審決取消請求事件 » 令和元年(行ケ)第10072号「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」事件

名称:「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和元年(行ケ)第10072号 判決日:令和2年3月17日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:容易想到性
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/313/089313_hanrei.pdf

[概要]
コマンドボタンに動画の内容を表記することが周知技術であるとしても、取決めの下でなされる販促活動がかかる周知技術を踏まえたものになることが、必然とはいえない上、仮にかかる周知技術を適用したとしても、引用例1に、仮想現実動画について、メンタルケアを行うものとすることや、潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる仮想現実動画ファイルとすることについての記載も示唆もなく、かかる事項が周知であったと認めるに足りる証拠もない以上、本件発明は当業者が容易に想到できたものではないと判断された事例。

[事件の経緯]
原告は、平成29年4月13日、発明の名称を「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」とする発明について特許出願(特願2017-79818)をしたが、同年12月6日付けで拒絶査定を受け、平成30年3月12日、これに対する不服の審判を請求するとともに、同日付け手続補正書により、特許請求の範囲を補正し、特許庁は、これを不服2018-3578号事件として審理した。
特許庁は、平成31年4月8日、本件補正を却下の上、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本件発明]
以下、請求項1(本件発明1)のみ記載する。
【請求項1】
ホストクラブへの来店を勧誘させる方法であって、
潜在顧客に対してホストクラブ来店勧誘キットを提供するステップを含んでおり、
ホストクラブ来店勧誘キットは、スマートフォンを装着することにより仮想現実動画ファイルを再生して仮想現実動画を視聴し得る紙製の仮想現実ゴーグルと、ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーへのアクセス情報を表示したアクセス情報表示部とを備えており、
ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーにはホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムが実装されており、ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部にはホストクラブを仮想体験させるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており、
ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムは、ホストクラブ仮想現実動画ファイルをスマートフォンに送って視聴させるプログラムであり、
前記アクセス情報は、スマートフォンからの操作によりホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムを実行可能にする情報であり、
前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部には、潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており、
前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーは、異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタンが設けれられた一つのウェブページを提供するものであり、各コマンドボタンは各ホストクラブ仮想現実動画ファイルに対応しており、選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させることを特徴とするホストクラブ来店勧誘方法。

[取消事由]
本件補正発明の引用例1に基づく進歩性判断の誤り

[原告の主張]
引用例1には、ホストクラブへの来店の勧誘として、仮想現実動画により「メンタルケアを行う」ことや、「潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ことは記載されていない。
したがって、引用発明をホストクラブのビジネスに適用し、ホストクラブの仮想体験サービスを販促支援として行ったとしても、その内容は、「メンタルケアを行う」ものとして仮想現実動画を提供することや、「潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることにはならない。そして、かかる事項は、当業者が適宜決定できることとはいえない。
また、広告代理店と広告主であるホストクラブの経営主体との間で、ホストクラブへの来店の勧誘となる内容として、仮想現実動画の提供という手段を採用することを取り決めたとしても、取決めのもとでなされる販売促進活動が周知技術を踏まえたものにならざるを得ないとはいえないし、仮想現実動画を「メンタルケアを行う」ものとして提供することや、「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることが、かかる取決めによって決まるとはいえない。
以上によれば、引用発明及び周知技術(甲4、5)に基づき、「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」との構成(相違点2’)や、「潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」との構成(相違点4’)を容易に発明することはできない。

