IP case studies判例研究

平成25年(行ケ)10213号「使用済み紙オムツの処理方法」事件

名称:「使用済み紙オムツの処理方法」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10213 号 判決日:平成 26 年 3 月 26 日
判決 : 請求認容
特許法29条2項
キーワード:動機づけ、設計的事項
[概要]
進歩性欠如との審決に対して、取消しを求めた事案である。
[争点]
相違点1の容易想到性の判断の誤り(省略)
相違点2の容易想到性の判断の誤り
[特許請求の範囲(請求項1)]
使用済み紙オムツを消毒し処理する使用済み紙オムツの処理方法であって,
石灰と次亜塩素と使用済み紙オムツを処理槽内に投入し,
前記処理槽内で撹拌可能な最低限の水を給水しながら,石灰により分解された使用済み紙オ
ムツから,該使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用いて,所定時間にわたり撹拌し,
前記処理槽内の液体を処理槽の外へ排出させると共に脱水し,
排出された廃水を回収し水質処理を施して破棄することを特徴とする使用済み紙オムツの処
理方法。
[裁判所の判断]
2 取消事由2(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について
ア ・・・引用例1発明は,使用済み紙オムツを投入した回転ドラム内に,塩化カルシウ
ム及び次亜塩素酸ナトリウムを含む所定量の水溶液(薬剤水溶液)をあらかじめ供給し,そ
の所定量の薬剤水溶液の中で紙オムツの撹拌を行う構成のものであり,本件審決が相違点2
として認定するように,「処理槽内で撹拌可能な最低限の水を給水しながら」,「該使用済み紙
オムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行う本願発明の構成を備えていない。
イ そこで,相違点2の容易想到性について検討するに,引用例1(甲1)の実施例8に
は,濃度が1重量%となる塩化カルシウム及び濃度が1%となる次亜塩素酸ナトリウムを含
む水溶液50リットルを回転ドラムの外胴内に供給し,室温において撹拌することが記載さ
れているが(段落【0074】),引用例1には,この薬剤水溶液50リットルの量並びに同
薬剤水溶液に含まれる塩化カルシウム及び次亜塩素酸ナトリウムの濃度が,撹拌中に使用済
み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量を考慮して定められたものであること
についての記載や示唆はない。
次に,引用例1の記載事項を全体としてみても,・・・撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性
ポリマーから放出される水分の量を利用することにより,撹拌に用いる薬剤水溶液の量ある
いは薬剤水溶液に含有する水の量を必要最低限の量とすることができることについての記載
や示唆もない。
そうすると,引用例1に接した当業者において,引用例1発明における回転ドラム内に所
定量の薬剤水溶液をあらかじめ供給し,その所定量の薬剤水溶液の中で紙オムツの撹拌を行
う構成に代えて,薬剤(膨潤抑制剤及び消毒剤)の供給と水の給水(供給)とを別々に行う
こととした上で,回転ドラム内で「撹拌可能な最低限の水を給水しながら」,「使用済み紙オ
ムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行う構成(相違点2に係る本願発明の構成)を
採用することについての動機付けがあるものとは認められない。
ウ 被告は,これに対し,①環境やコストなどに配慮して,下水処理すべき処理液の量を減
らすことは,当業者にとっては自明の課題であり,特別の動機付けは必要ない・・・②引用
例1発明は,使用済み紙オムツを処理するものであって,使用済み紙オムツに尿,すなわち
水分が含まれていることは明らかであり・・・「使用済み紙オムツに吸収されていた水分を用
い」る点は,本願発明と引用例1発明との実質的な相違点ではない,③引用例1発明におい
て供給される「薬剤水溶液」を構成している薬剤と水の添加順序や添加方法を変更してみる
ことは,当業者が必要に応じて適宜検討する事項であり,・・・相違点2に係る本願発明の構
成を採用することは,当業者が容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,上記①の点についてみると,・・・撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリ
マーから放出される水分の量を利用することにより,処理槽内に供給する水の量を必要最低
限の量とする技術思想は,下水処理すべき処理液の量を減らすという課題から直ちに導出で
きるものではない。また,引用例1発明において,薬剤水溶液の所定量を「処理槽内で撹拌
可能な最低限」の量と特定することを想到し得るとしても,そのことは,上記技術思想に想
到し得ることを意味するものではない。
次に,上記②の点についてみると,・・・引用例1発明における薬剤水溶液の量及び同薬剤
水溶液に含まれる薬剤の濃度は,撹拌中に使用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出され
る水分の量を考慮して定められたものとは認められないから,引用例1発明は,撹拌中に使
用済み紙オムツの吸水性ポリマーから放出される水分の量をも利用するという上記技術思想
を具現化しているものとはいえない。
さらに,上記③の点についてみると,・・・引用例1には,使用済み紙オムツに含有する尿
などの水分の具体的な量や,膨潤抑制剤水溶液に浸漬することにより吸水性ポリマーから染
み出す水分の具体的な量について言及した記載はないし,また,撹拌中に使用済み紙オムツ
の吸水性ポリマーから放出される水分の量を利用することにより,撹拌に用いる薬剤水溶液
の量あるいは薬剤水溶液に含有する水の量を必要最低限の量とすることができることについ
ての記載や示唆もない。そうすると,引用例1に接した当業者において,引用例1発明にお
ける薬剤水溶液を薬剤(膨潤抑制剤及び消毒剤)と水に分離し,それぞれの供給を別々に行
うこととした上で,回転ドラム内で「撹拌可能な最低限の水を給水しながら」,「使用済み紙
オムツに吸収されていた水分を用いて」撹拌を行う構成を採用する動機付けがあるものとは
認められない。
したがって,引用例1発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは当
業者が容易に想到することができたとの被告の主張は,理由がない。
[コメント]
被告(特許庁)は、相違点2について、「自明の課題であり,特別の動機付けは必要ない」、
「薬剤と水の添加順序や添加方法を変更してみることは,当業者が必要に応じて適宜検討す
る事項」といった論理構成を採用し、相違点2の事項が記載されている副引例を組み合わせ
ることなく、容易想到性を主張したが認められなかった。
その理由として、裁判所は、本願発明の技術思想は,周知の課題から直ちに導出できるも
のではないことを挙げている。当然だが、課題が周知であったとしても、当該周知の課題か
ら本願発明の技術思想が導出できない場合は、動機づけが必要となる。
相違点について、課題が周知であるからという理由で、設計事項であると認定された場合、
本願発明の技術思想を述べた上で、当該技術思想は、周知の課題から直ちに導出できるもの
ではないため、設計変更して本願発明の構成に容易に想到することはできない、と反論する
方法があることを確認できた点で参考になる。

平成25年(行ケ)10213号「使用済み紙オムツの処理方法」事件

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