審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)第10020号「横型冷蔵庫」事件

名称:「横型冷蔵庫」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)第10020号 判決日:平成28年9月26日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:進歩性、阻害要因

[概要]
主引用発明の主要部を変更する本件発明では主引用発明の効果が損なわれるので動機付けがないとして請求不成立とされた無効審判の審決に対し、主引用発明の構成を変更することで失われる効果と主引用発明の目的には関係がないとして、これらの事項は本件発明の阻害要因に該当せず、進歩性が否定された事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第3610005号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~3に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2015-800066号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本件発明]
【請求項1】
天板(19)が配設される天井部に冷気用の開口部が形成されていない断熱箱体(16)に内部画成した冷蔵室(17)を、冷凍機構(24)の冷却器(27)により冷却された空気を強制対流させることで冷却すると共に、前記断熱箱体(16)における天板(19)の上面にショーケース(12)が配置された横型冷蔵庫において、
前記ショーケース(12)は、外箱(37)と、この外箱(37)の内部に所要の空間を存して設けられた内箱(38)と、両箱(37、38)間に充填した断熱材(39)とから前記断熱箱体(16)とは別体に構成されて、前記断熱箱体(16)の上面に断熱的に完全に遮断された状態で配置されると共に、その上部にのみ開口部(12a)が設けられ、
前記冷凍機構(24)に接続する冷却パイプ(47)が前記内箱(38)の断熱材(39)側の外面に接触するよう配設されて内箱(38)を冷却し、該内箱(38)に接触して冷却された空気が自然対流することによりショーケース(12)に内部画成した収納室(40)を冷却するよう構成したことを特徴とする横型冷蔵庫。

[審決]
1.無効理由1:引用発明1を主引例として、本件発明の進歩性が肯定された。
(1)相違点2
本件発明1は、天板が配設される天井部に冷気用の開口部が形成されておらず、ケースが断熱箱体(16)の上面に断熱的に完全に遮断された状態で配置され、冷却パイプ(47)が内箱(38)の断熱材(39)側の外面に接触するよう配設されて内箱(38)を冷却するのに対し、
甲1発明は、天面に開口を有していて、庫内ファンによって冷却室の上部に設けられた冷気吹出口から送られる冷気は、開口を介して、まず断熱体箱に送られ、断熱箱体の冷却を行い、その後、断熱箱体本体に送られ、断熱箱体本体内の冷却を行った後、冷気吸込口から吸い込まれ、再び蒸発器と熱交換を行っている点。

(2)相違点2の容易想到性の判断
甲1発明は、当該構成を採用することにより、「1つの冷却ユニットでこの両方を冷却することができる」という効果も奏し、かつ、「一般的にアンダーカウンターと称する業務用横型冷蔵庫に関し、特に使用用途の拡大」が図れるというものである。
そして、このことから、「断熱箱体本体の天面開口部」及び「断熱箱体」の「底面」の「間口」を設ける構成は、甲1発明の主要部分といえる。
本件発明1に係る天面に開口を有する構成を、断熱箱体本体の天面開口部を設けないようにすることは、甲1発明の主要部分を変更するものであって、その結果、断熱箱体に追加の冷却手段を設ける必要があり、甲1発明が「1つの冷却ユニットでこの両方を冷却することができる」という効果も奏さないものとなすことから、甲1発明において、「断熱箱体本体の天面開口部」を設けないようにする構成を採用することの動機付けはない。
したがって、甲1発明に、甲2~10の記載事項を適用することは、その適用に動機付けがないから、当業者が容易になし得たこととはいえない。

