訂正請求が認められ、17条2項違反、36条4,5項違反の認定が誤りであると判断され、特許取消決定が取り消された事例(請求認容) 判決日H171013、知財高裁、平成17年(行ケ)第10348号、特許権、特許取消決定取消請求事件、「文字情報と地図画像の合成方法及びデータベース機能向上支援システム」事件

 

1.手続きの経緯

 (1) 平成14年7月12日,特許第3327881号(分割され、一部補正)

 (2) 特許異議の申立てがされ(異議2003−70737号事件),特許請求の範囲等の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求し,同年9月21日付け手続補正書により本件訂正に係る請求書の補正をした。
 (3) 特許庁は,平成16年10月1日,「特許第3327881号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。」との決定をした。

2.特許取消決定の事由

1、訂正請求に対する補正の適否

(1)新規事項の有無か及び拡張・変更の存否

→「訂正事項を検討すると、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められず誤記の訂正、明瞭な記載の釈明にはならない」と判断された。特許法120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書き及び2項の規定に適合しないので,本件訂正は認められない。

(2)17条違反

→「請求項1,3,4に係る発明は,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法17条2項の規定する要件を満たしていない補正をしたものである。また,請求項2,5,6に係る発明は,それぞれ請求項1,3,4を引用しているので,結局これらのものも,特許法17条2項の規定する要件を満たしていない補正をしたものである。」

(3)36条違反

→「請求項1,2,3,4に係る発明は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく,また,発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるとも認められない。さらに,発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に構成を記載したものとも認められない,さらに,請求項5,6も請求項1乃至4を引用しているので,結局,請求項1ないし6に係る発明に対する特許は,特許法36条4項,5項に規定する要件を満たしていないものである。」

 

3.裁判所の判断

1、訂正請求の補正の適否

(1)「・・入力された文字情報を検索キーとして検索をするのは,文字情報記憶部42に登録されている文字情報群であり,管理テーブルは,検索キーが登録されている(登録済みキーと一致する)ときに,これに対応する図形情報を図形情報記憶部41から読み込む際に参照されるものであるということができる。そうであれば,請求項1の「(b)・・・記憶する管理テーブルに登録する」,「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記管理テーブルに登録された文字情報群」との記載は,それぞれ「(b)・・・文字情報記憶部に登録する」,「(c)入力された文字情報を検索キーとして前記文字情報記憶部に登録された文字情報群」の誤記であると認められる・・。したがって,訂正事項1は,誤記の訂正を目的とするものであるということができる。」

(2)「・・・必ずしも,検索コマンドの指示と一連の操作である必要はないと解される。「【図10】本発明における文字情報の登録方法の第2の例を説明するための図である。」と記載されていて,図10に示される方法が文字情報の登録に用いられることが明記されていることを併せ考えると,段落【0027】に記載される,ユーザデータベースD1から検索キーとなる文字情報を抽出してテキストファイルTX1に出力することを,検索のみに用いられるものではないと解したとしても,矛盾はない。・・エ そうであれば,補正明細書に,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていないとはいえない。」

2、17条違反

(1)当初明細書の段落【0027】,【0028】の記載及び図面の簡単な説明における【図10】の記載は,補正明細書のそれと同一であり,上記1(2)に判示したところに照らせば,当初明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することが記載されていないとはいえないから,請求項1に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものである。

 (2)請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,当該対象物に対して,文字情報とイメージ情報とを共に登録できることを意味するものである。ところで,当初明細書の発明の詳細な説明の「なお,上述した実施例においては,文字情報を関連情報として付加する場合を例として挙げたが,任意のマーク等のイメージ情報,或いは色情報などを関連情報として指定することも可能である。また,背景画像となる図形は任意であって,地図に限るものでない。」(段落【0033】)との記載は,上記のように,文字情報とイメージ情報を共に登録できることを前提にした記載であるというべきであり,少なくとも,文字情報に合わせてイメージ情報を付加できることを排除するものではないから,そこの記載からは,イメージ情報が付加されるときに文字情報が排除されるとまでは読むことができない。 したがって,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,当初明細書に記載されているのであって,請求項3に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。

 (3) 請求項4について 当初明細書には,「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては,図形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持っている情報を利用することができなかった。」(段落【0006】),「本発明の目的は,地図,設計図,各種構造物の構造図などの図形・画像の任意の位置に対して,利用者の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる文字情報と画像の合成方法及びその装置を提供することにある。」(段落【0007】)と記載されている。これらの記載によれば,請求項1の「地図画像が格納された電子地図情報システム」には,ナビゲーション・システムも含まれると解されるところ,請求項4は,地図画像が格納された電子地図情報システムについて,「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」,すなわち,ナビゲーション・システムに限定したものであるから,請求項4に係る発明は,当初明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができる。 したがって,請求項4の「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」は,当初明細書に記載されているのであって,請求項4に係る発明については,当初明細書に記載した事項の範囲内において補正をしたものであるから,決定の判断は誤りである。

3.36条違反

(1) 請求項1について(特許法36条5項違反) 上記1(2)に判示したように,補正明細書の発明の詳細な説明には,「既存のデータベースから抽出した文字情報群から成るテキスト形式のファイルを入力し」て登録することについて記載されていないとはいえないから,請求項1の構成要件であるステップ(b)に関する事項は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されているものである。

 (2) 請求項2について(特許法36条5項違反) 請求項2は,請求項1を引用しているところ,上記アのとおり,請求項1についての決定の判断は誤りであるから,請求項2についての決定の判断も誤りであるといわなければならない。

 (3) 請求項1,2について(特許法36条4項違反) 補正明細書の発明の詳細な説明には,上記アのとおり,請求項1の構成要件である(b)に関する事項が記載されているということができるから,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその発明をすることができる程度に,その発明の構成が記載されているものである。

 (4) 請求項3について(特許法36条5項違反) 補正明細書の段落【0021】,【0033】の記載は,当初補正明細書のそれと同一であり,上記2(2)に判示したところに照らせば,請求項3の「文字情報と共に利用者のイメージ情報を当該対象物に関連情報として付加できる」との記載は,補正明細書に記載されているということができる。

 (5) 請求項4について(特許法36条5項違反) 補正明細書には,「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の地図情報システム,FM,ナビゲーション・システムなどの情報検索システムにおいては,図形・画像に関連する属性情報や検索キーは予め設定されており,利用者が持っている情報を利用することができなかった。」(段落【0006】),「本発明の目的は,地図画像の任意の位置に対して,利用者が所有する既存の各種データベースの情報を関連づけて付加することができる文字情報と地図画像の合成方法及びデータベース機能向上支援システムを提供することにある。」(段落【0007】)と記載されている。これらの記載によれば,請求項1の「地図画像が格納された電子地図情報システム」には,ナビゲーション・システムも含まれると解されるところ,請求項4は,地図画像が格納された電子地図情報システムについて,「受信した移動体の位置情報に基づき当該移動体の位置を地図の画像上に表示するシステム」,すなわち,ナビゲーション・システムに限定したものであるから,請求項4に係る発明は,補正明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができる。