補正却下された補正事項に対して、明細書の記載及び目的に照らせば,本件補正事項における「始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」とは,各加入者局から受信した信号の各々のフレームの始点が基地局において一致するという趣旨であり、さらに、本件補正事項は,当初明細書に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を補正するものにすぎず,明細書の要旨を変更するものでないと、判断され、拒絶査定不服審判における補正却下決定を取り消した(請求認容) 判決日H1837、知財高裁、平成17年(行ケ)第10516号、特許権、補正却下決定取消請求事件、「多重音声通信やデータ通信を単一又は複数チャンネルにより同時に行うための無線ディジタル加入者電話システム」事件

 

<1.手続きの経緯>

 (1)昭和61年2月26日特願昭61-39331号を一部分割→特願平9−236592号の一部を分割→特願平11−65355号の一部を分割→特願2000-142479の一部を分割→特願2001246767の一部を分割→特願2003007452

 (2)平成14411日に拒絶査定、712日に拒絶査定不服審判(不服2002-13115)、この際に手続き補正され、この補正が却下決定された。

 

<2.補正後の請求項5,6>

【請求項5】局線と複数の加入者局との間にディジタル無線多元接続陸上通信を提供するディジタル電話システムであって,基地局と前記加入者局との間の無線周波数(RF)リンク経由で前記基地局から前記加入者局への順方向情報と前記加入者局から前記基地局への逆方向情報との同時的無線送信が可能であり,前記RFリンクの各周波数チャンネルが,複数の時間スロットを各々が含み始点が一致するように互いに同期した複数のフレームを備え,相互接続手段で前記順方向情報を前記周波数チャンネルの一つの時間スロットに配置するディジタル電話システムにおいて,前記逆方向情報を前記順方向情報対応の時間スロットからずれた所定の時間スロットに自動的に配置するディジタル電話システム。

【請求項6】互いに異なる無線周波数(RF)の複数の送信チャンネルを有する無線周波数(RF)リンク経由で基地局と複数の移動加入者局との間の多元接続無線電話網における少なくとも一つのディジタル情報信号の伝達を行う方法であって,前記送信チャンネルの各々が,複数の時間スロットを各々が含み始点が一致するように互いに同期した複数のフレームから成るディジタル情報信号伝達方法において,情報信号への時間スロット割当てをその情報信号が前記基地局と加入者局との間の前記RFリンク経由で一つの方向に送信されるように行う過程と,前記基地局と前記加入者局との間の前記方向と逆の方向の情報信号の送信を前記割当てによる割当て時間スロットからずれた所定の時間スロットで自動的に行う過程とを含むディジタル情報信号伝達方法。

 

<3.取消事由の要点>

1 本件補正事項は,当初明細書の記載に基礎を有する。

(1) 本件補正事項1のうち,「複数の時間スロットを(複数のフレームの)各々が含」むことについては,当初明細書の段落【0066】の記載に,RFリンクの各周波数チャンネルが「(複数のフレームの)始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」を備えることについては,当初明細書・・の記載に,それぞれ基礎を有するものである。また,本件補正事項2の「(前記送信チャンネルの各々が,)複数の時間スロットを各々が含み始点が一致するように互いに同期した複数のフレームから成(る)」についても,当初明細書の上記記載に基礎を有するものである。

2被告は,本件補正事項における「始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」との文言を「それぞれのフレームの送信と受信の始点が一致した」との趣旨に理解した上で,基地局における送信フレームと受信フレームの始点が一致する場合(以下「ケース1」という。),基地局における受信フレームと加入者局の送信フレームの始点が一致する場合(以下「ケース2」という。),加入者局における受信フレームと送信フレームの始点が一致する場合(以下「ケース3」という。)について考察し,送信と受信とが一致することは起こりえないと主張する。・・本件補正事項における「始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」とは,複数の加入者局からの基地局受信信号の各々のフレームの始点が,基地局送信信号のフレームの始点と一致することを述べているだけであり,このことは補正請求項5,6の文脈からも明らかで・・,当初明細書の記載に基礎を有するものである。

 

<4 被告の反論の要点>

(1) 本件補正事項における「複数の時間スロットを各々が含み始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」については,ケース1,ケース2及びケース3が想定できる。

(2) ・・ケース1について検討・・,・・当初明細書には,開始点は一致しないと記載されているのであり,基地局における送信フレームと受信フレームの始点が一致する場合(ケース1)は記載されていない。

(3) ケース2及びケース3は,物理的に起こりえない。

(4) よって,本件補正事項は,当初明細書に記載されたものでなく,原告主張の取消事由には理由がない。

 

<5.裁判所の判断>

2.(2) 上記ア(段落【0066】)の記載に照らせば,当初明細書に記載された発明において,複数の時間スロットを複数のフレームの各々が含むものであることは,明らかである。

3.(1)「逆方向情報を順方向情報対応の時間スロットからずれた所定の時間スロットに自動的に配置する」目的は,当初明細書の前記1(1)オ,ク,ケの記載に示されるとおり,基地局と各加入者局間の距離に相当する遅延時間分だけ,各加入者局からの伝送タイミングを調整することにより,基地局と各加入者局との距離に起因するデータの伝送遅延を相殺し,基地局において受信する信号の位相をそろえ,同期のとれた通信を可能とすることにある・・。補正請求項5における上記の記載及び目的に照らせば,本件補正事項1における「始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」とは,各加入者局から受信した信号の各々のフレームの始点が基地局において一致するという趣旨と解すべきものである。

4 本件補正事項が当初明細書に記載されたものであることについて

・・当初明細書に記載された発明において,伝送往復遅延が相殺された状態では,基地局において,RFリンクの各周波数チャンネルないし各送信チャンネルは,複数の時間スロットを各々が含み始点が一致するように互いに同期した複数のフレームを備えているということができる。そうすると,本件補正事項は,当初明細書に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を補正するものにすぎず,明細書の要旨を変更するもの(同法53条1項)ということはできない。

5 被告の主張について

(1) ・・当初明細書の段落【0051】における上記記載は,本願発明の前提となる同期技術に関し,生じるわずかなタイミング・スキュー(位相ずれ)を基地局のモデムのバッファで補償することを説明しているにすぎず,基地局においてRFリンクの各周波数チャンネルの時間スロットの始点が一致することと何ら矛盾しない。また,当初明細書の段落【0459】〜【0461】の記載は,段落【0431】から始まる「モデム」についての説明に関するものであり,モデムは各種フィルタによる遅延処理を含むことから伝送遅延の原因となり,スキュー(位相ずれ)を起こすので十分な配慮が必要であることを述べているにすぎず,本件補正事項とは直接関係がない。そもそも,補正請求項5及び6は,加入者局の基地局からの距離に起因する伝送往復遅延を相殺することによってフレームの始点を一致させることを規定しているにとどまり,それを超えて,モデム等における伝送遅延に伴う位相ずれも補償して,フレームの始点を「完全に一致」させることまで規定するものではない。

(2) 被告は,さらに,本件補正事項の「複数の時間スロットを各々が含み始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」については,上記ケース1のほかに,ケース2及び3が想定できるところ,このような場合は起こりえないから,当初明細書に記載されたものではないと主張する。しかしながら,・・本件補正事項における「始点が一致するように互いに同期した複数のフレーム」とは,各加入者局から受信した信号の各々のフレームの始点が基地局において一致するという趣旨であるから,ケース2及び3についての被告の主張は,本願発明を正解しないものというべきである。

 

<全文閲覧>→http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060519214211.pdf