引用文献に明示がなくとも、引用文献から十分に示唆されている場合には、一致点の認定にあやまりはないとされ、また、原告の主張が特許請求の範囲の記載に基づかないものと認定されて、その結果、審決が維持された事例(請求棄却)

 判決日H1783、知財高裁、平成17年(行ケ)第10203号、特許権、拒絶審決取消請求事件、「売買注文自動発注システム及び売買注文自動発注方法」事件

 

審決の概要

 本件発明(特願平12-277623 補正後の請求項1発明)は、引用文献1(特開昭61-86867)及び特開平9-282376の発明に基づいて、292項により出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして、補正却下され、補正前の発明についても、292項の規定により特許を受けることができないとして拒絶審決された。

 

審決取消事由

1 取消事由1(引用発明認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)

 審決は,引用例1に「前記ホストコンピュータが,前記ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて前記売買注文を発注する」という構成が開示されていないのに,これが開示されていると誤った認定をし,これを前提に,「前記発注執行手段が,前記売買注文記憶手段に記憶された注文伝票の内容に基づいて前記売買注文を発注すること」が本願補正発明と引用発明との一致点であると誤認して,かかる部分が相違点であることを看過したものである。・・・この第1の動作及び第3の動作においては「注文レコード」について明示されているものの,第2の動作においては「注文レコード」には一切言及されておらず,注文メッセージを市場に送信する第2の動作において「ファイルに記憶された注文レコードのデータに基づいて発注する」ことは一切記載されていない。

 

2 取消事由2(一致点認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)

 審決は,引用発明における「指値」が本願補正発明の「発注条件」に相当するとして,「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」である点を本願補正発明と引用発明との一致点であると誤って認定したことにより,この点についての相違点を看過したものである。

 

裁判所の判断

1、取消事由1

(1)1 取消事由1(引用発明認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)について

 ・・しかしながら,引用例1(甲2号証の2)には,「前記ホストコンピュータは,前記端末装置から伝送された注文データに基づいて受注処理をする手段と,前記受注処理手段の受注処理に応答して,株式売買の承認メッセージを前記端末装置に伝送する手段とを備える・・・・。」(1頁左欄16行〜右欄1行),「証券会社2のホストコンピュータは注文メッセージを受信すると,ファイル(磁気ディスク装置)上に,株式売買注文レコードを書込み,上述のCAT10に売買注文の承認のメッセージを伝送する。CAT10はメッセージを受信すると注文伝票を印字して発行する。証券会社2のホストコンピュータは証券取引所4内に設置された市場端末装置に対して,売買注文のメッセージを送信する。・・・」(3頁左上欄8行〜16行)との記載があり,これによると,引用発明においては,ホストコンピュータに売買注文についての注文レコードを記憶するファイルがあることを前提として,端末装置から伝送された注文データに基づいて受注処理をする構成が含まれており,かかる処理をした上で,注文データが市場に送信されることとなっていると理解することができる。

 注文を受け付けてから送信するまでの間に,ホストコンピュータ内では受注処理という作業が行われ,その間,データの記憶が保持されていなくてはならないのであり,このような構成を前提とすれば,引用発明において,注文は,ホストコンピュータ内の記憶するファイルに記憶された上で,ここから市場端末装置に送信されるものであると解するのが最も自然である。

 

イ また,原告も主張するように,投資者が株式を売買するためには,投資者が証券会社に対して株式売買の委託注文を出し,当該投資者(顧客)の委託注文を受けた証券会社が自己の名をもって証券取引所に対して株式の売買注文を出すという2つの手順を踏むことになる。そして,証券取引所における取引に参加できる者は一定の証券会社に限られている(甲9,10号証)。

 そうだとすれば,原告が主張する引用例1の第1の動作(証券会社が顧客から売買注文を受信し,受信した注文メッセージに関する注文伝票を顧客端末で印字する動作)と,第2の動作(証券会社が証券取引所の市場端末装置に対して売買注文のメッセージを送信する動作)とでは,注文者名が異なることになるから,第1の動作により顧客から受信した売買注文メッセージをそのままの形で証券取引所へ送信することは通常考えられず,少なくとも注文者名を変更する必要性があることは明らかであり,そのためには,顧客からの注文メッセージはホストコンピュータにおいて何らかの形で記憶され(この記憶に際してファイル(磁気ディスク装置)を利用すること自体は,慣用手段に過ぎないことは明らかである。),そこで必要なデータ変換等を経て証券取引所へ送信されるものと捉えることが合理的である。

 以上からすると,「証券会社のホストコンピュータが,ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて前記売買注文を発注すること」という構成は,引用例1の記載から十分に示唆されているということができ,引用例1に接した当業者であれば,そこから上記構成の点も理解し得るものである。

 

2 取消事由2(一致点認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)について

(1) 原告は,「指値」において指定される条件は,価格を基準とする「約定の条件」であって,「発注についての条件」を指定するものではないと主張する。しかしながら,本願補正発明においては,発注条件をトリガとして設定するものであるところ,本願明細書には,「トリガ項目としては上述の「価格」,「時間」等のほか,「出来高」,「約定」等のいろいろな条件をトリガ項目として設定することができる。」(甲1号証6頁10欄30〜33行),「前記発注条件には,前記取引市場における取引価格,前記取引市場における出来高,時間,売買注文の約定の少なくとも一つに関する条件が含まれており・・・・」(甲6号証の2【請求項2】,本件補正前の【請求項3】(甲4号証))との記載があり,これらによれば,「約定の条件」が「発注条件」に含まれていることが明らかである

 また,「指値」とは,一般に,「客が取引所や一般市場で売買注文をする場合に指定する希望の値段,指定値段」(広辞苑第5版)を意味するものであり,通常の用法として,「指値」が発注の際に付される条件,すなわち発注条件であることを否定することはできない。

 したがって,「指値」は「発注条件」に含まれない旨の原告の上記主張は採用することができない。

(2) しかしながら,本願補正発明においては,請求項1に「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」「前記売買注文に付された発注条件」「発注条件を付した売買注文」というように,発注条件は売買注文に付されるものとして特定されていることが明らかである。そして,「売買注文を取引市場に発注する・・・・」とあることから,「売買注文」には取引市場すなわち証券取引所に対するものを含んでおり,顧客から証券会社への注文に付される条件に限られるものではないことが明らかである。したがって,この「発注条件」には,「取引市場に発注」される売買注文に付される条件,すなわち売買注文のための条件を含むと解するのが相当であり,株式をいくらで売り,いくらで買うといった「指値」を含むものであるというべきである。

 原告は,本願補正発明の「発注条件」は売買注文の発注のタイミングについて設定した様々な条件を意味するもので,引用例1の「指値」と異なる旨主張しているが,本願補正発明の特許請求の範囲には,単に「発注条件」という記載があるだけであり,また,上記のとおり「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する」と記載されていることに照らしても,その「発注条件」を原告主張のような条件のみを意味するものと限定して解釈することはできないといわざるを得ない。

 したがって,本願補正発明の発注条件に関する原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものといわざるを得ず,これを採用することはできない。

 

 

以上