審決取消請求事件 » 平成25(行ケ)第10195号 「ベバシズマブ」事件

名称:「ベバシズマブ」事件
知的財産高等裁判所特別部:平成25(行ケ)第10195号
(他、平成25(行ケ)第10196号、平成25(行ケ)第10197号、平成25(行ケ)
第10198号でも同様の判決がなされている)
判決日:平成26年5月30日
判決:審決取消
特許法67条2項、67条の3第1項1号、68条の2
キーワード:存続期間の延長登録

[事件の経緯]
本件医薬品について、同一の有効成分及び同一の効能・効果であって、用法・用量を変更した
本件先行処分を、本件処分以前に受けていた。
[本件特許発明]
【請求項1】抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニストを治療有効量含有する、癌を治療
するための組成物。

[審決の内容]
特許法67条の3第1項1号の判断において、「特許発明の実施」は、処分の対象となった医薬
品その物の製造販売等の行為ととらえるのではなく、処分の対象となった医薬品の承認書に記載
された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項(以下「発明特定事項に該当す
る事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。

本件特許発明1は、「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」を有効成分とし、「癌」
の治療を用途とする医薬の発明である。

本件処分は、一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」、効能・効果が「治癒切除不能な進行・
再発の結腸・直腸癌」に係る医薬品を対象とするものである。「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」
は、本件特許発明1の有効成分である「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」に該
当し、「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」は、本件特許発明1の用途における治療対象
である「癌」に該当する。

これに対し、本件先行処分は、一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」、効能・効果が「治
癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に係る医薬品を対象とするものであり、本件処分の対
象となった医薬品と同じ「発明特定事項に該当する事項」を備えた医薬品を対象とするものであ
る。そうすると、本件特許発明1のうち、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該
当する事項」によって特定される範囲は、本件先行処分によって実施できるようになっていたと
いえる。

以上のとおり、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められず、
本件出願は同法67条の3第1項1号に該当し、特許権の存続期間の延長登録を受けることがで
きない。

[裁判所の判断]
同法67条の3第1項1号は、「その特許発明の実施に・・・政令で定める処分を受けることが
必要であつたとは認められないとき。」と、審査官(審判官)が延長登録出願を拒絶するための要
件として規定されているから、審査官(審判官)が、当該出願を拒絶するためには、①「政令で
定める処分を受けたことによっては、禁止が解除されたとはいえないこと」(第1要件)、又は、
②「『政令で定める処分を受けたことによって禁止が解除された行為』が『その特許発明の実施に
該当する行為』には含まれないこと」(第2要件)のいずれかを選択的に論証することが必要とな
る・・・。

医薬品の成分を対象とする特許については、薬事法14条1項又は9項に基づく承認を受ける
ことによって禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲は、上記審査事項のうち「名称」、「副
作用その他の品質」や「有効性及び安全性に関する事項」を除いた事項(成分、分量、用法、用
量、効能、効果)によって特定される医薬品の製造販売等の行為であると解するのが相当である。

本件先行処分では、本件医薬品につき、本件先行処分で承認された用法・用量(他の抗悪性腫
瘍剤との併用において、通常、成人にはベバシズマブとして1回5mg/kg(体重)又は10
mg/kg(体重)を点滴静脈内投与し、投与間隔は2週間以上とする。)によって特定される使
用方法による使用行為、及び同使用方法で使用されることを前提とした製造販売等の行為につい
て禁止が解除されたのに対し、本件処分では、本件処分で追加された用法・用量(他の抗悪性腫
瘍剤との併用において、通常、成人にはベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)を点
滴静脈内注射し、投与間隔は3週間以上とする。)についての上記各行為の禁止が解除されたので
あり、本件処分によって初めて、XELOX療法とベバシズマブ療法との併用療法のための本件
医薬品の販売等が可能となったものである(医薬品においては、特定の用法・用量における特許
発明の実施について、相当期間の臨床試験を経て、副作用が少なく、安全性が高いことが確認さ
れてから、ようやく承認がされるのであり(甲25)、このことからしても、承認における審査事
項となった、特定の用法・用量とは異なる用法・用量による特許発明の実施については、禁止の
解除がされていないことは明らかである。)。したがって、本件特許発明については、本件処分に
よって、初めて上記の範囲で禁止が解除されたのであるから、本件出願は、特許法67条の3第
1項1号には該当しないことは明らかである。

このような延長制度の趣旨及び要件規定の文言の規定振りに照らすならば、同号における「特
許発明の実施」は、具体的な医薬品の製造販売等の承認処分の内容ではなく、医薬品の承認書に
記載された事項のうち、特許発明の発明特定事項と重複する事項によってのみ特定される医薬品
の製造販売等の行為ととらえるべきであるとする被告の主張を採用することはできない。

[コメント]
特許庁の審査基準に基づく運用では、医薬品の承認書に記載された事項のうち、特許発明の発
明特定事項と重複する事項によってのみ特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえているた
め、本件特許発明のように、発明特定事項として用法・用量が規定されていない場合は、先行処
分によって、あらゆる用法・用量における特許発明の実施が可能となるものと判断されていた。

裁判所においては、この点が制度趣旨及び先の最高裁判決(最高裁平成21年(行ヒ)第32
6号)の判示に反することを指摘し、承認事項のうち(成分、分量、用法、用量、効能、効果)
によって特定される医薬品の製造販売等の行為が、禁止が解除される「特許発明の実施」の範囲
であると判事した。薬事法の承認内容に沿う現実的な基準であり、特許審査基準の改定が望まれ
る。