を有する物の生産にのみ用いる部分を含むものでるから,同号にいう「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらないというべきである。」

 また、「控訴人製品については,これを専ら個人的ないし家庭的用途に用いる利用者(ユーザー)が少なからぬ割合を占めるとしても,それに限定されるわけではなく,法人など業としてこれをパソコンにインストールして使用する利用者(ユーザー)が存在することは当裁判所に顕著である。そうすると,一般に,間接侵害は直接侵害の有無にかかわりなく成立することが可能であるとのいわゆる独立説の立場においてはもとより,間接侵害は直接侵害の成立に従属するとのいわゆる従属説の立場においても,控訴人が控訴人製品を製造,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為について特許法101条2号所定の間接侵害の成立が否定されるものではない。」

 以上により、101条2項の間接侵害を認めた。

<第3発明について>

裁判所は、『「控訴人製品をインストールしたパソコン」は,そのような方法による使用以外にも用途を有するものではあっても,同号にいう「その方法の使用に用いる物・・・であってその発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するものというべきであるから,当該パソコンについて生産,譲渡等又は譲渡等の申出をする行為は同号所定の間接侵害に該当し得るものというべきである。しかしながら,同号は,その物自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物についてこれを生産,譲渡等する行為を特許権侵害とみなすものであって,そのような物の生産に用いられる物を製造,譲渡等する行為を特許権侵害とみなしているものではない。』と説示し、『本件において,控訴人の行っている行為は,当該パソコンの生産,譲渡等又は譲渡等の申出ではなく,当該パソコンの生産に用いられる控訴人製品についての製造,譲渡等又は譲渡等の申出にすぎないから,控訴人の前記行為が同号所定の間接侵害に該当するということはできない。』と判断した。さらに、『・・平成12年12月公表の「改訂特許・実用新案審査基準」により「プログラムそのもの」について,それぞれ特許発明となり得ることを認める運用を開始しており,また,平成14年法律第24号による改正後の特許法においては,記録媒体に記録されないプログラム等がそれ自体として同法における保護対象となり得ることが明示的に規定されている(同法2条3項1号,4項参照,平成14年9月1日施行)。このような事情に照らせば,同法101条4号について上記のように解したからといって,プログラム等の発明に関して,同法による保護に欠けるものではない。』と説示した。

 

(3)争点3(特許権の行使の制限)

<第1発明と乙18発明との対比>

[一致点] 「アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる機能説明表示手段,および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と,前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と,前記指定手段による,機能説明表示手段の指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて,前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有することを特徴とする情報処理装置」

[相違点] アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」が,本件第1発明では「アイコン」であるのに対し,乙18発明では,「スクリーン/メニュー・ヘルプ」アイテムである点2。

<第2発明と乙18発明との対比>

本件第1発明との前記一致点に加え,制御手段が,「前記指定手段による第2のアイコンの指定が,機能説明表示手段の指定の直後でない場合は,前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させる」点で一致する。前記アの[相違点]で相違する。

<相違点の判断>

 本件特許出願当時,所定の情報処理機能を実行するための手段として「アイコン」は周知の技術事項であり,また,証拠(乙13文献,乙18文献)によれば,同様の手段として「メニューアイテム」も周知の技術事項であった・・,所定の情報処理機能を実行するための手段として,「アイコン」又は「メニューアイテム」のいずれを採用するかは,必要により当業者が適宜選択することのできる技術的な設計事項であるというべきである。

 乙18発明において,アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」として,「スクリーン/メニュー・ヘルプ」アイテムに代えて「アイコン」を採用することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。そして,本件発明の・・作用効果は,アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる「機能説明表示手段」として周知の「アイコン」を採用することにより当然予測される程度のものであって,格別顕著なものとはいえない

 仮に,本件特許出願当時,アプリケーションの画面から直接利用されるヘルプ機能を実行するために「プルダウン・メニュー」を用いる構成が,当該技術分野のスタンダード的なものであったとしても,それ以外のものを使用することに特段の阻害要因が存在するわけではなく,現に,・・乙12文献には,アプリケーションの画面から直接利用されるヘルプ機能を実行するために「アイコン」を用いた構成が記載されているから,本件発明のように,「プルダウン・メニュー」を用いず「アイコン」を用いた構成を着想することが著しく困難であったとは到底いうことができない

(4)争点4(時期に遅れた攻撃防御方法)

 追加主張・立証の内容についてみると,まず,構成要件充足性に関する部分は,原審において既に控訴人が主張していた構成要件充足性(「アイコン」の意義)に関する主張を,若干角度を変えて補充するものにすぎないということができる。また,本件特許の無効理由に関する部分は,新たに追加された文献に基づくものではあるが,・・いずれも外国において頒布された英語の文献であり,しかも,本件訴えの提起より15年近くも前の本件特許出願時より前に頒布されたものであるから,このような公知文献を調査検索するためにそれなりの時間を要することはやむを得ないことというべきである。

 

 

判決全文→http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/4AC9E8ED0D080C574925710E002B12CE.pdf