審決取消請求事件 » 平成29年(行ケ)第10035号「固体酸化物型燃料電池」事件

名称:「固体酸化物型燃料電池」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10035号 判決日:平成30年2月27日
判決:請求棄却
特許法131条の2第1項、第2項
キーワード:審判請求書、請求の理由の補正
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/568/087568_hanrei.pdf

[概要]
原告が審判請求書における請求の理由を一部補正したが、審判長は、当該補正が請求の理由を変更するものであるため補正を許可しない旨の決定をした手続につき、特許法第131条の2第2項の規定に基づいて理由を付することなく補正を許可しない旨の決定をしたが、審判長は、特許法第131条の2第1項の規定に基づいて補正を却下すべきであるため、法令の解釈適用に誤りがあるとされた事例。
ただし、審判請求書の請求の理由の補正が要旨の変更に当たらないとしても、請求の理由が存在しないとして、請求が棄却されている。

[事件の経緯]
被告は、特許第5603515号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~4に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2015-800088号)を請求したところ、被告は訂正請求をした。特許庁は、訂正を認めた上で本件審判の請求を棄却する旨の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の一部の請求を認めつつも、全体としては請求が成り立たないとして、請求を棄却する判決を行った。

[本件発明]
【請求項1】
一般式ABO3で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含有するペロブスカイト構造を有する複合酸化物を主成分として含有し、
電子線後方散乱法によって結晶方位解析した場合、結晶方位差が5度以上の境界によって規定される複数の同一結晶方位領域の平均円相当径が、0.03μm以上2.8μm以下である、
固体酸化物型燃料電池用空気極材料。

[取消事由](本稿では取消事由2の一部のみを採り上げる)
取消事由1:本件訂正の適否に係る判断の誤り
取消事由2:新たに補充した無効理由1’及び無効理由1’’に係る各判断の誤り
取消事由3:実施可能要件に係る判断の誤り
取消事由4:本件発明1及び2のサポート要件に係る判断の誤り
取消事由5:本件発明3及び4のサポート要件に係る判断の誤り
取消事由6:新規性又は進歩性に係る判断の誤り

[審決の判断]
原告は、無効理由1に関連して、「結晶方位差が所定角以内の結晶子どうしの配置状態」が制御できなければ、同一結晶方位領域の平均円相当径を目標値に制御することは不可能であるし、「同一結晶方位領域」を解析する際に、粉体充填密度をどのような値に設定するのかは何ら記載されていない旨(以下「無効理由1’’」という。)主張する。
しかしながら、平成28年5月20日付け補正許否の決定により、無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから、無効理由1’’に係る主張は、本件の審理範囲内の主張ではなく、無効理由1’’の主張が請求書にも記載されていたと仮定してみても、本件発明に係る空気極材料及び固体酸化物型燃料電池は、本件明細書及び図面の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が製造することができるといえるから、無効理由1’’の主張にも合理性は認められず、原告の主張は、採用し得ない。

[原告の主張]
審決は、平成28年5月20日付け補正許否の決定により、無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから、無効理由1’’は、本件審理範囲内の主張ではないと判断した。
しかしながら、無効理由1’’については、無効理由1の主要事実の主張を補完する間接事実をいうものであって、これを追加することは請求理由の要旨変更ではないから、本件審理範囲内の主張ではないとした審決の判断には、誤りがある。

