審決取消請求事件 » 平成31年(行ケ)第10003号「ランタン化合物を含む医薬組成物」事件

名称:「ランタン化合物を含む医薬組成物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成31年(行ケ)第10003号 判決日:令和元年11月11日
判決:請求棄却
特許法36条6項1号
キーワード:課題、実施例、サポート要件
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/037/089037_hanrei.pdf

[概要]
本件発明の課題「低い摩損度」が、摩損度試験後に「明らかなひび・割れ・欠け」が生じないことを含むと認定されたうえで、摩損度試験12錠中7錠に、明らかなひび・割れ・欠けが生じた実施例4において、本件発明の課題が実現されていることを理解できない、といった理由により、本件発明がサポート要件に適合しないとした審決が維持された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第第6093829号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1~27に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2017-800104号)を請求し、原告が訂正(具体的には、請求項の数を63とすることを内容とする訂正)を請求したところ、特許庁が、請求項6および28~45に係る発明についての特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明6]
【請求項6】(下線は、訂正箇所)
唾液又は少量の水により、口腔内で崩壊させて経口投与することを特徴とする口腔内崩壊錠であって、崩壊剤及び医薬組成物中の含有率が70~90質量%で炭酸ランタン又はその薬学的に許容される塩を含有し、前記崩壊剤が、ロスポビドンであり前記クロスポビドンの医薬組成物中の含有率が5.6~12質量%であり、但し、崩壊剤がGRANFILLER-D(登録商標)から成る錠剤は除く、医薬組成物。

[主な取消事由]
サポート要件違反についての判断の誤り

[原告の主張]
本件審決は、本件発明の課題の認定において、「低い摩損度」に「明らかなひび・割れ・欠け」を含めているが、「明らかなひび・割れ・欠け」の解消は、本件発明の課題ではない。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
2 取消事由1(サポート要件違反についての判断の誤り)について
『(1)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2)本件発明の課題
前記1(2)にみたところに照らすと、本件発明の課題のひとつは、高い原薬含有率で、速やかな崩壊性、高い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの口腔内崩壊錠を提供することであると認められる。
本件の取消事由1において問題とされているのはかかる課題についてであるので、以下、この課題に係るサポート要件違反の有無を検討する(以下、この課題を「本件課題」という。)。
(3)本件明細書等の記載
上記の速やかな崩壊性、高い硬度及び低い摩損度の両立という本件課題について、本件明細書並びに日本薬局方の技術情報の解説及び参考情報(乙1、2)には、次の記載が認められる。
ア 発明を実施するための形態
・・・(略)・・・
【0050】
・・・(略)・・・また、「低い」摩損度とは、例えば、錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従い、試験を行うとき、0.5%未満(明らかなひび・割れ・欠けなし)である。
イ 実施例
・・・(略)・・・
【0062】
摩損度は、錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従い、試験を行った。摩損度の目標品質は、通常の錠剤と変わらない取り扱いを目指し、0.5%未満(明らかなひび・割れ・欠けなし)とした。
・・・(略)・・・
ウ 比較例及び実施例に関する評価
・・・(略)・・・
エ 日本薬局方 技術情報の解説(乙2)
・・・(略)・・・
通常、試験は一回行う。試験後の錠剤試料に明らかにひび、割れ、あるいは欠けの見られる錠剤があるとき、その試料は不適合である。・・・(略)・・・
(4)サポート要件適合性について
原告が本件発明の実施例であると主張する実施例4においては、錠剤硬度117N、摩損度0.4パーセント(7/12)(ただし、括弧内は明らかなひび・割れ・欠けの個数/試験数)、崩壊時間39秒(日局(補助盤なし))、7秒(日局(補助盤あり))、40秒(口腔内(静的))であったことが記載されている。
他方、本件明細書の実施例の摩損度の評価は、錠剤の摩損度試験法(日局参考情報)に従って行われるとされているところ(【0062】)、日本薬局方参考情報(乙1)によれば、錠剤の摩損度試験法においては、明らかにひび、割れ、欠けが見られる錠剤があるときはその試料は不適合であるとされている。
そうすると、「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠であり、摩損度が0.4%とする実施例4の摩損度の評価の記載を、日本薬局方参考情報における錠剤の摩損度試験法で「明らかなひび・割れ・欠け」が見られる錠剤があるときはその試料は不適合であるとされていることとの関係で一義的に整合するように理解することができない。そして、本件明細書には「明らかなひび・割れ・欠け」の個数が12錠中7錠である実施例4の場合に、どのような方法で摩損度を測定した結果0.4%という数値を得たのかに関する説明はなく、この点についての当業者の技術常識を示す的確な証拠もない。
以上によれば、当業者は、本件明細書の実施例4の記載から、当該実施例において本件発明の課題が実現されていることを理解することができないし、本件明細書のその余の部分にも、本件発明が、「高い原薬含有率で、速やかな崩壊性、高い硬度及び低い摩損度を両立した炭酸ランタンの口腔内崩壊錠を提供する」という本件課題を解決できることを示唆する記載はなく、この点に関する技術常識を示す的確な証拠もない。
したがって、本件発明について、本件明細書に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができないから、本件発明がサポート要件に適合するものということはできない。』

[コメント]
原告は、本件発明の課題に含まれる「低い摩損度」が、摩損度試験の質量減少度を意味するにとどまり、摩損度試験後に「明らかなひび・割れ・欠け」が生じないことまでを意味するものではない、と主張したところ、知財高裁は、本件発明の課題「低い摩損度」が、「明らかなひび・割れ・欠け」が生じないことまでを意味する、と認定した。
そのような認定のうえで、摩損度試験12錠中7錠に、明らかなひび・割れ・欠けが生じた本件明細書の実施例4において、本件発明の課題が実現されていることを理解できないし、本件明細書のその余の部分にも、課題を解決できることを示唆する記載はなく、この点に関する技術常識を示す的確な証拠もない、と知財高裁は判断した。
仮に、「低い摩損度」が、摩損度試験の質量減少度を意味するにとどまり、摩損度試験後に「明らかなひび・割れ・欠け」が生じないことまでを意味するものではない、ということが、本件明細書に明示されていたならば、このような判断にはならなかったかもしれない。
そのようなことを考慮すると、課題を構成する用語(本事件では、たとえば「低い摩損度」)が、想定よりも広く解釈されるおそれがある場合には、その用語が広く解釈されないようにその用語を明細書で定義する、というような対策をとっておくことが有効であろう。

以上
(担当弁理士:森本 宜延)