審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)10273号「ガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド」事件

名称:「ガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)10273号 判決日:平成29年8月8日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:進歩性、相違点の判断、技術常識
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/019/087019_hanrei.pdf

[概要]
出願時の技術常識に基づき、相違点に係る構成は設計事項に過ぎないとして、本願発明の進歩性が否定された事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2014-27631号)に係る拒絶査定不服審判(不服2016-296号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願発明]
【請求項1】
消火剤ガスを使用するガス系消火設備において消火対象区画に消火剤ガスを放出するために設置される消音手段を備えた噴射ヘッドであって、前記消音手段を、消火剤ガスが供給される配管に螺合して接続された噴射ヘッドの内部にオリフィスを形成するとともに、オリフィスの出口部に消火剤ガスが流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金属多孔性の気流の乱れをなくす材料を、前記オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出、開放されてなるように配設して構成したことを特徴とするガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド。

[本願発明と引用発明との相違点]
相違点1) 省略
相違点2) 本願発明においては、オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出、開放されてなるように配設して構成したのに対し、引用発明においては、ガス導入孔7の出口部の反対側の焼結フィルタ31の外面が、ベースボディ202に形成された孔21を介して大気に開放されている点。

[取消事由]
相違点2についての判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『・・・(略)・・・本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、前記第2の3(2)及び(3)の審決が認定したとおりであると認められる。
・・・(略)・・・
そこで、検討するに、本願発明事項に係る「面状」、「露出」及び「開放」という用語は、本願明細書では用いられていないので、同明細書からは、直ちにこれらの語の意義は明らかにならない。そこで、本願発明の実施例である本願明細書の図7(b)、図8(a)及び図8(b)を参照すると、図7(b)においては、オリフィスの出口部の反対側に位置する材料7の外面(底面)の一部が噴射ヘッド1Jを構成する部材の一部に覆われ、他の部分が開口を介して大気と通気可能に配設されていることが図示されている。そうすると、本願発明の「面状」とは、オリフィスの出口部の反対側に位置する材料7の外面の全部を意味するものではなく、ある程度以上の面積をもち、面として認識できるものを意味すると解することができる。
他方、引用発明は、本願発明と同様に、ガス系消火システムの消音ノズルに関する発明であり、消火ガスを放出する際に発生する騒音の軽減を課題とするものであるから、その技術分野及び解決すべき課題は、本願発明と共通しているものと認められる。また、引用発明においては、本願発明の材料7に相当する焼結フィルタ31及び32が配設され、オリフィスに相当する開口207の出口部の反対側に位置する焼結フィルタ31の外面(底面)は、ベースボディ202で押さえられ、複数の孔21により大気に露出、開放されているが、引用発明の孔21は小さなものであり、その開口部が面として認識するに足る面積を備えているとまではいうことはできない。
ところで、本願発明の図7(b)の噴射ヘッド1Jの底部に設けられた開口部及び引用発明の孔21は、いずれもガスの流路となる開口部である。前記認定のとおり、引用文献4には、「フローダウン用、安全弁用といった蒸気や空気の放風用消音器の改良に関する考案」が記載されているところ、「従来の多孔ディフューザ10では、ディフューザの発生音は開口部を通過する流速で支配され、多孔ディフューザ10での発生音を小さくするためには、十分大きな開口面積をとる必要がある。」、「抑えの多孔板6を通過する流速はできる限り小さくする方が発生音は小さくなり、その開口面積は少なくとも全量放風時のチョーク断面積以上とする必要がある」と記載され、これによると、蒸気や空気のような気体である流体が通過する際の流速が一定であれば、多孔板の開口面積を大きくすることにより、発生する騒音を小さくすることができるとの技術常識が存したことが理解できる。そして、この技術常識は、フローダウンや安全弁等の放風用の消音器に限定されるものではないことも、当業者であれば当然に理解するところであると解される。
そうすると、当業者であれば、こうした技術常識を踏まえ、騒音を低減するという課題を解決するため、引用発明の孔21について一定の開口面積を確保して、発生音が小さくなるように設計するものと考えられ、その際に、ガスの流路となる開口部をどのようなものとするかは設計上の事項にすぎないというべきである。
したがって、当業者が、引用発明の孔21を小数又は1つの孔を開口として、焼結フィルタ31の「外面が面状に大気に露出、開放されてなるように配設して構成」することを容易に想到し得たものということができる。』

[コメント]
本判決では、本願発明事項に係る「面状」、「露出」及び「開放」という用語の意義について、上記の下線部のように解釈された。この解釈は、本願明細書の図7(b)の図示を根拠としており、妥当であると思われる。なお、原告は、これらの用語を追加する補正をした際に、その補正の根拠として、明細書における記載の他に図7(b)及び図8(a)、(b)を挙げている。
私見では、相違点2が実質的な相違点であるのか疑問が持たれた。引用発明の孔21は、放出される消火ガスが通るための面積を有しており、焼結フィルタ31の外面は、面積が小さいとはいえ“面状に”大気に露出、開放されている、といえなくもないためである。この点について、本判決では、『引用発明の孔21は小さなものであり、その開口部が面として認識するに足る面積を備えているとまではいうことはできない』と認定し、相違点2が実質的な相違点であることを認めている。但し、引用文献4から認められる技術常識を踏まえ、相違点2に係る構成は設計事項と判断されている。出願時の技術常識に基づき論理づけされた事例として参考にできる。 以上
(担当弁理士:椚田 泰司)