[裁判所の判断]
『ア 特許法131条の2第1項本文は、請求書の補正は、その要旨を変更してはならない旨規定するのに対し、同条2項は、審判長は、請求書に係る請求の理由の補正がその要旨を変更するものであっても、当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであり、かつ、被請求人も同意したことその他の同項各号のいずれかに該当する事由があるときは、決定をもって、当該補正を許可することができる旨を規定し、同条4項は、同条2項の決定に対しては、不服を申し立てることができない旨を規定する。
上記各規定は、請求の理由の要旨を変更する補正については、審理対象を変動させるものであるから、審理の遅延を防止する観点から、これを許可することができないとする一方、要旨を変更する補正であったとしても、審理の遅延という観点から不当なものではなく、被請求人も同意するなど特段の事情が認められる場合には、審判長の裁量的判断として当該補正を許可することができるものとし、このような場合において、仮に不許可の決定がされたとしても、審判請求人はいつでも別途の無効審判請求をすることが可能であるから、審判請求人は、当該不許可決定に対しては不服を申し立てることができないとしたものである。』
『そうすると、審判請求人が、請求書の補正が要旨を変更するものではない旨争っている場合において、審判合議体において当該補正が要旨を変更するものであることを前提として、これを許可することができないと判断するときは、審判合議体は、同条1項に基づき、当該補正を許可しない旨の判断を示すのが相当である。それにもかかわらず、審判長が、同条1項に基づく不許可の判断を示さず、同条2項に基づき、裁量的判断として補正の不許可決定をする場合には、審判請求人は、同条4項の規定により、審判手続において、当該決定に対しては不服を申し立てることができず、審決取消訴訟においても、上記決定が裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものでない限り、上記決定を争うことができなくなるものと解される。このような結果は、審判請求人に対し、要旨の変更の可否を争う機会を実質的に失わせることになり、手続保障の観点から是認することができない。』
『イ ・・・(略)・・・。
上記認定事実によれば、原告は、審判手続において、上記補正が要旨を変更するものではない旨争っていたにもかかわらず、審判長は、当該補正が要旨を変更するものであることを前提として、特許法131条の2第1項ではなく、同条2項に基づき、格別理由を付することなく、上記補正を許可することができないと決定したものと認められる。そうすると、審決には、同条についての法令の解釈適用を誤った結果、要旨変更の存否についての審理不尽の違法があるといわざるを得ない。原告の主張は、上記の趣旨をいうものとして理由がある。』
『もっとも、審決は、無効理由1’’の主張が請求書に記載されていたと仮定した場合であっても、本件発明1及び2の空気極材料及び本件発明3及び4の固体酸化物型燃料電池は、無効理由1と同旨の理由により、本件明細書及び図面の記載並びに本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が製造することができるといえるから、当該主張は、合理性が認められず、採用することができないとしている。
そこで検討するに、無効理由1’’に係る主張は、結晶方位差が所定角以内の結晶子どうしの配置状態の制御及び同一結晶方位領域の解析時の粉体充填密度の不明をいうものであって、前者については、本件発明に係る「同一結晶方位領域」の定義に関する事項をいうものであり、既に審理の対象とされている事項につき補充主張するものにすぎず、後者については、無効理由1において主張した6つの不明な製造方法に係る制御因子のほかに、製造方法に密接に関連する解析条件に係る問題点を補充的に指摘するものにすぎないから、要旨を変更するものではないと解するのが相当である。そして、無効理由1’’に係る主張の内容を検討するに、前者については、本件発明にいう「同一結晶方位領域」は、「結晶方位差が5度以上の境界によって規定される領域」と一義的に定義されているのであるから、当該定義を前提とすれば、原告の主張にかかわらず、EBSD法によって「同一結晶方位領域」を計測することができることは明らかである。また、後者については、前記(1)のとおり、粉体充填密度が同一結晶方位領域の大きさを左右することを立証し得る証拠及び技術常識を認めることができない。
したがって、原告の主張は、いずれも実施可能要件に係る前記3の判断を左右するものとはいえない』。
『エ 以上によれば、審決の判断は、結論において取り消すべき違法はなく、原告の主張は、審決の結論に影響を及ぼさない事項についての違法をいうものにすぎず、採用することができない。』

[コメント]
無効審判において、請求の理由の補正は要旨を変更するものであってはならず(特許法第131条の2第1項)、この場合、審判長は決定をもって手続を却下することができる(特許法第133条第3項)。ただし、その際には、文書をもって行い、理由を付さなければならない(特許法第133条第4項)。この却下の決定に対しては、行政不服審査法に基づき不服の申立をすることができる(行政不服審査法第4条)。
しかし、今回は、審判長が理由を付すことなく補正を却下したため、裁判所は、根拠条文が特許法第131条の2第2項に基づくものであるとし、この法令の規定による却下は不服の申立の機会が存在しないため(特許法第131条の2第4項)、手続保障の観点から是認できないものとして、法令適用の誤りがあると判断した。
ただし、審判段階において、請求の理由の補正が要旨変更に当たらないとしても、実施可能要件は充足しているとして判断しており、裁判所においても、同様の判断を行ったことで、請求は棄却されている。
以上
(担当弁理士:佐伯 直人)