平成19年()第1411号意匠権侵害差止等請求事件

 

要旨

 流通過程の中で外観に現れず,視覚を通じて認識することができない,物品の隠れた形状等については,これが流通過程において需要者に何らの美感を起こさせる余地もないから,類否の判断に当たっては考慮することができない、とされた事例。

 キーワード:意匠の類否、利用関係

 

事案の概要

 「超音波スピンドル」の考案について実用新案権を有し、かつ、「カツプリングホーン」の物品について意匠権を有する原告が、超音波スピンドルを製造販売する被告に対し、当該意匠権に基づく損害賠償を請求した。被告製品には、USホーン(被告ホーン)と呼ばれる部品が組み込まれていた。

 

主な争点

 主な争点のうち、意匠権の侵害に関するものは以下の通りである。

1.被告意匠は本件登録意匠と類似するか。

2.被告製品において本件登録意匠の利用関係が認められるか。

 

裁判所の判断

1.本件登録意匠と被告意匠の類似

 『意匠の保護は,最終的には産業の発達に寄与することを目的とするものであり(意匠法1条),また登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされていること(同法24条2項)からすれば,流通過程において現実に取引の対象とされる具体的な物品をもって対比の対象となる物品とすべきである。

 また,意匠とは,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものであること(同法2条1項)をも併せ考えると,流通過程の中で外観に現れず,視覚を通じて認識することができない,物品の隠れた形状等については,これが流通過程において需要者に何らの美感を起こさせる余地もないから,類否の判断に当たっては考慮することができないというべきである。』と判示した上で、

 本件における類否の判断対象については、次のとおりに判断している。『流通過程において,カップリングホーンは独立して流通の対象となっておらず(その形状すらも需要者には知る余地がない。),流通過程において現実に取引の対象となっている物品は,超音波スピンドルとしての被告製品というべきである。

 そうすると,本件登録意匠に係る物品はカップリングホーンであるのに対し,対象となる物品は超音波スピンドルとしての被告製品であるから,対象となる物品が異なるというべきである。』

 更に、形態の対比については、『弁論の全趣旨によれば,被告製品の外観からは,被告ホーンの内,断面正六角形をなしている部分(以下「頭部」という。)のみがわずかに現れているにすぎず,前記被告意匠の基本的構成態様b及び同cの部分は全く外観に現れていないことが認められる(被告準備書面()添付図面A4参照)。

 そこで,上記外観に現れている頭部についての形態を対比するに,本件登録意匠と被告意匠との間には,中央部に雌ねじが形成されているという点(前記本件登録意匠の具体的構成態様G,同被告意匠の具体的構成態様g)で一致している。他方,本件登録意匠は円柱形であるのに対し,被告意匠の頭部は断面正六角形をなしている点(前記被告意匠の具体的構成態様a-1)及び被告意匠では頭部の中央部には雌ねじが形成された上,さらに座ぐり穴が設けられている点(同構成g-1)がそれぞれ異なっている。

 そして,頭部の形状が円柱であるか断面正六角形であるかは,形状として著しく異なっており,需要者に与えるかかる相違点の印象は大きいものがある。また,頭部の雌ねじ部分についても,被告意匠では座ぐり穴が形成されていることにより,頭部の陥没部分が大きく見えるという印象を与えるものである。そうすると,被告ホーンの外観から認識し得る頭部の形態において,被告意匠は本件登録意匠と顕著に異なっており,その結果,本件登録意匠との一致点を凌駕して,これと美感を異にするというべきである。』として、本件登録意匠と被告意匠とは類似しないと判断した。

2.利用関係

 『利用関係が成立しているかどうかについて判断するに当たっても,流通過程の中で外観に現れず,視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状等については,これを考慮することができないところ,前記認定のとおり,被告製品においては,被告ホーンの全容を外部から認識できず,わずかに被告ホーンの頭部が露出しているにすぎないのであり,また被告ホーンの交換時に当たって,被告ホーンの形状を示す写真や説明図を顧客に示しているとも認められないのであるから,被告製品において本件登録意匠が利用ないし包含されているということはできない。』

 

以上