審決取消請求事件 » 平成30年(行ケ)第10160号「美容器」事件

名称:「美容器」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成30年(行ケ)第10160号 判決日:令和元年7月30日
判決:請求棄却
特許法29条2項、同法123条1項2号
キーワード:発明の要旨認定
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/843/088843_hanrei.pdf

[概要]
本件特許発明の要旨は、発明の詳細な説明や図面を参酌して理解した技術内容をもとに、特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきであるとして、本件特許発明の進歩性を肯定した審決が維持された事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第6121026号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~4に係る発明についての特許無効審判(無効2018-800035号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件特許発明]
【請求項1(本件特許発明1)】
棒状のハンドル本体と、該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と、上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドルと、
上記ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形成された一対の分枝部と、
該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに、上記凹部に連通する軸孔と、
該軸孔に挿通された一対のローラシャフトと、
該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラと、
を備え、
上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が、上記ハンドルの表面を構成している、美容器。

[本件特許発明1と甲1発明との相違点]
1.相違点1
「ハンドル」について、甲1発明は、本件特許発明1の「表面から内方に窪んだ凹部」がある「ハンドル本体」、「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」及び「上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバー」に相当する構成を備えておらず、代わりに「芯材13と、芯材13の外周に被覆され上下に分割された一対の外装カバー14、15」を備え、その結果として、本件特許発明1は、「上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が、上記ハンドルの表面を構成している」のに対し、甲1発明は、「上記一対の外装カバー14、15の表面が、上記ハンドル12の表面を構成している」点。
※相違点2及び3は、省略

[審決]
甲1発明及び甲2事項から相違点1に係る構成を容易想到とすることはできない。

[原告の主張]
発明の要旨の認定は、特許請求の範囲の記載に基づいて行わなければならないところ、本件特許発明1の請求項の記載に基づく限り、本件特許発明1の構成から、ハンドルを上下又は左右に分割した構成は除外されていない。したがって、本件特許発明1は、ハンドル本体とハンドルカバーが上下に分割された構成が含まれるものとして認定しなければならない。
したがって、これを含めていない本件審決の本件特許発明1の要旨の認定は誤っている。
甲1発明の「外装カバー15」が本件特許発明1の「ハンドル本体」に相当し、甲1発明の「外装カバー14」が本件特許発明1の「ハンドルカバー」に相当することから、本件特許発明1と甲1発明との相違点1は、以下のとおりとなる。
「本件特許発明1の『ハンドル本体』に相当する甲1発明の『外装カバー15』は、『表面から内方に窪んだ凹部』を有していないため、甲1発明の『外装カバー14』は、『凹部を覆うようにハンドル本体に取り付けられた』ものではない。」
このことから、芯材13に代えて、甲2に示された背面カバー5の一部に相当する部材(以下、「背面カバー相当部材」という。)を用い、甲1発明の外装カバー15の内部に背面カバー相当部材を設けて、外装カバー15と背面カバー相当部材とをネジ留めし、さらに、背面カバー相当部材に外装カバー14を差し込むようにして、甲1発明の把持部12bを構成することは、容易に想到することができる。
そして、甲1発明の把持部12bを上記の構成にすることにより、外装カバー15には、表面から内方に窪んだ凹部が形成された上で、外装カバー14は、凹部を覆うように、ハンドル本体に相当する外装カバー15に取り付けられることになる。
したがって、相違点1については、容易に想到することができる。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.本件特許発明について
『・・・(略)・・・本件特許発明は、次のとおりのものであると認められる。
本件特許発明は、美容器に関するものである(段落【0001】)。従来、肌をローラによって押圧等してマッサージ効果を奏する美容器が種々提案されており、このような美容器の例として、二股に分かれた先端部を有するハンドルの当該先端部に一対のローラが軸回転可能に取り付けられたものが開示されているところ、このような美容器は、一対のローラを肌に接触させた状態で往復動作させることにより、肌の押圧とともに肌の摘み上げがなされてマッサージ効果を奏するものである(段落【0002】、【0003】)。例えば、ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して、ハンドルの内部に各部材を収納する構成とした場合には、ハンドルの成形精度や強度が低下したり、各部材がハンドルの内部を密閉する作業に手間がかかって美容器の組立て作業性が低下したりするおそれがあるため、本件特許発明は、このような背景に鑑みてされたもので、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、組立て作業性の向上が図られる美容器を提供しようとするものである(段落【0004】、【0005】)。本件特許発明は、ハンドル本体は棒状であって、長手方向の一端に一対の分枝部が一体的に形成されており、ハンドル本体には凹部が形成され、該凹部は分枝部に形成された軸孔が連通すると共に、ハンドルカバーによって覆われているので、ハンドルを上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルカバーによって凹部の内部を容易に密閉できることから美容器の組み立て作業性が向上する(段落【0007】)。』

