IP case studies判例研究

平成29年(行ケ)10061号「液体因子VII透明組成物のウイルス濾過」事件

名称:「液体因子VII透明組成物のウイルス濾過」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)10061号 判決日:平成30年6月7日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:進歩性、動機付け
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/805/087805_hanrei.pdf
[概要]
界面活性剤による不活性化処理(工程a)とナノ濾過(工程b)の両者を組み合わせる、活性化形態を50%以上含む液体因子VII組成物からウイルスを除去するための方法の発明について、工程aとbの両者を含むこと、活性化ポリペプチドについての特定等の明示がない甲1文献を主引例として、複数の副引例を組み合わせて、容易想到と判断された審決を維持した事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第4874806号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2015-800114号)を請求し、その審理の過程で、原告は、訂正の請求を行った(請求項1ないし17)。特許庁は、訂正については認め、請求成立(特許無効)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明1]
液体因子VII組成物からウイルスを除去するための方法であって、前記組成物が一以上の因子VIIポリペプチドを含み、前記一以上の因子VIIポリペプチドのうち少なくとも50%が活性化された形態であり、前記液体組成物中の因子VIIポリペプチドの濃度が、0.01~5mg/mLの範囲であり、前記方法が、下記の工程(a)と工程(b)を任意の順序で含む方法。
(a)前記組成物と界面活性剤とを組み合わせる工程を含む方法によってウイルスを不活性化する工程;および
(b)最大80nmの細孔サイズを有するナノフィルターを使用するナノ濾過を前記液体因子VII組成物溶液に対して行うことを含む方法によって、
ウイルスを除去する工程。
[審決]
甲1及び甲3(及び甲5)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。
(無効理由2-1)
[取消事由]
1 取消事由1(進歩性に関する認定の誤り(引用発明の認定の誤り)
2 取消事由2(甲1を主引例、甲3(及び甲13)を副引例とする容易想到性の判断の誤り等)
3 取消事由3(顕著な効果の看過)
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
取消事由2について
『ア 相違点1について
相違点1として認定したとおり、甲1文献には、界面活性剤による不活性化処理(訂正発明1の工程(a))、ナノ濾過(同工程(b))の両者を組み合わせることは開示されていない。
しかし、甲1文献には、血漿製品製造プロセスにウイルスの不活性化及び除去のための2種の異なる工程を組み込むことが推奨されており、開示されている(前記2(2)ア(イ))。そして、本件優先日当時、甲3文献(上記(2))に示されるように因子VII組成物についてナノ濾過が適用されることに加え、ナノ濾過は血漿由来の医薬製剤組成物を含む広範なタンパク質からその完全性を維持したままでウイルスを除去するための慣用の手段であったことが認められること(甲4、20、21等)に鑑みれば、甲1発明において、界面活性剤処理とナノ濾過を組み合わせて因子VIIa組成物のウイルス不活性化/除去のための工程とすることについての動機付けはあるものと認められる。
イ 相違点2について
相違点2として認定したとおり、訂正発明1においては、ウイルスを除去する因子 VII ポリペプチドが「少なくとも50%が活性化された形態」として特定されているのに対し、甲1発明には、この点に関する特定はない。
しかし、因子VIIが製剤として提供される場合の形態が活性化された因子VIIaであること(甲1、2)に鑑みれば、製品の総量中に活性化因子を高い濃度で含有する組成物を提供することは、当業者に周知の技術的課題であったということができる。
そして、例えば、甲5文献からは、活性化率50%以上の因子VII組成物が精製工程(4回のクロマトグラフィー処理)を経て得られることが把握できること(例えば図9)、甲13文献には、約43分で当初の一本鎖因子VIIの50%が二本鎖因子VII(すなわち活性化因子)に変換される旨開示されていること(9333頁左欄下から14行~右欄14行)、前記のとおり、ナノ濾過は血漿由来の医薬製剤等のタンパク質の完全性を維持したままでウイルスを除去するための慣用の手段であることも踏まえれば、「因子VIIポリペプチドのうち少なくとも50%が活性化された形態」がナノ濾過の対象となり得ることは、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。
ウ 相違点3について
甲3文献によれば、ウイルス除去のためナノ濾過した因子VII画分22リットル中、因子VII収量は約4.5gであることから、その濃度は約0.20mg/mlとなる。ナノ濾過前の因子VIIの濃度もこの近傍であると考えるのが合理的であるところ、この濃度は訂正発明1に係る「因子VIIポリペプチドの濃度が、0.01~5mg/mLの範囲」に含まれる。そうすると、甲1発明におけるナノ濾過に供する因子VIIの濃度を「0.01~5mg/mLの範囲」に含まれるものとすることは、当業者であれば容易になし得るものと認められる。
エ 相違点4について
甲3文献において、因子VII画分をウイルス除去のためナノ濾過するに当たり、BMM-15なるナノフィルターを使用すること、このBMM-15の細孔径は15nmであることが、それぞれ開示されている。また、甲4文献には、ナノ濾過は、「非常に小さい細孔サイズ(典型的には15~40nm)を通してタンパク質溶液を濾過することからなる」製造工程であり、「本質的にあらゆる血漿生成物に適用し得る、着実で信頼性の高いウイルス減少技術である」旨記載されている。そうすると、甲1発明において、ナノ濾過に用いるナノフィルターとして甲3文献又は甲4文献に記載されるような細孔径が80nmに満たないものを採用し、訂正発明1及び2の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得ると認められる。』
取消事由3について
『本件訂正発明におけるナノ濾過による分解率の増加分である「0.4%」の大小を直接評価し得る証拠は見当たらないものの、ナノ濾過が血漿由来の医薬製剤組成物を含む広範なタンパク質の完全性を維持したままでウイルスを除去するための手段として周知であること(甲4、20、21等)に鑑みれば、当業者にとって、ナノ濾過により分解率が大きく増加しないことは予測し得るところである。また、本件明細書の実施例において示された因子VIIaの分解率の数値(約12%)それ自体は、甲3文献又は甲5文献に示されたものと比較して、格別優れたものとまでは認めることはできず、むしろ、通常の因子VIIaの活性化や精製処理に供される因子VII組成物に含まれる分解生成物とほぼ同等の量のものにすぎないと見られる。
そうすると、本件明細書に示された本件訂正発明による効果は格別顕著なものということはできない。』
[コメント]
ウイルス除去の処理に供する液体因子VII組成物のうち、活性化された形態の割合は、特許審決時の「少なくとも10%」から「少なくとも50%」に引き上げる訂正がされ、認められている。本判決で、原告の主張を見ると、活性化された形態を少なくとも50%含む組成物をナノ濾過工程に供する点を発明の最大の特徴点と位置付けているようである。そして、この点は、主引例にも副引例にも直接の記載はない。しかし、他の血液凝固因子の活性化形態をナノ濾過処理に供することが、慣用的な手段であるとの理由等によって、液体因子VIIの活性化形態についてもナノ濾過に供することが、当業者に容易想到とされた。
仮に、因子VIIと他の血液凝固因子との活性化形態の分解のし易さの違いなどがあれば、進歩性の判断に影響した可能性はあるが、そのような事情は、判決の内容を見る限りでは見出せない。
また、別途なんらかの追加的な手段によって、ナノ濾過工程に供しても分解を防ぎ得るというような特徴がない限り、進歩性が認められることは難しいケースと考えられるという意見が弊所裁判例研究会では出された。
以上
(担当弁理士:高山 周子)

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