[被告の主張]
本件補正発明における「潜在顧客の心理状態」は、あくまで潜在顧客においてホストクラブのサービスによるメンタルケアを求めようとする心理状態であり、「潜在顧客の心理状態に応じて選択され(る)」というのも、仮想体験されるホストクラブのサービスの選択にあたって、これらの個別のサービスが提供するメンタルケア的な側面を捉えた選択が行われることを示している。
「メンタルケア」の文言は広範かつ抽象的な文言であり、およそ体験型のサービスは、メンタルケア的な側面を有する。そして、潜在顧客の来場を勧誘したいサービスの提供者が、当該サービスにおいて体験できる内容を疑似体験できる複数の仮想現実動画ファイルをサーバーに記憶させておき、潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択できるように、当該サービスのメンタルケア的な側面をVR動画のタイトル等として表記した複数のボタン(VR動画ファイルへのリンク)を設けることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
引用発明におけるサービスの販促活動の内容は、これを支援する側である広告代理店と支援を受ける側であるサービスの提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず、「仮想現実動画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることは、引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに伴って生ずることである。また、コマンドボタンに動画の内容を表記することは周知技術であるところ、そのような動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な側面」を捉えた表示を行うことも、周知技術の採用にあたって、広告代理店とサービスの提供者との間の取決めに即して、適宜決定すべきことである。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(3) 相違点2’及び4’について
ア 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の意義
本件補正発明の「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の意義は、請求項の記載自体から一義的に明らかとはいえないので、本件明細書の記載を参酌する必要がある。
・・・(略)・・・
以上によれば、本件補正発明の「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」との記載は、「潜在顧客」がホストクラブに行く動機付けとなる「心理状態」にそれぞれ対応した「ホストとの会話により顧客をリラックスさせたり」、「ストレスを解消させたり」、「癒したりする」などの異なる「メンタルケア」を行うべく、「ホストクラブに入店してホストから接客のサービスを受け、店を出るまでの状況」をそれぞれ撮影した「複数の異なる仮想現実動画」のファイルであることを意味するものと理解される。
イ 相違点2’の容易想到性について
引用発明の販売促進の対象を「ホストクラブ」のサービスとし、ホストクラブへの「来店」の「勧誘」の目的で使用した場合、「仮想現実動画」は、潜在顧客を対象とした、ホストクラブで提供するサービスを疑似体験する動画となり得ると解される。
しかしながら、引用例1には、「仮想現実動画」について、「メンタルケア」を行うものとすることや、「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」仮想現実動画ファイルとすることについて、記載も示唆もない。
また、かかる事項が周知であったと認めるに足りる証拠もない。
そうすると、引用発明に基づき、相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点2’に係る本件補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 相違点4’の容易想到性について
前記イのとおり、相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上、「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
よって、相違点4’に係る本件補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
エ 被告の主張について
被告は、①引用発明におけるサービスの販促活動の内容は、広告代理店と広告主であるサービス提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず、「仮想現実動画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることは、引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに伴って生ずることにすぎず、また、②コマンドボタンに動画の内容を表記することは周知技術であるところ、かかる動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な側面」を捉えた表示を行うことも、周知技術の採用に当たって、広告代理店とサービスの提供者との間の取決めに即して、適宜決定すべきことである旨主張する。
しかし、引用例1には、テーマパークへの来場を勧誘したいサービスの提供者が、テーマパークの魅力を潜在顧客に伝える目的で、来場すると体験できるアトラクションを疑似体験するための仮想現実動画を提供することの記載はあるものの、その際に、当該サービスのメンタルケア的な側面に応じた複数の異なる仮想現実動画をサーバーに記憶させておき、潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択できるようにすることや、当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイトル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく、かかる示唆もない。
そして、引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に、販促支援の内容は、販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決めに即したものとなるとしても、「仮想現実動画」を、「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにすることが必然とはいえない。
また、コマンドボタンに動画の内容を表記することが周知技術であるとしても、取決めの下でなされる販促活動がかかる周知技術を踏まえたものになることが、必然とはいえない上、仮にかかる周知技術を適用したとしても、前記ウのとおり、「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上、「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させるとの構成を、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
被告の主張は、進歩性に関する主張としては、採用できない。
(4) 小括
よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件補正を却下した本件審決の判断には誤りがあ』るとして、審決を取消した。

[コメント]
審判における判断では、請求項に記載された各構成要件について、ユーザの操作やサーバーへのアクセス等の処理や動作を認定し、用いられるファイルの種類や内容等は適宜選択されるものとして進歩性を判断しているのに対し、裁判所における判断では、明細書の記載を参酌し、各用語の意義、用いられるファイルの種類、当該データが特定されていることの目的と効果、を把握した上で進歩性を判断しているように思われる。
請求項に記載の内容全体を把握した上で進歩性を判断している裁判所における判断が妥当とは思われるが、本判決において進歩性を肯定するに際して重要であったことは、請求項に記載の文言の意義や特定のファイルとすることで得られる発明の効果が、明細書に記載されていた事であろう。
以上
(担当弁理士:植田 亨)