審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)第10271号「アルコール飲料の風味向上」事件

名称 : 「アルコール飲料の風味向上」事件
無効審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)第 10271 号 判決日:平成 26 年 11 月 10 日
判決:請求認容(無効不成立審決取消)
平成6年改正前特許法第36条第4項、同法第36条第5項第1号
キーワード:記載要件違反、サポート要件違反

[概要]
原告の主張が認められて、無効不成立審決が取り消された事例。

[参照条文]
旧第36条第4項
前項第三号の発明の詳細な説明の記載には、その発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果
を記載しなければならない。
旧36条5項1号
第二項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
(以下略)

[原告の主張]
(取消事由1)用語に係る実施可能要件違反(旧第36条第4項)
1-1:「バーニング感」、「焼け感」
本件特許出願当時,「バーニング感」又は「焼け感」という用語が,アルコール飲料の風味
を表現するものとして明瞭であったことを認める根拠はなく,現在においても,これらの用
語がアルコール飲料について使用されることはまれであるといえる。・・・本件審決は,実験
例1において,アルコール水溶液について「バーニング感」の有無が味覚パネルによって評
価されたことを指摘するが,・・・アルコール飲料について「バーニング感」や「焼け感」と
いう用語を使用するのは,ほぼ被告の内部に限られるといえ,この点に鑑みれば,上記味覚
パネルによる評価をもって,アルコールに起因する「バーニング感」や「焼け感」という用
語の意味が当業者に明瞭であるということはできない。

1-2:「アルコールの軽やかな風味」
本件審決は,本件発明1につき,アルコールの「苦味」や「バーニング感」が抑制される
と,必ず「アルコールの軽やか風味」が生かされ,その結果として必然的に風味が向上する
旨解しているものと思料される。しかしながら,本件発明1において,アルコール飲料の「苦
味」や「バーニング感」を抑制すること及び「アルコールの軽やか風味を生かす」ことは,
互いに独立した評価項目であり,これらの両方の実現をもって,「風味向上」したと判断され
るべきである。・・・本件明細書には,上記のとおり「苦味」や「バーニング感」の抑制とは
独立した評価項目に係る,「アルコールの軽やか風味」の意義を説明する記載はなく,これが
生かされるという,本件発明の効果を具体的に裏付ける記載もない。また,本件明細書には,
「香り」についての記載はなく,被告の主張するように「軽やか風味」を「香り」と解する
ことはできない。

以上に鑑みると,当業者において,アルコール飲料にシュクラロースを添加することによ
って「アルコールの軽やか風味」が生かされるか否かを判断することは不可能であり,「アル
コールの軽やか風味」の意味するところは明瞭といえる旨の本件審決の判断は,誤りである。

[裁判所の判断]
本件明細書によれば,本件発明の目的は,「アルコール飲料のアルコールに起因する苦味や
バーニング感を抑え,アルコールの軽やか風味を生かしたアルコール飲料の風味向上剤及び
風味向上法を提供すること」(【0004】)であるから,「バーニング感」及び「アルコール
の軽やか風味」という用語の意味の明瞭性が,実施可能要件に関して問題となる。

(取消事由1-1について)
本件特許出願前の公刊物において,アルコールの味につき,「灼く(やく)ような味」・・・,
「灼熱感」,「灼けるような感覚」・・・と表現されていることによれば,本件特許出願当時に
おいて,アルコールの味覚を火による燃焼を連想させる言葉で表現することは,少なくとも
アルコールに接する者の間ではさほど珍しいことではなく,「バーニング感」及び「焼け感」
は,そのような言葉の一例であったものと推認できる。・・・実験例1の結果によれば,20
名の味覚パネルが,5%という比較的低濃度のアルコール水溶液について「焼け」,すなわち,
「バーニング感」の有無を「苦み」の有無と明確に区別して評価していたことが認められ,・・・,
「バーニング感」又は「焼け感」は,アルコール度数の高いものに限らず,多くのアルコー
ル飲料において,特段の困難を伴うことなく知覚し得るものといえ・・・本件審決が,「バー
ニング感」や「焼け感」という用語は,アルコールを飲用する者であれば誰もが分かる感覚
といえ,特段不明瞭な点はないと判断した点に誤りはないと思料する。

(取消事由1-2について)
本件明細書に(よれば)・・・アルコール飲料には,「アルコールの軽やかな風味」・・・並
びにアルコールに起因する「苦味」及び「バーニング感」が併存しているというものと認め
られる。そして,本件発明は,「アルコール飲料にシュクラロースを添加することにより,ア
ルコールの軽やか風味を生かしたまま,アルコールに起因する苦味やバーニング感を抑えて
風味を向上させることができる」というものであるところ・・・,アルコール飲料にシュク
ラロースという異物を添加すれば,これによって,アルコールに起因する「苦味」及び「バ
ーニング感」のみならず,これらと併存する「アルコールの軽やか風味」も影響を受ける可
能性がある。この点に鑑みると,当業者は,本件発明の実施に当たり,アルコール飲料にシ
ュクラロースを添加することによって,アルコールに起因する「苦味」及び「バーニング感」
を抑える一方,「アルコールの軽やか風味」については「生かしたまま」,すなわち,減殺す
ることなく,アルコール飲料全体の風味を向上させられるか,という点を確認する必要があ
(り)・・・,この確認のためには,「アルコールの軽やか風味」の意味を明らかにすること
が不可欠というべきである。

本件明細書中,「アルコールの軽やか風味」の意味を端的に説明する記載は,見られな
い。・・・上記のとおり,本件明細書には,シュクラロースを添加したアルコール水溶液又は
アルコール飲料が示した好ましい味として,「味覚の柔らかな,苦味のない,アルコールの焼
け感のない(飲料)」,「清涼で好ましい(もの)」,「果汁感があり,清涼な甘味を持つ良好な
(飲料)」などが記載されている。 しかしながら,本件明細書の記載のすべてを参酌しても,
これらの「好ましい味」が「軽やか風味」に該当するものと直ちにいうことはできず,両者
の関係は不明といわざるを得ない。・・・「軽やか風味」の意味が不明瞭である以上,上記確
認は不可能であるから,本件特許の発明の詳細な説明は,「アルコールの軽やか風味」という
用語に関し,実施可能性を欠くというべきである。

[コメント]
実施例として官能評価を記載する場合には、評価基準を可能な限り明確に記載するべきで
ある。