審決取消請求事件 » 令和2年(行ケ)第10097号「簡易蝶ネクタイ」事件

名称:「簡易蝶ネクタイ」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和2年(行ケ)第10097号 判決日:令和2年3月19日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:容易想到性、阻害要因
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/341/089341_hanrei.pdf

[概要]
主引用発明の「ボタン係合部」の配置位置及びその形状が、主引用発明の課題を解決するために、重要な技術的意義を有するものであり、しかも、主引用発明の「ボタン係合部」に、副引用発明の「係止導孔を有する釦挿通孔」を採用した場合には、着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるため、主引用発明の「ボタン係合部」に、副引用発明の「係止導孔を有する釦挿通孔」を採用することは、当業者が容易に想到できたものであるとは認め難く、むしろ阻害要因があるとされ、相違点の構成が容易に想到できるとした審決が取り消された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2017-47926号)に係る拒絶査定不服審判(不服2017-16280号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本願補正発明]
【請求項1】
結び目を有する子供用簡易蝶ネクタイであって前記結び目の裏側にはシャツの第一ボタンがはまり込むボタン穴が形成された部材が、前記結び目とつながって、前記結び目の表側に貫通しないように形成され、前記ボタン穴は全ての側縁が閉じた縦状の穴であり、前記結び目近辺にシワを有し、前記結び目の裏側のボタン穴が形成された部材とウイングとの間には前記結び目を介して横方向に空洞部分を有し、前記ボタン穴が形成された部材を持ち、閉めてある状態の第一ボタンの上からはめ込むことで装着することを特徴とする子供用簡易蝶ネクタイ。

[審決]
1.相違点
(1)相違点1
簡易蝶ネクタイについて、本件補正発明は、子供用であるのに対し、引用発明1は、そのように特定されない点。
(2)相違点2
ボタンがはまり込む切欠き状の部分について、本件補正発明は、全ての側縁が閉じた縦状の穴であるボタン穴であるのに対し、引用発明1は、下縁から凹状切欠いたボタン係合部19である点。
(3)相違点3
簡易蝶ネクタイの装着について、本件補正発明は、ボタン穴が形成された部材を持って装着するのに対し、引用発明1は、そのように特定されない点。

2.相違点2の容易想到性
引用発明1及び甲4発明の装身具は、いずれも、装身具を簡単にシャツの第一ボタンに装着できるようにするという共通の課題を有し、また、これを着用するに当たり、切欠き状の部分にボタンがはまり込むことで装着するという共通の機能を有するから、引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として、甲4発明の係止導孔を有する円形の釦挿通孔の態様を採用し、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。
※相違点1及び3の容易想到性については、省略。

