審決取消請求事件 » 平成30年(行ケ)第10128号「多色ペンライト」事件

名称:「多色ペンライト」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成30年(行ケ)第10128号 判決日:令和元年8月8日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:動機づけ
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/864/088864_hanrei.pdf

[概要]
主引例の明細書内において、カード型LED照明光源の実施形態としては多色型が開示されていたとしても、ペンライト型照明光源の実施形態としては単色型しか開示されていないため、主引例にはペンライト型照明光源の多色型が開示されているとは認められないとの相違点に誤りはないとされて、進歩性を否定した審決が維持された事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第5608827号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~2に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2017-800141号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
A 発光色を照らすカバーで覆われた発光部と、把持部とを有し、
B 前記把持部は、
C 赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、青色発光ダイオード、黄色発光ダイオード及び白色発光ダイオードを備える光源部と、
D 前記光源部の各発光ダイオードの発光を個別に制御する制御手段を有し、
E 前記制御手段により前記各発光ダイオードを単独で又は複数発光させることで特定の発光色が得られるように構成し、
F 前記特定の発光色は複数得られ、
G 前記複数得られる特定の発光色には、少なくとも、前記白色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色、又は、前記黄色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色が含まれ、
H 前記各発光ダイオードから発せられる光を集光、混色し、これにより得られた発光色で前記カバーを照らすための発光色補助手段を前記光源部の近くに設けるように構成し、
I 乾電池又はボタン電池を電源とする
J ことを特徴とする多色ペンライト。

[審決の判断](一部のみを抜粋)
審決では、本件特許発明1と甲1(特開2005-235779号公報)に記載された発明(甲1発明)の相違点の一つである相違点3を、以下のように認定した。
《相違点3》
「光源部」、「制御手段」及び「ペンライト」に関し、本件特許発明1では、「赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、青色発光ダイオード、黄色発光ダイオード及び白色発光ダイオードを備え」、発光ダイオードを「単独で又は複数発光させ」ることで特定の発光色が得られるように構成しており、「前記特定の発光色は複数得られ、前記複数得られる特定の発光色には、少なくとも、前記白色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色、又は、前記黄色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色が含まれ」る「多色」ペンライトであるのに対して、甲1発明では、発光ダイオードの発光色が特定されておらず、また「単独で又は複数発光させ」て「前記特定の発光色は複数得」られるものか不明な点。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
(1) 相違点3についての判断
『原告は、①把持部にあるカード型LED照明光源が青、赤、黄、緑、白のLEDを有すること、②把持部にあるカード型LED照明光源部からの発光光色が、少なくとも、黄色LEDから発せられる光とそれ以外のLEDから発せられる光とを混合して得られる発光色が含まれること、③前記把持部がカード型LED照明光源の発光をオン・オフする制御手段を有すること、④乾電池又はボタン電池を電源とすることを特徴とするペンライトであることも、甲1発明の構成として認定すべきであると主張する。』
『上記①について、甲1には、「本発明のカード型LED光源およびLED照明装置を用い、青、緑(青緑)、黄(橙)、赤、白のLEDを個別に駆動することによって照明を行う場合は、各色のLEDについて2つの電極(計10個の電極)を設けることが好ましい。」(段落【0065】)、「第3に、カード型LED照明光源10に実装されるLEDを、相関色温度が低い光色用または相関色温度が高い光色用や青、赤、緑、黄など個別の光色を有するものとすることができる。このようなカード型LED照明光源10から適切なものを選択すれば、対応するLED照明装置に装着すれば、LED照明装置の発光光色を切替えや制御することができる。」(段落【0080】)、「定電流駆動用に、同数のアノード側電極およびカソード側電極を設ける場合、青、緑(青緑)、黄(橙)、赤、および白の各々に給電電極に割り当てた上で、6個(3経路)の予備端子を設けることが可能となる。」(段落【0189】)、「本実施形態では、1つの基板上に異なる波長の光を発する4種類のLEDベアチップを配列しているが、本発明はこれに限定されない。発する光の色(波長帯域)は、1~3種類でも5種類以上であってもよい。」(段落【0214】)などの記載はある。』
『しかし、甲1には、ペンライトは、実施態様4として記載されている(段落【0224】及び【図25】)ところ、実施態様4に関する甲1の記載中には、複数色のLEDを用いることは記載されていない。かえって、甲1の【図25】には、スライド式のオン・オフスイッチが記載されているにすぎないから、【図25】の懐中電灯が複数の色の光を発光することは想定できない。また、前記イ認定の甲1発明の目的や解決すべき課題に照らしても、ペンライトに複数色のLEDを用いると解することができるものではない。上記段落【0080】は、実施形態1に関する記載であり、上記段落【0189】及び段落【0214】は実施形態3に関する記載であり、上記段落【0065】も、実施形態4に関する記載と理解することはできないから、これらの記載があるからといって、ペンライトについて複数色のLEDを用いることが甲1に記載されていると認めることはできない。』
『したがって、「把持部にあるカード型LED照明光源が青、赤、黄、緑、白のLEDを有すること」を甲1発明の構成として認定することはできない。』

