訂正審判において、訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でなく(法36条5項及び6項)、特許出願の際独立して特許を受けることができないとされた審決の判断に誤りがあるとされ、訂正拒絶審決が取り消された事例(請求認容) 判決日H171220、知財高裁、平成17年(行ケ)第1010451号、特許権、訂正拒絶審決取消請求事件、「画像形成装置」事件

 

1.手続きの経緯

(1)平成15516日,特許第3429744号(特願平4-209355号から分割された、特願2000-389649号)

(2)特許異議の申立てがされ(異議2003-73205号事件),『訂正を認める。特許第3429744号の請求項1,2に係る特許を取り消す』と決定。

(3)特許取消決定の取消訴訟係属中に、訂正審判(訂正2005-39003号事件)を請求。請求項1を下記のように訂正し、請求項2を削除。

(4)平成17329日、『本件審判の請求は、成り立たない』との審決。本件は、これに対する審決取消訴訟。

 

2.訂正後の請求項1

(1)訂正前

『画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段と,
 前記2次元ビットマップ情報と入力画像信号とを重畳する重畳手段と,
 前記重畳手段からの信号に基づき記録媒体上に画像を形成する手段とを有する画像形成装置。

 

(2)訂正後

『画像形成に用いた画像形成装置を特定するために,少なくとも画像形成装置ごとに割り当てられた情報を含んだ符号化パターンである2次元ビットマップ情報を該装置内で発生する手段と,
 選択的に,入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する付加手段と,
 前記付加手段からの信号に基づき記録媒体上に画像を形成する手段とを有し,
 前記付加手段は,
 a)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加する場合,前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,
 b)前記入力画像信号に前記2次元ビットマップ情報を付加しない場合,前記入力画像信号をそのまま出力する,
 ことを特徴とする画像形成装置。』

 

3.審決の理由の概要

(1)特許法第36条第5項及び6項について
 ア「符号化パターンの一部を付加した信号」がどのようなものか,請求項1の記載においては「符号化パターン」がどのようなものか具体的に特定されていないため,明確でない。また仮に,「符号化パターン」が発明の詳細な説明に記載されたようにバーコードであるとしても,その「一部」がバーコードのどの部分のことか明確でない。
 イ 特許請求の範囲のa)の記載に関して,仮に「符号化パターンの一部を付加した信号」がどのようなものか明確であるとしても,「入力画像信号」に「符号化パターンの一部を付加した信号」を出力するとはどのようなことか明確でない。信号に別の信号を出力するとはどのような処理を行うことか不明である。「入力画像信号」に符号化パターンの一部を「付加しない信号」を出力することも明確でない。

 

4.審決取消事由

(1)審決は,「バーコードの一部がバーコードとして検出されるためには,バーの幅だけではなくその間隔である地の部分も構成部分として含まれていなければならないが,そうすると上記a)の処理では,バーコードが表す情報が全部は付加されず,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が適切に付加されないことになる。」と認定判断した。しかし,・・紙にバーコードを印刷する場合には,地の部分などを印刷しなくても,黒の部分を印刷すれば足りるのであって,実際の処理において,入力画像に符号化パターンを入れようとすれば,当然に,その符号化パターンを顕在化させる部分(バーコードでいえば黒の部分)を付加すれば足りる。そして,a)の処理は,まさに,この処理を具体的に記述したに過ぎない。

(2)審決は,「発明の詳細な説明には,「【0017】・・・さらに本実施例では,再生画像に付加する情報はシリアルナンバーを数字そのもので付与しているが,バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」と記載されているだけで,その一部がどのような部分であるのか示されていない。」と認定判断した。しかし・・バーコードでいえば,黒の部分を符号化パターンの一部として入力画像信号に付加するものである。処理が領域ごとに進行することは,「局所的に切り替えて出力する」という動作からみても明らかであるし,・・,そのような処理の結果として,a)の処理では,最終的に「前記2次元ビットマップ情報を示す前記符号化パターンを前記入力画像信号に付加し,」という処理が完了する。逆に言えば,このような処理を実行するために,「入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力する」のである。したがって,符号化パターンの一部がどのような部分であるか示されているということができるから,審決の認定判断は誤りである。

(3)審決は,「「2次元ビットマップ情報」が2値の情報であれば,どちらの値の情報も必要なものであるから,「前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって」とすることが,「符号化パターンである2次元ビットマップ情報」のすべての部分を付加することを意図したものであれば,その記載は明確でないといわざるをえない。」と認定判断した。しかし,2次元ビットマップ情報は,例えば,「0」と「1」の二次元的な集合体と把握することができ・・,符号化パターンの一部を「1」とし,それ以外を「0」とすれば,「1」の部分だけ,特殊な処理(実施例では,縞模様を傾ける処理)をして出力し,「0」の部分は,何もせずに入力画像信号をそのまま出力すれば,結果として,符号化パターンが入力画像に付加される・・。符号化パターンは,「2次元ビットマップ情報」として,生成されるにすぎない。そして,「前記符号化パターンの一部を付加した信号」とは,本件発明の図6の縞模様が斜めになっている領域の信号をいい,「付加しない信号」とは,本件発明の図5の縞模様が斜めになっていない領域の信号をいい,「局所的に切り替えて出力することによって」とは,そうした領域ごとの切替えを行うことにより,符号化パターンが入力画像信号に入ることをいうのであって,当業者であれば,ごく素直にそのように理解することができるのである。したがって,審決の認定判断は誤りである。

 

5.裁判所の判断

1、請求項1の記載の明確性について

 ・・「符号化パターン」がバーコードである場合においては,上記a)の処理により,最終的に,バーコードが表す情報の全部が付加され,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が付加される。そして,「符号化パターンの一部」は,「2次元ビットマップ情報」の黒画素であるということができるから,審決が,「上記a)の処理では,バーコードが表す情報が全部は付加されず,「画像形成装置ごとに割り当てられた情報」が適切に付加されないことになる。」,「発明の詳細な説明には,「【0017】・・・さらに本実施例では,再生画像に付加する情報はシリアルナンバーを数字そのもので付与しているが,バーコードなどの符号化パターンにしてもよい。」と記載されているだけで,その一部がどのような部分であるのか示されていない。」として,「訂正明細書の特許請求の範囲の記載は明確でない」と判断したのは誤りであり,また,「「前記入力画像信号に前記符号化パターンの一部を付加した信号と付加しない信号とを局所的に切り替えて出力することによって」とすることが,「符号化パターンである2次元ビットマップ情報」のすべての部分を付加することを意図したものであれば,その記載は明確でないといわざるをえない。」と判断したのも誤りである。

 

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F9166902007EA9BF492570DE000C65FE.pdf