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令和元年(行ケ)第10124号「ウエハ検査装置」事件

名称:「ウエハ検査装置」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和元年(行ケ)第10124号 判決日:令和2年8月4日
判決:決定取消
特許法29条2項
キーワード:周知技術、動機付け
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/619/089619_hanrei.pdf
[概要]
 相違点に係る構成は、副引用例に記載されておらず、周知技術であったと認めるに足りる証拠もなく、主引用発明において相違点に係る構成を採用することの動機付けも見いだせないとして、本件発明は、当業者が容易に発明をすることができたものではないとされた事例。
[事件の経緯]
 原告は、特許第6283760号の特許権者である。
 当該特許について、特許異議の申立て(異議2018-700690号)がされ、原告は、訂正請求を請求したところ、被告は、訂正を認めた上で当該特許を取り消したため、原告は、その取り消しを求めた。
 知財高裁は、原告の請求を認容し、決定を取り消した。
[本件発明](「/」は原文の改行部分)
【請求項1】
 ローダと整備空間との間に配置された複数の検査室であって、半導体デバイスが形成されたウエハの検査の際に用いられる被整備テストヘッドと、前記被整備テストヘッドを前記整備空間側に引き出すスライドレールと、を備えた複数の検査室と、/ウエハを搬送先の検査室内に搬送する前記ローダと、を備え、/前記被整備テストヘッドを引き出す整備空間側と前記ウエハを搬送するローダ側とが前記複数の検査室が配置されたセルタワーの反対側であることを特徴とするウエハ検査装置。
[決定の理由]
 相違点1:本件発明1は、「複数の検査室」が、「前記被整備テストヘッドを前記整備空間側に引き出すスライドレール」を備え、「被整備テストヘッド」を引き出すものであるのに対し、引用発明は、「複数の収容室172のそれぞれには、」「メンテナンスカバー192が設けられ、当該メンテナンスカバー192の外側には、前記プローブカード300を引き出した場合に当該プローブカード300を支持するガイドレール193が設けられ」、「プローブカード300」を引き出しているものの、「テストヘッド200」を引き出すものではなく、「テストヘッド200」を「整備空間側に引き出すスライドレール」も備えていない点。
 甲2文献(副引用例)によれば、メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること、その際に、スライドレールにより引き出す構成とすることは周知技術である。このことは、乙1にテストヘッドをレールにより水平移動(引出)する構成とすること、乙2及び3に、テストヘッドをレールにより水平移動(引出)してメンテナンスすることが記載されていることからも裏付けられる。
 また、乙3にも記載があるとおり、テストヘッドを引き出した方が作業性に優れることは自明であるから、メンテナンスの対象物をスライドレールにより引き出してメンテナンスを行う方が、作業が容易であることを動機付けとして、引用発明において、テストヘッド200を収容室172から引き出し、その際にスライドレールにより引き出す構成を採用することは容易に想到できたといえる。
 したがって、当業者が、引用発明において、相違点1に係る本件発明の構成を採用することは容易に想到することができたといえる。
[取消事由]
 引用例に基づく進歩性判断の誤り
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『(2) 相違点1について
 ・・・(略)・・・
 イ 容易想到性
 上記アによれば、甲2文献及び乙1~3には、相違点1に係る構成(検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え、テストヘッドを引き出す構成)の記載はなく、本件証拠上、他に上記構成が記載された文献はない。そうすると、引用発明に甲2文献及び乙1~3に記載された事項を組み合わせても、本件発明の構成には到らない。
 したがって、当業者において、引用発明に甲2文献及び乙1~3に記載された事項を組み合わせて、相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたということはできない。
 ウ 被告の主張について
 (ア) 被告は、甲2文献や乙1~3の記載によれば、メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること、また、その際に、スライドレールにより引き出す構成とすることは周知技術であると主張する。
 前記(1)ア及び上記ア(ア)のとおり、引用例及び甲2文献には、プローブ装置において、メンテナンスの際に検査室からプローブカードを引き出すこと及びその際ガイドレールに沿って引き出す構成とすることの記載があるしかし、本件原出願の当時、テストヘッドの重量は25kgから300kgを超えるものが知られ(本件明細書【0022】、甲5【0003】・【0043】、甲6【0014】、甲7、乙3【0005】)、テストヘッドとプローブカードとは重量や大きさにおいて相違することは明らかである。したがって、プローブカードに関する上記記載から、テストヘッドを含むメンテナンスの対象物一般について、メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること、また、その際に、スライドレールにより引き出す構成とすることが周知技術であったということはできない
