審決が、「残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。」と推断したことは誤りであると認定され、その結果、相違点の認定が誤りであると判断され、拒絶審決取消請求が容認された事例(請求認容)

 判決日H17512、知財高裁、平成16年(行ケ)第10300号、特許権、拒絶審決取消請求事件、「情報記憶カード及びその処理方法」事件

 

事案の概要

 本件発明(特開平7-175901 補正後の請求項2発明)は、引用文献1(特開昭62-249295)に基づき、周知技術参酌して、292項の規定により拒絶審決された。

 

審決取消事由

1、相違点の看過

 審決は,「・・取引者が自動取引装置で出金額を指定すると,出金後,取引内容をICカードのメモリに書き込むようにしており,その際,残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。・・」と認定判断したが、「残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っている」と考えるとすると,残高が改ざんされていた場合には,取引者に現金を給付した上,改ざんされた残高から出金額を控除した残額が残高として書き込まれてしまい,安全性に欠けるのであって,そのように考えることは,かえって不自然であり,合理性もない。さらに、「残高」の読み書きについての開示がないが,あえてこれを解釈するならば,ICカードから読み取るのではなく,ATMに接続されているセンタ装置(第2図の銀行センタ253の元帳255に記憶している残高)から読み取り,出金後にそれを更新し,かつ,ICカードにも残高を記憶させると考えるのが自然であり,合理性がある。

 本件発明と刊行物1記載の発明とは,審決が認定した相違点(i)(ii)のほかに,本件発明が,第3の工程において,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出し,かつ,第4の工程において,読み出された前記情報を処理して情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を情報記憶カードに記憶させるのに対し,刊行物1記載の発明が,このような工程を有していない点が相違する。

2、相違点(A)の判断の誤り(裁判で判断されていないので省略)

 

被告の反論

1、ア 銀行口座の真の残高をどこに持つか(どこで管理するか)ということは,様々な形態が考えられるのであって,必ずしも一義的に決まっているわけではない。残高をICカードに記憶させることは,乙1ないし乙4に記載されているように,本件出願前にごく普通に行われているのである。

 イ 刊行物1の第3図()は、・・「ICカードのメモリ」の領域ZCに「残高」との文言が記録・・機密にされるべき情報が格納される領域である・・から,領域ZCに記憶された残高が「真の残高」であるとしても何ら矛盾しない。また,刊行物1には,銀行センタ側に元帳255が設けられているが,元帳255にはレコードが記録される(7頁左上欄20行ないし右上欄3行)のであり,そのレコードとは,第3図()の記載から明らかなように,履歴情報であるfのレコードであって,刊行物1には,元帳255に残高を記録しておくといったような記載はない。すなわち,刊行物1において,残高は,「ICカードのメモリ」にある領域ZCにのみ唯一記憶されるのであって,他の場所に記憶されるということはない。

 

裁判所の判断

1、取消事由1

(1)刊行物1のICカードは,銀行取引用のカードとして用いられ・・、基本取引情報に加え,過去の取引記録に関する情報が記憶され・・,通帳の代わりになり,また,ATM(自動取引装置)を用いて出金や入金をすることができる・・,ATMは銀行センタと回線を介して接続され・・,出金や入金は,銀行センタに備えられた元帳によって集中管理される・・と認められる。

 従来の銀行カードを用いたATMによる自動取引処理について、特開昭50−62098号公報(甲6)、特開昭61−249170号公報(甲7)、特開昭62−117067号公報(甲8)の記載及び弁論の全趣旨によれば,上記の銀行カードを用いたATMによる自動取引処理において,口座残高は,銀行預金の取引の性質上,ATMが銀行カードのみに情報源を依存しこれから読み取ることはできず,銀行センター側のホストコンピュータが口座ファイルから読み取り,取引に関する処理を行った後,処理後の残高をATMに送信するものであることが明らかである。刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば,ICカードから「残額」を読み取り,出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。したがって,審決が,「残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。」と推断したことは誤りである、と判断した。

 

2、被告の主張について

 従来の銀行カードを用いたATMによる自動取引処理において,口座残高は,センター側のホストコンピュータが口座ファイルから読み取り,取引に関する処理を行った後,処理後の残高をATMに送信するものであるから,銀行口座の真の残高は,センター側のホストコンピュータの口座ファイルにあると認められる。

 乙1ないし乙4に記載されているICカードは,プリペイドカードとしてのICカードであって,これらのICカードには「残高」が記憶され,小売店などで商品を購入した際に,その価格が「残高」から減算されて,新たな「残高」に更新されるものであるが,利用者は,使用に先立って,ATMを介して銀行センタに接続し,利用者の口座から引き落としたり(乙1,乙3,乙4),ICカード利用端末に現金を投入したり(乙2,乙4)して,ICカードに入金する処理を予め行っておくものであり,また,使用に当たり,ICカード利用端末が銀行センタと接続されている必要はなく,利用を受けた小売店等が,後日,金融機関から利用額に相当する金額の支払をまとめて受けるものである(乙1,乙3)と認められる。

 乙1ないし乙4のプリペイドカードの使用形態は,銀行カードとしてのICカードの使用形態と異なるから,プリペイドカードについての処理を,銀行カードとしてのICカードについての処理に適用することはできない・・。乙1ないし乙4に,残高をICカードに記憶させることが記載されているとしても,これによって,銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると推認することはできない。

 したがって,銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると認めることはできないから,被告の上記主張は,採用の限りでない。

 (2) ・・刊行物1には,第3図()の「ICカードのメモリ」の領域ZCに「残高」との文言が記録されているが,これが真の残高であることを示唆する記載はない上,・・甲6ないし8の記載によれば,一般に,銀行センタ側に備え付けられる元帳ファイルに利用者の口座の残額が記録されると認められるから,・・元帳ファイルの「残高」が真の残高であると考えざるを得ない、と判断された。

 

 

以上


   (本発明の機能ブロック図)

     

 

 

 

    (引用文献1の構成)