(2) 甲1発明に甲2(登録実用新案第3175039号公報)に記載された事項を適用することへの動機づけ
『本件特許発明1は、赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、青色発光ダイオード、黄色発光ダイオード及び白色発光ダイオードを単独又は複数発光させることで特定の発光色が得られるよう構成しているところ、特定の発光色は複数得られ、複数得られる特定の発光色には、少なくとも、白色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色、又は、黄色発光ダイオードから発せられる光とそれ以外の発光ダイオードから発せられる光とを混合して得られる発光色が含まれるものである。』
『甲2には、白色発光ダイオードや黄色発光ダイオードを用いることは記載されておらず、白色発光ダイオードや黄色発光ダイオードをそれ以外の発光ダイオードから発せられる光と混合することも記載されていないから、甲1発明に、甲2に記載された技術的事項を適用することができたとしても、相違点3に係る本件特許発明1の構成を容易に発明できたと認めることはできない。』
『これに対し、原告は、本件特許発明1と甲1発明の相違点について甲2事項が備える構成は、甲12及び13によると、当業者には周知の技術であったとして、本件特許発明1は容易想到であったと主張する。』
『しかし、甲12には、光源をフルカラーRGBW LED(RGBの三原色と白色LED)とするペンライトに関するもの、甲13には、光源をフルカラーRGB LEDとするペンライトに関するものが記載されているものの、甲12のペンライトは、黄色LEDを備えておらず、甲13のペンライトは、黄色LED及び白色LEDを備えていないから、仮に、これらを周知技術として考慮したとしても、相違点3に係る上記アの構成を甲12及び13に記載された周知技術に基づいて容易に発明することができたと認めることはできない。』

[コメント]
主引例である甲1発明には、カード型LED照明光源において、複数色のLEDを実装することで、発光光色を制御できる旨の記載はあったが、ペンライトに近い形状の懐中電灯型においてては、複数色のLEDを実装することや、色の切り替えができることの記載がないことをもって、相違点3が正しいと認定された。
しかし、多発光色LEDをカード型LED照明光源に実装することは甲1に記載があり、カード型LED照明光源を懐中電灯に適用することも甲1に記載があるところ、懐中電灯の実施形態内に色の切り替えの機能の記載がないことや、同実施形態の図面において色を切り替えるためのスイッチが図示されていないことをもって、懐中電灯が複数の色の光を発光することは想定できないという判断が妥当かどうかについては、一見すると議論が分かれるところである。
ただし、甲1発明の課題は、高密度、放熱性、光利用効率という点にあり、発光色の微細な調整という点ではないこと、本件発明が利用者が発光色を短時間で微細に切り替えることを想定する「ペンライト」に関するものであること、甲1において、ペンライトに最も近い形状が懐中電灯であり、一般的に懐中電灯が発光色の切り替えを予定しないこと、など、本件発明及び甲1発明の全体の趣旨に鑑みると、裁判所の判断は妥当であると考える。
以  上
(担当弁理士:佐伯 直人)