[取消事由]
1.本件補正に係る独立特許要件の判断の誤り
1-1 引用発明1の認定の誤り
1-2 本件補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り
1-3 相違点の容易想到性の判断の誤り
1-3-1 相違点1について
1-3-2 相違点2について
2.平成30年補正に係る補正要件の判断の誤り
3.本件補正前の本願発明の進歩性の判断の誤り
※以下、取消事由1-3-2についてのみ記載する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.相違点2の容易想到性について
『・・・(略)・・・引用発明1は、簡易型のネクタイ本体を取付ける着用具を改良することによって、着用状態における位置ずれや傾きを生じ難く、低コストで生産でき、そして着用操作も容易である簡易着用具付きネクタイを提供することを課題とするものである。
一方、前記ア(イ)のとおり、甲4に記載された考案は、襟飾り、生花等の種々の装飾小物、殊に襟前に止着する装身具について、着脱が簡単であり、かつ、衣服の損傷がほとんどない装身具取付台を提供することを課題とするものであるが、かかる装身具として、蝶ネクタイやネクタイを例示するものではなく、蝶ネクタイやネクタイを着用する際に固有の問題があることを指摘するものでもない。
したがって、引用発明1と甲4発明は、その具体的な課題において、大きく異なるものといえる。
また、発明の作用・機能をみても、引用発明1は、基板部、ネクタイ取付部及び一対の突出片から成る簡易着用具を備え、ネクタイ取付部の裏側に位置する基板部に、その下縁を凹状に切り欠いたボタン係合部を設け、その切欠きにシャツの第一ボタンを係合させるとともに、一対の突片を襟下へ挿入することで、簡易蝶ネクタイの良好な着用状態及び簡単な着用操作を実現するものである(前記(2)ア(オ))。
そして、甲1には、引用発明1に関し、①「ボタン係合部19」の奥部は、ボタン取付け糸の部分を丁度跨ぐことができる程度の小円弧状をなすものとし、その幅は、ボタンとの係合状態において横方向にほとんど移動しない程度のものとすること、②着用時にボタンとの係合を容易にするとともに、着用時に基板部2の片側がボタン穴に入り込むことを防ぐために、「ボタン係合部19」の下方を、ラッパ状に下方へ拡大して基板部2の下縁に達するものとすることの記載(前記(2)ア(エ)a)がある。これは、結び目の陰に隠れて見えない状態のボタン係合部を、上方から探りながらも容易に装着できるようにするための工夫といえるから、簡易着用具1の基板部2における、ボタン係合部19の配置位置及びその形状を引用発明1の構成とすることは、引用発明1の課題を解決するために、重要な技術的意義を有するものであることを理解できる。
他方、甲4発明は、取付台主板に対して上方に係止導孔を連続形成した釦挿通孔を穿設すると共に、他の一部に背面方向に突出するピンを突設し、ピン先端にピン挟持機構を有するピン挿入キャップを冠着することで、釦の確実な止着と、各種装身用小物の衣類への簡単な着脱を実現するものであって(前記ア(イ)b)、第1ボタンへの係合方法、衣類への確実な止着及び簡単な着脱の実現手段において、引用発明1と大きく異なるものであるから、発明の具体的な作用・機能も、引用発明1とは大きく異なるものといえる。
加えて、甲4の記載事項(前記ア(ア)c)によれば、甲4発明の装身具取付台は、衣類に装着する際に、第1ボタンの前部からアプローチして、釦挿通孔(2)に挿入した後、装身具取付台を鉛直方向の下部に移動させ、係止導孔(3)を第1ボタンの取付糸に係合するものであるから、当業者であれば、第1ボタンを釦挿通孔(2)に挿入する際に、これらを視認できる状態でないと、ボタンの着脱動作が困難となることを理解できる。
そうすると、仮に、引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として、甲4発明の「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の態様を採用した場合には、ボタン係合部19の前側に位置し、その前側にネクタイが取り付けられるネクタイ取付部3が存在するため、簡易蝶ネクタイを着用する際に、簡易蝶ネクタイ及びネクタイ取付部に隠されて、第1ボタン及びボタン穴を視認することができないことになる。そのため、ボタン係合部を切欠き状にする場合よりも、着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるといえる。
(イ)以上によれば、引用発明1と甲4発明とは、発明の課題や作用・機能が大きく異なるものであるから、甲1に接した当業者が、甲4の存在を認識していたとしても、甲4に記載された装身具取付台の構成から、「細幅の係止導孔(3)を有する円形の釦挿通孔(2)」の形状のみを取り出し、これを引用発明1のボタン係合部19における切欠き状の部分の具体的な形状として採用することは、当業者が容易に想到できたものであるとは認め難く、むしろ阻害要因があるといえる。
したがって、本件補正発明は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、これに反する本件審決の判断には誤りがあり、同判断を前提とする本件審決の補正却下の決定にも誤りがある。』
以上のように、審決の判断に誤りがあるとして、審決が取り消された。

[コメント]
主引用発明の「ボタン係合部」の配置位置及びその形状が、主引用発明の課題を解決するために、重要な技術的意義を有するものであり、しかも、主引用発明の「ボタン係合部」に、副引用発明の「係止導孔を有する釦挿通孔」を採用した場合には、着用具へのボタンの係合が困難となることは明らかであるため、主引用発明の「ボタン係合部」に、副引用発明の「係止導孔を有する釦挿通孔」を採用することは、当業者が容易に想到できたものであるとは認め難く、むしろ阻害要因があると判断された。
確かに、主引用発明の課題に、「着用操作も容易である」ことが挙げられ、その解決手段(甲1の請求項1)として、「下縁を凹状に切欠いたボタン係合部」と特定している。したがって、主引用発明において、「下縁を凹状に切欠いたボタン係合部」が課題を解決するための必須の構成と考えられるため、主引用発明に副引用発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものであるとは認めにくいとした、裁判所の判断は、妥当だと考える。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)