IP case studies判例研究

平成17年(ワ)第10790号

要約

 江戸期の図絵の模写に係わる原告絵画を掲載した被告書籍について、著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして、被告書籍の廃棄、損害賠償を求め、一部の原告絵画については著作権(著作物性)が認められ損害賠償が一部認められた。

(判決H18.1.18 東京地裁 平成17年(ワ)第10790号〔第46民事部〕著作権 侵害差止等請求事件

事案の概要

 原告、被告ともに、原告絵画が被告書籍に掲載されていることは争っておらず、模写に係わる原告絵画の著作物性(主位的主張:模写の著作物性,予備的主張:各原告絵画の著作物性)が争点となった。

裁判所の判断

争点:主位的主張:模写について

 模写とは,一般に,原画に依拠し,原画における創作的表現を再現,再現したであり,模写作品が単に原画に付与された創作的表現を再現しただけのもので,新たな創作的表現が付与されたものと認められない場合には,原画の複製物と解すべきである。これに対し,模写作品に,原画制作者の創作的表現とは異なる,模写制作者による新たな創作的表現がある場合,すなわち,既存の著作物である原画に依拠し,かつ,その表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ,その具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が原画の表現上の本質的特徴を直接感得することができると同時に新たに別な創作的表現を感得し得ると評価できる場合には,「模写」を超え,その模写作品は原画の二次的著作物として著作物性を有するものと解すべきである。模写作品が,常に創作性が認められものではない。
 

争点:各原告絵画の著作物性

 原告絵画1:原告絵画1は本件原画1をほぼそのまま再現しており、本件原画1の特徴的表現がそのまま原告絵画1に再現されており,細部における些細な差異に創作的表現が付与されたとみることはできず、原告絵画1は本件原画1と表現上の実質的同一性を有し,原告絵画1は二次的著作物といえない。
原告絵画2:原告絵画2は本件原画2における特徴的表現部分の一部をそのまま利用し
ながら,その特徴的表現の他の部分を変更し,江戸時代の町人の風俗の再現を意図した表現となっており,原告絵画2は,本件原画2の二次的著作物として,その著作物性が認められる。

 原告絵画3:本件原画3では,高貴な者が焼継をするという狂歌の場面を主題として高貴な人物が描かれているのに対し,原告絵画3においては,江戸時代の町人の風俗を再現するため,町人である焼継師を描いており,この点で,本件原画3における特徴的表現を変更した表現となっており、本件原画3の二次的著作物として著作物性が認められる。

 原告絵画4:原告絵画4は,江戸時代の家族団らんを描いた本件原画4において背景の小道具の日用品を,江戸時代の日用品を紹介する目的で描いたにすぎず、煙の流れの描き方や籠の配置に多少の差異が見られるもののこれらの差異は,表現上の実質的同一性の範囲内のものであり、創作された二次的著作物と認めることはできない。

コメント

 模写(本件と同じ原告)に係わる、リーディング事件(新橋玉木屋事件:平成10年(ワ)第14180号判決)では、原告の模写作品は、機械的模写ではなく創作性があり、著作物性が認められたが、本件では、模写について、全て著作物性が認められるわけではなく、模写が二次的著作物として認められる場合についての基準を示している。

以上

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