審決取消請求事件 » 平成22 年(行ケ)第10292号 無効審決取消請求事件(「防眩材料及びそれを用いた偏光フィルム」事件)

名称:無効審決取消請求事件(「防眩材料及びそれを用いた偏光フィルム」事件)
知的財産高等裁判所: 平成 22 年(行ケ)第 10292 号 判決日:平成 24 年 01 月 31 日
判決:請求棄却
特許法:第 29 条第 2 項
キーワード:進歩性

[概要]
光学材料に関するパラメータ発明の進歩性を否定した無効審決が、審決と同様の理由
により維持された事例。
[特許請求の範囲](クレーム1)
透明基体の片面もしくは両面に、直接或いは他の層を介して、少なくとも樹脂マトリ
ックス中にフィラーが分散されてなる粗面化層を有し、該フィラーの粒子径Dの粒度分
布が、0.5≦D≦6.0μmの範囲のものが60重量%以上、6.0<D≦10.0
μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のものが5重量%
以下、かつ、該樹脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.10以下であることを
特徴とする防眩材料。
[争点]
(1)相違点aに関する容易想到性判断の誤り(取消事由1)
(2)相違点bに関する容易想到性判断の誤り(取消事由2)
(3)相違点a及びbに係る構成により生じる相乗効果に関する判断の誤り(取消事由3)
(4)本件特許発明2についての容易想到性判断の誤り(取消事由4)
相違点a:フィラーの粒子径Dの粒度分布について、0.5≦D≦6.0μmの範囲
のものが60重量%以上であるという要件に加えて、本件特許発明1は、「6.0<D
≦10.0μmの範囲のものが30重量%未満、10<D≦15.0μmの範囲のもの
が5重量%以下」としているのに対し、甲1発明は「6.0μmより大きい粒子が20
重量%未満」としている点。
相違点b:樹脂マトリックスとフィラーの屈折率について、本件特許発明1は、「樹
脂マトリックスとフィラーの屈折率の差が0.10以下」としているのに対し、甲1発
明は屈折率について言及していない点。
[裁判所の判断]
原告は、本件特許発明の主たる解決すべき課題は、ギラツキに加えて、「モアレ」の
解消であることを前提として、審決には、取消事由1ないし4に係る誤りがあると主張
する。しかし、本件明細書の記載から、ギラツキに加えて、「モアレ」の解消も、本件
特許発明の解決すべき課題であると認めることはできない。
甲1発明は、粗面化層を設けた防眩材料として、HAZE値が3~30の範囲とし、
フィラー 樹脂マトリックス
透明基体
粗面化層
前記粗面化層を、少なくともエポキシ系化合物および光カチオン重合開始剤を含む紫外
線硬化型樹脂と架橋アクリル樹脂ビーズとから形成し、前記架橋アクリル樹脂ビーズを、
粒子径0.5~6.0μmの範囲の粒子が60重量%以上、粒子径6.0μmより大き
い粒子が20重量%未満の粒度分布とすることによって、良好な防眩性を示すと共に、
ギラツキがなく、鮮明で高精細な画像コントラストを発現するという効果が得られるも
のであることが認められる。
他方、本件特許発明のフィラーの粒子径Dの粒度分布は、0.5≦D≦6.0μmの
範囲のものを60重量%以上含むことを必須の構成とし、6.0<D≦10.0μm及
び10<D≦15.0μmの範囲のものは、0重量%を含む任意のものであるところ、
甲1発明の架橋アクリル樹脂ビーズの粒度分布は、粒子径0.5~6.0μmの範囲の
粒子を60重量%以上含んでいるから、この点で両発明は一致しているといえる。した
がって、相違点aは、実質的な相違点ではないとした審決の認定、判断に誤りはない。
甲3には、耐擦傷性防眩フィルムにおいて、電離放射線硬化型樹脂の屈折率にできる
だけ近い屈折率を持つ樹脂ビーズを選択すると、塗膜の透明性が損なわれずに、しかも、
防眩性を増すことができるという技術的事項が記載され、また、甲5には、防眩フィル
ムにおいて、電離放射線硬化樹脂の透明性を損なわないように、電離放射線硬化型樹脂
の屈折率に近い微粒子を用いるという技術的事項が記載されている。
審決が、相違点bに係る本件特許発明の構成について、①本件特許発明の解決すべき
課題と甲1発明の解決すべき課題とには差異がない、②防眩材料において、透明性の配
慮を行うことは当業者が当然に行う事項であるから、甲1発明と、甲3及び甲5に記載
された事項を組み合わせることができるなどとした判断に誤りはない。
フィラーの粒子径の粒度分布についての相違点a及び屈折率差についての相違点b
の双方の関与により本件特許発明の効果が得られるとはいえない。したがって、原告主
張の取消事由3には理由がない。
[コメント]
化学関連発明では、進歩性を主張する際に、各成分による相乗効果に基づき、特定成
分の組み合わせによって、当該顕著な効果を奏することは、何れの文献にも示唆されて
いないと主張することが基本である。
本件でも、このような主張の試みを、フィラーの粒度分布と屈折率の差との組み合わ
せにより行おうとしたが、明細書の記載、実施例の裏付け、及び理論的な説明による主
張が不十分であったため、無効審決が維持された。
客観的に分析すると、本件発明は、甲一発明と実質的に同じ技術思想であり、たまた
ま屈折率の差に言及されていなかったに過ぎず、ヘイズを小さくするために屈折率の差
を小さくすることは当業者に周知技術であるため、本件判決(および無効審決)は適切
な判断であったと言える。