IP case studies判例研究

平成25年(ネ)10107号「端面加工装置」事件

名称:「端面加工装置」事件
特許権侵害行為差止請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(ネ)10107 号 判決日:平成 26 年 4 月 8 日
(原審・東京地方裁判所平成 24 年(ワ)3817 号)
判決:請求棄却
特許法102条1項、2項
キーワード:機能的クレーム、用語の意義
[概要]
本件は、発明の名称を「端面加工装置」とする特許権を有する被控訴人が、控訴人が業と
して製造及び貸渡しをする控訴人製品が上記特許権に係る発明の技術的範囲に属し、その製
造等が上記特許権の侵害に当たると主張して、控訴人に対し、控訴人製品の製造、貸渡し等
の差止め及び廃棄を求めた事案。
[本件発明1]
A 母材(Mf)のボルト取付孔(Mh)を貫通し,そしてナット(2)で固定されたトルシ
アボルト(1)の破断面(1c)に生じたバリ(1d)を除去するための端面加工装置にお
いて,
B バリ除去用工具(10,10CA~10CK)と,
C そのバリ除去用工具(10,10CA~10CK)を回転する回転機構(R,14,70)
と,
D 円筒状のフード部(12,12A,12B)とを備え,
E その円筒状のフード部(12,12A,12B)は金属粉収集機構(12H,16,19
A,19B)を有しており,
F (省略)
G ことを特徴とする端面加工装置。
[裁判所の判断](筆者にて適宜要約)
構成要件Eの充足性(争点1)について
ア ・・・,特許請求の範囲の「金属粉収集機構」という上記文言は,発明の構成をそれが果
たすべき機能によって特定したものであり,いわゆる機能的クレームに当たるから,上記の
機能を有するものであればすべて技術的範囲に属するとみるのは必ずしも相当でなく,本件
明細書の発明の詳細な説明に開示された具体的構成を参酌しながらその技術的範囲を解釈す
べきものである。
そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,金属粉収集機構としては,①空
気侵入系統及び空気排出系統を設け,空気流を発生させて金属粉を連行するようにした構成
(第7及び第8実施形態)や,永久磁石又は電磁石を設け,磁力を発生させて金属粉を収集
するようにした構成(第9及び第10実施形態)が開示され,これらの構成が好ましいと記
載されているものの(【0014】,【0053】~【0066】,図13~16),これらに加
え,②フード部の半径外方に膨らむようにフード部の円周方向全周にわたって凹部を設けた
構成も記載されている(第1実施形態。【0025】,図1及び2)。そして,上記②の構成に
ついては,例えば垂直に延在するトルシアボルトの破断面1cのバリを除去する際に発生す
る金属粉の収集には不充分であるとも記載されているが(【0053】),これは上記①の構成
と比較した場合に効果が劣る旨を記載しているにとどまり,②の構成であっても金属粉を収
集してその拡散を防止するという本件発明の効果を奏しないとはいえないから,上記記載を
もって本件発明の構成要件Eにいう「金属粉収集機構」を上記①の構成に限定したとみるこ
とは困難である。
以上によれば,構成要件Eにいう「金属粉収集機構」は,上記①及び②の各構成を含むも
のと解することができる。
一方,前記(1)ウで認定したとおり,控訴人製品の凹部(12H’)は,円筒状のフード部の
半径外方に膨らむようにフード部の円周方向全周にわたって存在するものである。また,こ
の凹部は,フード部のうち,控訴人製品においてトルシアボルトの破断面のバリを切削加工
する際に切削屑が発生し,これが飛散する箇所,すなわち,別紙「控訴人製品の構成」の第
3図,第4図及び第6図に示された専用刃(バリ除去用工具)(10CG’)の第1の刃(1
01C’)及び第2の刃(102C’)がトルシアボルトの破断面(1c’)に当接し,切削加
工により切削屑が生じると,これがアウターソケット(22)側面の開口部(22a)を通
って飛散する箇所に対応する部分に位置していると認められる。そうすると,控訴人製品の
凹部(12H’)は,本件明細書に記載された上記②の構成と同様に,金属粉を収容すること
によって金属粉を収集する機構であるということができるから,構成要件Eにいう「金属粉
収集機構」に当たると解するのが相当である。
イ これに対し,控訴人は,(ア) 本件特許の特許請求の範囲には「金属粉収集機構(12H,
16,19A,19B)」と記載されており,その出願経過に照らしても,これらの符号によ
り特定される実施形態に限定されること,・・・を理由に,控訴人製品の凹部が構成要件Eに
いう「金属粉収集機構」に当たらない旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用すること
ができない。
(ア) 特許請求の範囲の括弧内に符号を記載することに関しては,特許法施行規則24条の4
及び様式29の2の〔備考〕14のロに「請求項の記載の内容を理解するために必要がある
ときは,当該願書に添付した図面において使用した符号を括弧をして用いる。」と規定されて
いるところであり,これによれば,特許請求の範囲中に括弧をして符号が用いられた場合に
は,特段の事情のない限り,記載内容を理解するための補助的機能を有するにとどまり,符
号によって特許請求の範囲に記載された内容を限定する機能は有しないものと解される。
この点に関し,控訴人は,本件出願人は,本件補正書に係る補正によってこれらの符号に
より特定される実施形態以外の構成を意識的に除外したから,「金属粉収集機構(12H,1
6,19A,19B)」は,これらの実施形態の構成に限られ,蛇腹状のカバーの内面の凹部
は構成要件Eにいう「金属粉収集機構」に当たらない旨主張する。
しかし,これらの符号は本件補正書に係る補正の前から明細書及び図面中で使用されてい
たものであり(乙1),前記(1)イ記載の本件特許の出願経過に照らし,本件出願人が拒絶理由
の回避のために特定の構成を除外する意図でこれらの符号を付したとは認め難い。そうする
と,本件において上記特段の事情があると認めることはできないから,符号「(12H,16,
19A,19B)」の記載は,特許請求の範囲に記載された内容をこれらの符号により特定さ
れる実施形態の構成に限定するものではないと解すべきである。
以上によれば,控訴人製品は,本件発明の構成要件Eを充足するものと解するのが相当で
ある。
[コメント]
機能的クレームについては、明細書に開示された具体的構成を参酌しながら技術的範囲が
解釈される。本件では、「金属粉収集機構」の一例として、①空気流や磁力を発生させて金属
粉を収集する構成に加え、②フード部の半径外方に膨らむようにフード部の円周方向全周に
わたって凹部を設けた構成を記載していたため、このような凹部も「金属粉収集機構」に含
まれると解釈された。その結果、控訴人製品の蛇腹状カバーの内面の谷部(凹部)が、「金属
粉収集機構」に当たると判断された。機能的クレームを記載する場合、明細書中に出来るだ
け多くの実施例を記載しておいて、技術的範囲が特定の実施形態に限定解釈されないように
することが望まれる。

平成25年(ネ)10107号「端面加工装置」事件

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