[取消事由](筆者にて一部抜粋)
1.取消事由1(本件発明の進歩性の不存在-甲1発明を主引例とするもの)
(1)相違点2の容易想到性の判断

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『1.取消事由1(本件発明の進歩性の不存在-甲1発明を主引例とするもの)
ア 甲1発明への甲7に記載された事項の適用について
『・・・(略)・・・
以上によれば、甲1発明と甲7に記載された事項は、少なくとも、複数の保存室を有する冷蔵庫に関するものという点で、技術分野が共通である。
・・・(略)・・・
以上によれば、甲1発明と甲7に記載された事項は、使用用途の拡大、収容できる要冷蔵品の幅を広げることという点で、課題が共通であるということができる。
・・・(略)・・・
以上によれば、甲1発明と甲7に記載された事項は、蒸発器を1つ設けるか複数設けるかという違いはあるものの、1つの圧縮機及び1つの凝縮器を、冷却器ないし冷却パイプと連結し、その中に冷媒を循環させ、冷媒の蒸発により、冷蔵庫内の複数の保存室を冷却するという作用・機能において、共通する。
・・・(略)・・・
甲1には、上の断熱箱体の保存室の外側に冷却空間を形成するように伝熱パネルを設け、前記冷却空間に冷気を循環させることにより前記伝熱パネルを冷却し、前記伝熱パネルの自然対流熱伝達及び輻射冷却作用により、保存室の内部を冷却する方法(実施例3及び4)が記載されており、また、前記方法を採用することにより、下の断熱箱体を通常の横型冷蔵庫、上の断熱箱体を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存することができる恒温高湿ショーケースとして使用することが可能であることが記載されている。そうすると、甲1は、食品の乾燥防止のため、高湿状態を維持できる、冷気の強制対流以外の冷却方法を採用することを記載したものといえるから、甲1発明の上の断熱箱体の保存室の内部の冷却方法を、食品の乾燥を防止し得る別の冷却方法に変更することにつき、示唆があるといえる。
一方、前記1(3)のとおり、甲7には、冷蔵室内や野菜室内に低温となる冷凍室用冷却器からの冷気を供給しないので、冷蔵室内や野菜室内に収納した食品が乾燥することもないとの記載があり、冷蔵室用及び野菜室用冷却パイプを循環する冷媒の蒸発による冷却が、食品の乾燥防止のため、高湿状態を維持できる冷却方法であることが記載されているといえる。そうすると、甲7には、甲1発明の前記の上の断熱箱体の保存室を高湿度で保存する必要のある寿司ネタや野菜などを保存するために利用する場合には、その内部の冷却方法を、甲7に記載された冷却パイプの設置による冷媒の蒸発による冷却方法に変更することにつき、示唆があるといえる。
また、前記aのとおり、甲7には、家庭用冷蔵庫に限らず、庫内を複数に区画してそれぞれ異なる温度で管理する各種冷蔵庫に有効な発明であることが記載されており、甲1発明は、複数の保存室を有する冷蔵庫であるから、甲7には、甲7に記載された事項を甲1発明に適用する示唆があるといえる。
e 以上によれば、甲1発明と甲7に記載された事項とは、一般的な技術分野及び課題等を共通にするだけでなく、甲1に記載された実施例3及び4と甲7に記載された事項とにおいて、上の断熱箱体における冷却中の保存品の乾燥を防止するという具体的課題も共通するものであるから、甲1発明につき、上の断熱箱体の保存室の内部の冷却方法として、甲7に記載された冷却パイプの設置による冷媒の蒸発による冷却方法を適用する動機付けがあるといえる。
・・・(略)・・・
上下の断熱箱体の間に冷気用の開口部を要するか否かは、上の断熱箱体を下の断熱箱体からの冷気の循環により冷却するか否かという冷却方法の選択の問題にほかならない。
・・・(略)・・・
甲1発明に、甲7に記載された前記の冷却方法を適用すれば、上の断熱箱体用の冷却パイプと下の断熱箱体用の冷却器を、別途に設けることになるから、上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」で冷却することはできなくなる。
しかしながら、前記1(2)のとおり、甲1発明の目的は、業務用横型冷蔵庫の構造を改良し、特に使用用途の拡大のため、庫内に収容できる要冷蔵品の幅を広げることにある。上下の断熱箱体を1つの「冷却ユニット」で冷却するため、蒸発器を1つしか設けないことは、この目的と関係がない。また、前記認定事実(1(3))によれば、甲7には、冷却パイプ内の冷媒の蒸発により冷却される保存室の内部の乾燥を防止できることのほか、①冷却器に湿気の多い冷蔵室や野菜室内の水分が霜となって付着し、冷却器の冷却能力が低下することを防げること、②冷却器を大型化しなくてよくなり、これを収納する区画を小容量化して、冷凍室の有効容積を広くすることができること、③冷気循環のためのダクト等を設ける必要がなくなり、冷凍室、冷蔵室及び野菜室の区画の有効容積を広くすることができることが記載されている。そうすると、蒸発器を複数にして各保存室を冷却する方式を採用するか、蒸発器を1つにして全保存室に当該蒸発器で冷却した冷気を循環させて冷却する方式を採用するかは、当業者が設計に際して効果を考慮して適宜採用し得る設計的事項に該当する。
以上によれば、上下の断熱箱体の間に冷気を通すための開口部がない構成になることや、蒸発器を複数有する構成になることが、甲1発明に甲7に記載された事項を適用することの阻害事由たり得るとは認められない。』

[コメント]
審決では、甲1発明の主要部が「開口部を有する構成」とし、甲1発明の構成を「開口部を設けない構成」に変更することは、主要部の変更であって、「一つの冷却ユニットで両室を冷却する」という効果を損なうので、甲1と甲7とを組み合わせる動機付けがないと判断した。
これに対し、判決では、甲1、7の技術分野、課題、作用機能の共通性を丁寧に認定するとともに、①甲1では開口部を介した冷気による冷却方法以外の冷却方法を開示していること、②甲1に開示された冷却方法と甲7の冷却パイプによる冷却方法が共に乾燥を防止するという具体的課題で一致すること、③甲1の目的“使用用途拡大”と「一つの冷却ユニットで冷却すること」とが関係ないこと、を認定して、審決を取り消した。
本判決の論理構成は、実務上参考になると考える。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)