審決取消請求事件 » 平成26年(行ケ)第10238号「活性発泡体」事件

名称:「活性発泡体」事件
平成26年(行ケ)第10238号 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第3部
判決日:平成27年8月5日
判決:請求認容(審決取消)
関連条文:特許法第36条4項1項
キーワード:実施可能要件

[概要]
薬剤投与に用いる活性発泡体について、実施可能要件違反であるとした審決が取り消された事案。

[本願発明]
天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シートを備えた活性発泡体であって,
前記気泡シートは,ジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物を含有し,薬剤投与の際に人
体に直接又は間接的に接触させて用いることを特徴とする活性発泡体。

[審決の理由]
本願明細書は、本願発明について当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されたものとす
ることができないから、特許法 36 条 4 項 1 号に規定する要件を満たしていないというものであ
る。

[裁判所の判断]
・・・特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野
における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したも
の」でなければならないと定める。特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該
発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を
一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法36条4項1号が上記のとおり規定する趣旨
は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発
明が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規
定する独占的権利を付与する前提を欠くことにあると解される。
そして,物の発明における発明の実施とは,その物の生産,使用等をする行為をいうから(特許法2条
3項1号),同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは,その物を作ることができ,かつ,
その物を使用できることであり,物の発明については,明細書にその物を生産する方法及び使用す
る方法についての具体的な記載が必要であるが,そのような記載がなくても,明細書及び図面の記
載並びに出願当時の技術常識に基づき,当業者がその物を作ることができ,かつ,その物を使用でき
るのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。
さらに,ここにいう「使用できる」といえるためには,特許発明に係る物について,例えば発明が目
的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど,少なくとも何らかの技術上の意義
のある態様で使用することができることを要するというべきである。
これを本願発明についてみると,本願発明は,前記第2の2に記載のとおりの活性発泡体であるから,
本願発明は物の発明であり,本願発明が実施可能であるというためには,本願明細書及び図面の記
載並びに本願出願当時の技術常識に基づき,当業者が,本願発明に係る活性発泡体を作ることがで
き,かつ,当該活性発泡体を使用できる必要があるとともに,それで足りるというべきである。

…これらの記載に接した当業者であれば,本願明細書に記載された各種のゴム又は合成樹脂と,各
種のジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物とを組み合わせ,実施例に記載された製造
方法に従って,本願発明の「天然若しくは合成ゴム又は合成樹脂製で独立気泡構造の気泡シートを
備えた活性発泡体であって,前記気泡シートは,ジルコニウム化合物及び/又はゲルマニウム化合物
を含有」する活性発泡体を製造することができるというべきであり,また,当該活性発泡体を,例え
ば,敷きマットのような,「薬剤投与の際に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことができ
る形態とすることもできるというべきである。

…審決は,活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し認識できるような記載がない
ことを理由に,本願明細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けている。し
かしながら,本願発明の請求項における「薬剤投与の際に」とは,その文言からして,活性発泡体を
用いる時期を特定するものにすぎず,その請求項において,薬剤の効果を高めるとか,病気の治癒を
促進するなどの目的ないし用途が特定されているものではない。よって,本願明細書に,活性発泡体
の薬剤との併用効果についての開示が十分にされていないとしても,活性発泡体を「薬剤投与の際
に人体に直接又は間接的に接触させて用いる」ことに,それ以外の技術上の意義があるということ
ができるのであれば,少なくとも実施可能要件に関する限り,本願明細書の記載及び本願出願当時
の技術常識に基づき,本願発明に係る活性発泡体を「使用できる」というべきである。そして,検討
次第では,少なくとも,本願発明に係る活性発泡体を,血行促進効果を発揮させることができるよう
な形で「使用できる」と認める余地があり得ることは,前記(3)イにおいて説示したとおりである。
よって,審決には,かかる点についての検討を十分に行うことなく,上記のような理由により本願明
細書が特許法36条4項1号所定の要件を満たしていないと結論付けた点で,誤りがあるといわざる
を得ず,審決は,取消しを免れない。

[コメント]
本願請求項は「活性発泡体」に関するものであって、「薬剤効果を高める」等の目的について
は特定されていないため、併用効果に関する薬理作用を裏付ける必要があると主張する審決は妥
当ではないと考える。従って、判決でも言及されているように、発明の効果や実験手法には疑義
を抱く点はあるものの、本願発明に係る活性発泡体の薬剤との併用効果について当業者が理解し
認識できるような記載がないことを理由に実施可能要件を満たさないとした審決には誤りがある、
とした今回の判決は妥当だと考える。但し、審判に差戻された際には、実施可能要件以外の点で
も議論の余地があるように思われる。
判決で示された一般的な規範については、実施可能要件の拒絶理由に応答する際の参考にした
い。