審決取消請求事件 » 平成25年(行ケ)第10018号 「薬剤中におけるアミジン基を有する活性物質の生物学的利用率の向上」事件

名称:「薬剤中におけるアミジン基を有する活性物質の生物学的利用率の向上」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成25年(行ケ)第10018号
判決日:平成25年11月27日
判決:請求棄却(審決維持)
特許法29条1項3号
キーワード:新規性、薬理データ

[概要]
引例には、本願発明に含まれる引用化合物の記載があるが、引用化合物自体の直接的な薬理デ
ータが記載されていない場合であっても、類似化合物の薬理データの記載から本願発明の医薬用
途の有効性が類推されると判断された事例。

[特許請求の範囲]
少なくとも1種の活性アミジン基を有する薬物の生物学的利用率を向上させるために,薬剤中の
前記薬物のアミジン基を,下記式[化2](Rは,水素原子,アルキル基および/またはアリル基
を表す)のN,N’-ジヒドロキシアミジン(Ⅰ),N,N’-ジヒドロキシアミジンエーテル(Ⅱ),
N,N’-ジヒドロキシアミジンジエーテル(Ⅲ),N,N’-ジヒドロキシアミジンエステル(Ⅳ),
N,N’-ジヒドロキシアミジンジエステル(Ⅴ)または4-ヒドロキシ-1,2,4-オキサ
ジアゾリン(Ⅵ)とする薬剤の製造方法。

[原告の主張]
特に,刊行物Aには,引用化合物について,生物学的利用率に関する薬理試験結果又はこれと
同視することのできる程度の事項を記載してその用途の有用性を裏付けるデータの記載がない。
被告は,刊行物Aの【0574】の表1に記載された実験結果は,引用化合物に係るものでは
ないものの,引用化合物と上記実験の対象となった化合物とは,いずれも刊行物Aの請求項1の
具体的な化合物であるから,引用化合物についても,上記表1の実験結果が同様に当てはまると
把握することができると主張する。
しかしながら,上記表1は引用化合物に関する実験結果を何ら含んでいないから,かかる実験
結果が引用化合物についても同様に当てはまるというのは単なる憶測にすぎない。

[被告の主張]
刊行物Aには,薬効としての機能に関して「凝血カスケードのセリンプロテアーゼを阻害する
化合物のプロドラッグに関する」と記載されているし,プロドラッグとしての機能についても「こ
れらプロドラッグ化合物は,誘導されたアミジン基にて,加水分解,酸化,還元,または脱離を
受けて,活性な化合物を生成する。」と記載されている。そして,刊行物Aは,【0567】ない
し【0582】において,「生物利用能(BA)」と,プロドラッグの活性部分への変換パーセン
テージである「%転換率」についての実験方法と実験結果が記載されている。この実験結果は,
刊行物Aに実施例として記載されている化合物の一部についてのものであるが,当該実験結果を
参照すれば,当業者であれば,刊行物Aに記載される他の実施例の化合物(引用化合物を含む。)
の場合についても同様に当てはまると理解できる。すなわち,引用化合物と上記実験結果を伴う
化合物は,前記1のとおりの刊行物Aの記載全体を見れば,いずれも,刊行物Aの特許請求の範
囲に記載された発明の具体例として記載されているから,当業者であれば,引用化合物について
も,実験結果が同様に当てはまること,すなわち,プロドラッグとしての特性を備えるものとし
て把握することができる。

[裁判所の判断]
刊行物Aには,記載された物質の一部について,生物利用能及びプロドラッグの活性部分への
変換パーセンテージ(%転化率)についての実験データが【0574】の表1として開示されて
いるところ,同表には化合物番号12として記載されている化合物(以下「化合物12」という。)
の生物利用能が3%であり,%転化率が11%であると記載されている。
そして,化合物12は,アミジン基を構成する一つの窒素原子に酸素原子が結合したアミジン
基の誘導体であるところ(【0174】),酸素がアミジン基に直接結合されている酸素含有基を導
入することによりプロドラッグとしたものは,還元により,水又はアルコールとしての酸素の除
去によりアミジン基の遊離を生じ,プロドラッグの生物学的に活性な薬剤への変換を提供する旨
の記載(【0275】)を踏まえると,アミジン基を酸素含有基により修飾した化合物は,生体内
で還元され,活性なアミジン基に変換されることが示されていると理解することができる。
以上に加え,親油性の膜を透過することができないというアミジン基を有する化合物の問題点
は,アミジン基が中性に帯電され,親油性となるように誘導体化することよって解決することが
できるとの技術思想が合理的なものであると考えられること,アミジン基の窒素原子に酸素原子
を結合させ,アミジン基を酸素含有基で誘導体化することにより,アミジン基が生理学的pHで
プロトン化されることがなくなるということができることから,アミジン基に酸素原子を直接結
合させることにより誘導体化したものを経口投与した場合には,アミジン基を誘導体化しないも
のを経口投与した場合と比較して,生物学的利用率が向上すると考えられること,引用化合物は,
アミジン基に酸素原子を直接結合させることにより誘導体化したものである点で化合物12との
間に構成上の共通点が認められ,相違するのはアミジン基を構成する二つの窒素原子のそれぞれ
に酸素原子が結合していることにあると認められることに照らせば,刊行物Aには引用化合物自
体についての生物学的利用率の実験データの記載はないものの,その用途の有用性を容易に推測
することができるに足りる実験データの記載がされていると評価することができる。

[コメント]
医薬用途発明の新規性を否定するためには、主引例において、本願化合物が記載されているだ
けでなく、その用途が開示されていることが必要となる。本判決では、本願発明の範囲に含まれ
る引用化合物自体についての生物学的利用率(本願発明の用途)の実験データは記載されていな
いものの、類似化合物の実験データ及び明細書の記載から、引用化合物についても本願発明の医
薬用途を容易に類推することができると判断した。
情報提供等により、他社の権利化阻止を検討する際、主引例に本願発明に含まれる化合物は記
載されているが、その化合物自体の医薬用途は実験的に示されていない場合がある。そのような
場合であっても、医薬用途を認定し得ることが確認された点で参考になる。