2.本件特許発明の要旨の認定について
『(1) 前記1によると、本件特明発明の要旨は、前記第2、2のとおりと認められ、ハンドルを上下又は左右に分割した場合を含まないとすることは明らかである。
(2) 原告は、本件特許発明1は、ハンドルが上下又は左右に分割された構成が除外されていないのに、本件審決は、この構成が含まれたものとして認定していないから、本件審決の本件特許発明1の要旨の認定には誤りがある旨主張する。
しかし、本件特許発明は、前記1で認定したとおりのものであって、棒状のハンドル本体に表面から内方に窪んだ凹部を形成し、該凹部をハンドルカバーによって覆うことで、ハンドルを上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルの内部を容易に密閉できるようにし、組立て作業性を向上させたことにあると認められ、本件特許の特許請求の範囲の記載もそのようなものとして理解すべきであるから、本件特許発明1を、ハンドルが上下又は左右に分割された構成を含むものと認めることはできない。
これに対し、原告は、特許発明の要旨認定は、当該特許の特許請求の範囲の記載のみによって行うべきである旨主張する。発明の要旨認定は、特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるべきである(最判平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)が、その技術内容を理解するためには、発明の詳細な説明や図面を参酌することができるのであって、そのようにして理解した技術内容をもとに、特許請求の範囲の記載に基づいて発明の要旨を認定すべきである。本件においては、上記のとおり本件特許発明の要旨を認定することができるのであって、これに反する原告の主張は、採用することができない。』

3.無効理由1に関する本件審決の判断について
『本件特許発明は、前記1(2)のとおり、棒状のハンドル本体に表面から内方に窪んだ凹部を形成し、該凹部をハンドルカバーによって覆うことで、ハンドルを上下又は左右に分割した場合に比べて、ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに、ハンドルの内部を容易に密閉できるようにして組立て作業性を向上したものであるところ、このような課題は、甲1にも甲2にも記載されておらず、技術常識であったとも認められない上、甲1発明においては、上下に分割された一対の外装カバー14、15の表面がハンドル12の表面を構成しているのに対し、甲2事項においては、透明窓部6が設けられた背面カバー部材5により、凹部のうちヘッド部3の部分を覆い、ハンドルカバーにより凹部のうち把持部2の部分を覆い、本体ケース4の把持部2の表面及びハンドルカバーの表面により、把持部2の表面を構成しているのであって、ハンドルの構成が大きく異なる。
また、・・・(略)・・・甲1発明において、芯材13は、外装カバー14、15が被覆されて、ネジ16により固定されるものであるから、ハンドルの外装カバーの文字どおりの芯材としての機能を有するとともに、ローラ支持軸を保持し、外装カバーの外表面の導電メッキされた導電部と、ローラ支持軸との間の電気的絶縁が保たれるように離間させる、絶縁材としての機能を有するものと認められる。このような機能を有する芯材13を甲1発明から取り除くことは容易とはいえず、芯材13に代えて、甲2に示された背面カバー5の一部に相当する部材(背面カバー相当部材)を用いることはできない。
したがって、甲1発明に甲2事項を適用する動機付けがあると認めることはできない。』

[コメント]
本判決では、本件特許発明の要旨について、ハンドルを上下又は左右に分割した場合を含まないことが明らかである、とされた。本件明細書(特に段落【0004】、【0007】)には、ハンドルを上下又は左右に分割した場合に生じる課題が本件特許発明によって解決されることが明記されており、かかる記載を参酌して、特許請求の範囲に記載された技術内容が理解されたためである。特許権者にとっては、背景技術(課題)や作用効果に関する丁寧な記載が奏功したといえる。
以上
(担当弁理士:椚田 泰司)