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平成26年(行ケ)10225号「熱間圧延用複合ロール及びその製造方法」事件

名称:「熱間圧延用複合ロール及びその製造方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10225 号 判決日:平成 27 年 6 月 9 日
判決 : 請求認容
特許法 29 条 2 項
キーワード:用途・課題・周知技術・技術常識
[概要]
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消訴訟である。争点は、①進歩
性判断(相違点の判断)の是非及び②実施可能要件の充足―本稿は②を省略―の有無である。
[本件訂正発明1]
……を行って製造される、棒鋼、線材、あるいは形鋼の粗圧延のための熱間圧延用複合ロ
ールであって、
圧延速度が小さいために鋼材と長時間接触することによりロール内部まで温度上昇すると
ともに水冷による冷却が回転ごとに繰り返されることによる熱疲労き裂が起点となってロー
ル表面が損傷することを防止するため、
……したことを特徴とする熱間圧延用複合ロール。
[審決の理由の要点]
相違点1
熱間圧延用複合ロールが、本件訂正発明1では、「棒鋼、線材、あるいは形鋼の粗圧延のた
め」の、「圧延速度が小さいために鋼材と長時間接触することによりロール内部まで温度上昇
するとともに水冷による冷却が回転ごとに繰り返されることによる熱疲労亀裂が起点となっ
てロール表面が損傷することを防止するため」のものであるのに対し、甲1発明では、「仕上
げタンデム圧延機群の後方3基の圧延機に作動ロールとして組み込まれる」ものである点。
相違点1の判断
①本件訂正発明1は、[1]棒鋼、線材、あるいは形鋼の熱間圧延において、特に圧延速度が
遅い上流側の粗圧延機として使用する場合に、[2]ロールが高温となった鋼材と比較的長い時
間接触することにより、熱伝導によってロールの内部まで温度が上昇し、また、水冷による
冷却がロールの回転ごとに繰り返されることにより、ロールの表面から深い亀裂が生じ、こ
の亀裂が起点となって、ロールの表面が損傷し、ひいては表面の一部が剥離する点を解決す
べき課題とする、熱間圧延複合ロールである。
一方、甲1発明は、[1]熱間の帯鋼又は鋼板の仕上げ圧延の後段機群における、[2]高圧下時
のスリップ現象の防止等を課題とする、熱間圧延用複合ロールである。
②そうすると、甲1発明と本件訂正発明1とは、使用される用途及び解決課題が明らかに
異なるところ、甲1~甲7、甲11~甲13の記載事項を見ても、甲1発明に係る熱間圧延
用複合ロールを棒鋼、線材又は形鋼の粗圧延に適用しようとの動機付けがあるとは認められ
ない。
③甲11には、……との記載があるものの、粗圧延における強靭性(耐折損性)を重視し
たものであって、本件訂正発明1のような、粗圧延における「圧延速度が小さいために鋼材
と長時間接触することによりロール内部まで温度上昇するとともに水冷による冷却が回転ご
とに繰り返されることによる熱疲労亀裂が起点となってロール表面が損傷するのを防止」す
るものとはいえない。
④そうすると、甲1発明において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、
当業者が容易になし得たものではない。
[裁判所の判断]
取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 使用用途及び解決課題について
原告は、①熱間仕上げ圧延ロールと同材質のロールを粗圧延ロールとして用いることが本
件特許出願前から周知である、②本件現象(粗圧延ロールにおいて、圧延速度が小さいため
に鋼材と長時間接触することによりロール内部まで温度上昇するとともに水冷による冷却が
回転ごとに繰り返されることによる熱疲労亀裂が起点となって、ロール表面が損傷しやすい
という現象)の防止は、本件特許出願前から周知である、③それゆえ、相違点1に係る本件
訂正発明1の構成は容易に想到できる旨を主張するので、以下、検討する。……
前記1(2)のとおり、甲1発明は、熱間の帯鋼又は鋼板の仕上げ圧延の後段機群における高
圧下時のスリップ現象の防止等を課題とする熱間圧延複合ロールである。そして、上記アの
各刊行物の性質を踏まえて、その各記載を総合すれば、①ハイスロールを棒鋼、線材の圧延
に使用すること(甲31、甲35)及びハイスロールを粗圧延に使用すること(甲35、甲
36、甲45)は、本件特許出願当時の周知技術であること、②熱間圧延において、粗圧延
時における熱疲労亀裂を原因とするロール表面の損傷を防止することは、技術常識として、
ロールの材質いかんにかかわらない技術課題として当業者に認識されていたこと(甲2、甲
3、甲11、甲12、甲13、甲31、甲35、甲36、甲37、甲44、甲45、甲46)
が認められる。そうであれば、当業者が、熱疲労亀裂を原因とするロール表面の損傷の防止
をするという上記技術常識の観点から、甲1発明の熱間圧延複合ロールを、周知技術に従い
棒鋼又は線材の粗圧延のためのものとすることは、格別困難ではない。そうすると、甲1発
明に上記周知技術・技術常識を組み合わせて、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とする
ことは、当業者が容易になし得たことといえる。
(2) 被告の主張について
イ 甲35~甲42の証拠としての適格性について
被告は、甲35~甲42が、甲1、甲11~甲13の技術的意義を明らかにするための補
助資料ではないから証拠適格を欠く旨の主張をする。しかしながら、審決取消訴訟において
提出される証拠が、審判時に提出された引用文献の技術的意義を明らかにするものに限定さ
れるべき根拠はなく、また、上記(1)イにて認定判断のとおり、甲35~37は、周知技術又
は技術常識を明らかにする資料として用いられたにすぎない。したがって、被告の上記主張
は、採用することができない。
[コメント]
発明の解決課題の記載が特許請求の範囲にあり、その記載が相違点の一部となった。周知
技術・技術常識を明らかにするための証拠提出が許された。

平成26年(行ケ)10225号「熱間圧延用複合ロール及びその製造方法」事件

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