 また、乙1~3には、検査室に収容されたテストヘッドの構成は開示されておらず、テストヘッドを引き出すものではないから、被告の主張する周知技術を裏付けるものではない。
 以上によれば、被告の主張する各文献の記載から、メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること、また、その際に、スライドレールにより引き出す構成とすることが周知技術であったということはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
 (イ) 被告は、乙3(【0024】)にも記載があるとおり、テストヘッドを引き出した方が作業性に優れることは自明であるから、メンテナンスの対象物をスライドレールにより引き出してメンテナンスを行う方が、作業が容易であることを動機付けとして、引用発明において、相違点1に係る構成を想到することは容易であると主張する。
 しかし、前記ア(イ)cのとおり、乙3はテストヘッドが検査室に収容されたプローブ装置を開示するものではなく、同段落の「超重量級のテストヘッドであってもテストヘッド4を安全且つ円滑に反転させ、前後、上下に移動させることができ、テストヘッド4をメンテナンス等の作業性に優れた位置へ移動させることができる。」との記載から、テストヘッドを引き出した方が作業性に優れていることを読み取ることはできない。
 また、引用例には、①試験対象の仕様及び試験内容に応じて行うピンエレクトロニクスの交換や、その他のテストヘッドのメンテナンスは収容室の背面扉を開けて行うこと(【0029】、【0036】、【0063】、【0080】、【0085】)、②レイアウトの異なるウエハに対応するためのプローブカードの交換や、その他のプローブカードのメンテナンスは収容室のメンテナンスカバーを開けて行い、プローブカードは収容室の外部に引き出すことができること(【0028】、【0029】、【0030】、【0037】、【0080】、【0085】)、③背面扉はテストヘッドのメンテナンスが容易な位置に配置され、メンテナンスカバーはプローブカードのメンテナンスが容易な位置に配されていること(【0029】)が記載されている。
 このように、引用発明においては、テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開けて行うものとされ、背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されているのであるから、検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え、テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない
 (ウ) 以上によれば、被告の主張は採用できない。
 ・・・(略)・・・
 (4) 小括
 よって、その余の点を判断するまでもなく、本件発明は、引用発明及び甲2文献等に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。したがって、本件決定の判断には誤りがあり、取消事由は理由がある。』
[コメント]
 甲2文献(副引用例)において、プローブカードを交換する際に、プローブカードをガイドレールに沿って引き出すことは記載されていたが、テストヘッドの交換については、テストヘッドをプローブ装置本体から分離して上昇させて移動させるものであった。
 特許庁は、甲2文献によれば、メンテナンスの対象物を引き出してメンテナンスをすること、
その際に、スライドレール(ガイドレール)により引き出す構成とすることは周知技術である、と認定した。すなわち、ガイドレールに沿って引き出される物として、甲2文献にはプローブカードしか記載されていなかったが、テストヘッドを含むよう上位概念化した「メンテナンスの対象物」として認定したようである。
 引用発明の認定において、引用例が下位概念で発明を表現している場合に、上位概念で表現された発明を引用発明として認定することができる(特許・実用新案審査基準第III部第2章第3節3.2を参考)。しかし、周知技術の認定においては、上位概念化が当然に認められるものではない(平成22年(行ケ)第10351号「臭気中和化および液体吸収性廃棄物袋」事件等)。本件において、裁判所は、テストヘッドとプローブカードとが重量や大きさにおいて相違することから、上記の上位概念化を認めなかった。
 さらに、裁判所は、主引用例においては、テストヘッドのメンテナンスは背面扉を開けて行うものとされ、その背面扉はメンテナンスを行うのに容易な位置に配置されているため、検査室が整備空間側にテストヘッドを引き出すスライドレールを備え、テストヘッドを引き出す構成を採用することの動機付けは見いだせない、として進歩性を肯定した。本判決は、進歩性の判断において動機付けを重視する昨今の判決の傾向に合致していると思われる。

以上
(担当弁理士:吉田 秀幸)

令和元年(行ケ)第10124号「ウエハ検査装置」事件

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