審決取消請求事件 » 平成31年(行ケ)第10060号「スクラブ石けんの製造方法」事件

名称:「スクラブ石けんの製造方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成31年(行ケ)第10060号 判決日:令和2年1月14日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:容易想到性
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/152/089152_hanrei.pdf

[概要]
 シラスバルーンがアルカリに溶けやすいとの性質や、界面活性剤の性質を考慮しても、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に脂肪酸を添加することの記載がない甲3技術を引用発明1または引用発明2に適用するに当たって、シラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加することや、その添加時期を脂肪酸の添加の前後で適宜変更することができたとはいえないとの理由に基づき、本件発明1は、引用発明1、2から容易に発明をすることができたものではないと判断した事例。

[事件の経緯]
 被告は特許第4473278号の特許権者である。
 原告が、本件特許出願について無効判請求(無効2018-800006号)をしたところ、特許庁が、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
 知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明1]
 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおりである。
[請求項1]
 微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して、中空内部にアルカリ溶液を浸透させ、その後、アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより、前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに、中空内部にも石けんを形成するスクラブ石けんの製造方法。

[主な取消事由]
(3) 引用発明1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3)
(4) 引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由4)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
(取消事由3)
『甲3には、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に脂肪酸を添加することの記載はないから、引用発明1に、甲3技術を適用しても、シラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して、中空内部にアルカリ溶液を浸透させ、その後、アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程(相違点1-2)を想到することはできない。
 また、引用発明1に、本件周知技術を適用しても、シラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して、中空内部にアルカリ溶液を浸透させ、その後、アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程(相違点1-2)を想到することはできない。
 そして、引用例1の「基本的な洗顔石けんは、C8~C18程度のある割合に混合している飽和・不飽和脂肪酸とアルカリのけん化により作られる。本実験ではシラスマイクロバルーンの混合し易い軟石けんのカリウム石けんの調整について検討した。」との記載(前記4(1)ア(イ))によれば、引用発明1は、軟石けんのカリウム石けんを調製した上で、これにシラスマイクロバルーンを混合し、スクラブ石けんを製造するものであるから、シラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して、中空内部にアルカリ溶液を浸透させた上で、その後、アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程を採用するべき理由はない。したがって、甲7、9、11に記載された、シラスバルーンがアルカリに溶けやすいとの性質や、界面活性剤の性質(前記ア(エ))を考慮したとしても、引用発明1に甲3技術又は本件周知技術を適用するに当たって、シラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加することや、その添加時期を脂肪酸の添加の前後で適宜変更することができたとはいえない。
 よって、引用発明1に、甲3技術又は本件周知技術を適用して、相違点1-2に係る構成を容易に想到できたものではない。』
『以上によれば、相違点1-2は当業者が容易に想到できたものではないから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明1は、引用発明1から容易に発明をすることができたものではない。
 よって、取消事由3は、理由がない。』

(取消事由4)
 『引用発明2は、シラスを原料とする粉末を焼結して形成された球状で多孔質のセラミック造粒体を、真空チャンバー内に入れ、内部の球状空間を真空とした後、その造粒体の周囲を液体又は気体で包囲し、常圧に戻すことで、内部の球状空間内に石けん等の液体を収容するものであるが、引用例2には、セラミック造粒体の中空内部において石けんを形成させることについての記載はない。
 したがって、引用発明2に、石けんの製造方法に関する甲3技術や本件周知技術を適用する動機付けはない。
 また、甲3には、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に脂肪酸を添加することの記載はないから、仮に引用発明2に甲3技術を適用しても、シラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して、中空内部にアルカリ溶液を浸透させ、その後、アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程を想到することはできない。
 仮に引用発明2に、本件周知技術を組み合わせたとしても、シラスバルーンを、界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して、中空内部にアルカリ溶液を浸透させ、その後、アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程により石けんを形成することを想到することはできない。
 そうすると、引用発明2に、甲3技術又は本件周知技術を適用しても、相違点2-2に係る構成を容易に想到できたものではないというべきである。』
『以上によれば、相違点2-2は当業者が容易に想到できたものではないから、その余の点について判断するまでもなく、本件発明1は、引用発明2から容易に発明をすることができたものではない。
 よって、取消事由4は、理由がない。』

[コメント]
 原告の主張する進歩性否定の論理構成は、いわゆる「容易の容易」と呼ばれるものであり、近時の裁判例に従うと、「容易の容易」は容易ではない、つまり進歩性ありということになるため、今回の裁判所の判断は妥当なように思われる。
 なお、「容易の容易」に該当するとの主張を斥けた裁判例も存在する(例えば平成26年(行ケ)第10255号、平成29年(行ケ)第10146号など)。これら裁判例では、「容易の容易」の主張に対して「容易の容易」の問題ではないことが指摘されている。どのような場合に「容易の容易」の問題ではないことになり得るかの整理が必要である。

以上
(担当弁理士:山下 篤)