IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)第10236号 「車両用指針装置」事件

名称:「車両用指針装置」事件
審決取消請求事件
知財高裁:判決日27年6月16日、平成26年(行ケ)第10236号
(前訴判決:平成25年(行ケ)第10154号)
判決:請求認容
キーワード:訂正の適否(新規事項追加)、周知技術認定の誤り
[概要]
無効審判において訂正請求が認められなかった請求項1に係る発明の訂正が認められ、また、請求項1
~3に係る発明(以下「訂正発明1~3」という)の進歩性が認められた事案である。
[訂正発明](※請求項1のみ示す)
【請求項1】
「目盛り板(20)と,この目盛り板上にて指示表示する指針(30)と,前記目盛り板を光により照射
する照射手段(50)とを備えた車両用指針装置において,
車両のキースイッチ(IG)のオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を,前記キースイッチの
オン状態の当該目盛り板照射手段の照射光の初期輝度から徐々に低下させるように制御し,
前記キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々に低下している状態で前記キ
ースイッチがオンされると,前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチがオンされるタイ
ミングで零にし,このキースイッチがオンされるタイミングから遅延させて前記目盛り板照射手段の輝度
を前記初期輝度に戻すように制御する制御手段(112,112A,113,113A,121乃至12
4,130,130A)を備えることを特徴とする車両用指針装置。
[審決]
(1)本件訂正後の請求項1及び4において,「目盛り板照射手段」の輝度を,キースイッチのオンから
遅延させて初期輝度に戻す制御を追加する訂正は,・・不適法である。
(2)訂正発明1及び2は,引用発明,周知技術1,公知技術1及び周知技術2に基づいて,訂正発明3
は,引用発明,周知技術1,公知技術1,公知技術2及び周知技術2に基づいて,当業者が容易に発明を
することができたものである。
(3)審決は、「照明装置を用いた意匠演出において,複数の照明灯についてタイミングをずらして消点
灯ないし減増光して一定の演出効果が得られることはありふれたことであるから,ブラックアウト効果と
いう意匠演出を保ちつつ,観者に対する違和感の払拭という心理的効果を目指した引用発明において,い
っそうの意匠演出ないし良好な心理的効果を観者に与えるべく,引用発明の車両用計器の目盛板照明装置
3及び指針照明装置5に対して,周知技術1及び2並びに公知技術2のような,タイミングをずらして消
点灯ないし減増光する構成を合わせて採用することは,当業者が容易にできることである。また,車両用
計器において公知技術1及び2が存在することを考慮すると,車両用照明のタイミングをずらして消点灯
ないし減増光する構成を採用することに,技術的困難性はない。」と判断した。
[裁判所の判断]
1.訂正発明1の新規事項追加の有無について
訂正事項aは,「キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々に低下してい
る状態で前記キースイッチがオンされると,前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイッチが
オンされるタイミングで零にし,このキースイッチがオンされるタイミングから遅延させて前記目盛り板
照射手段の輝度を前記初期輝度に戻すように制御する」ことであって、照射手段としては,目盛り板照射
手段のみを対象とする発明である。
明細書の【0021】には、発光素子31と光源50の両方が記載されているが、「指針照射手段を構
成に含まない本件発明1において,イグニッションスイッチのオンではなく,発光素子31の挙動に光源
50の挙動タイミングを合わせるべき技術的意義を示す記載はない。また、【0011】・・図3(駆動
回路)によれば,目盛り板の輝度制御を行う駆動回路90bと指針の輝度制御を行う駆動回路90aが個
別に制御されていることが明らか・・技術的に目盛り板の輝度制御が指針の輝度制御に連携して制御され
ているわけではない・・」とし、「図6の記載に触れた当業者は,図5において目盛り板照射手段の発光
輝度が徐々に低下するタイミングをイグニッションスイッチのオフにかからせたのと同様に,目盛り板照
射手段のみを対象とした本件発明1の構成において,同照射手段の発光輝度が徐々に低下している状態で
イグニッションスイッチIGがオンされた場合,これを契機として,光源50の発光輝度が零となり,そ
こからT2時間経過した後に,その輝度が初期輝度Aに戻ることを読み取るものと認められる」として、
訂正事項aは、図6の記載によって十分に裏付けられていると認められた。
2.訂正発明2の進歩性判断の誤りについて
判決は、「当業者が,「キースイッチのオフに伴い前記目盛り板照射手段の照射光の輝度が徐々に低下
している状態で前記キースイッチがオンされると,前記目盛り板照射手段の照射光の輝度を前記キースイ
ッチがオンされるタイミングで零にし」た構成を容易に想到するとは認め難い」と判断した。
(1)周知技術2の認定の誤りについて
甲9に対し、「・・車両のキースイッチをOFF位置からACC位置にすると計器用放電灯が点灯し,
その後,更にキースイッチをACC位置からON位置にすると指針用放電灯が点灯するという従来例にお
ける点灯順序と逆の実施例が開示されているものであるから,使用者に指針を鮮明に認識させるとの技術
的意義を読み取ることはできない」と判断した。
甲13に対し、「・・遅延手段を備えることで,目盛りや記号等の表示部分が発光していない時に指針
が発光するため,指針を鮮明に認識させて,使用者に高精度感を与えることが理解でき,審決が前記第2,
4(3)イ(エ)において「周知技術2」と認定した技術が記載されていると認められる」と指摘された。
しかしながら、「甲13からは,上記イの技術が読み取れるものの,証拠(乙1,2)を斟酌したとし
ても,当該技術事項が,車両用指針装置の技術分野において,当業者に一般に知られている技術であると
認めることはできない。上記アの甲9における従来技術の記載を併せて考慮したとしても,甲9の従来例
の目的や意義は明らかでなく,審決の認定した「周知技術2」を基礎付けるものとはなり得ない。したが
って,審決の認定した「周知技術2」が周知の技術であると認めることはできないから,これを周知の技
術であるとした審決の認定には誤りがある。」と判断した。
(2)「公知技術2」を組み合わせた場合の指摘
判決は、「仮に,周知技術2に代えて,指針の照明の消灯と計器板の照明の消灯とのタイミングをずら
すようにした公知技術2を考慮し,照明装置を用いた意匠演出において,複数の照明灯についてタイミン
グをずらして消点灯ないし減増光して一定の演出効果を得ることを併せて考慮したとしても,スイッチキ
ーのオン時に目盛り板照射手段の輝度をあえて零にする構成を容易に想到するとは認め難い。すなわち,
上記の各照明装置のタイミングをずらす演出について,スイッチがオンされれば,各照明装置の点灯のタ
イミングないし増光の程度を,スイッチがオフされた場合には,各照明装置の消灯のタイミングないし減
光の程度を,それぞれ制御することが想到可能な演出と考えられるとしても,これとは異なり,スイッチ
がオンされたにもかかわらず,そのオンのタイミングで発光輝度を零にして消灯するという構成が容易想
到とはいえず,また,本件における全証拠においても,キースイッチのオンされるタイミングで目盛り板
照射手段の輝度を零にして消灯する構成は記載されていない。」と判断した。
[コメント]
訂正事項(補正事項)が図面に頼らずに明細書の記載から疑義なく読みとれるように、明細書の作成を
することが重要である。

平成26年(行ケ)第10236号 「車両用指針装置」事件

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