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平成24年(行ケ)第10423号 「高速凝結性セメント組成物」事件

名称:「高速凝結性セメント組成物」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)第 10423 号 判決日:平成 26 年 2 月 19 日
判決:審決取消
特許法第 29 条第 2 項
キーワード:容易想到性、動機づけ
[概要]
本件は,原告が,「高速凝結性セメント組成物」に関する発明につき,特許出願をしたと
ころ,拒絶査定を受け,これに対して不服審判を請求したが,不成立審決(拒絶審決)を受
けたため,これに不服のある原告が,審決の取り消しを求めた訴訟が,本事案である。
[本願発明(本願請求項19)]
以下の(a)~(e)を含むセメントボードを作製するための組成物:
(a)ポルトランドセメント;
(b)鉱物性添加物;
(c)骨材;
(d)(a)及び(b)成分の促進剤としてのアルカノールアミン;
(e)下記スラリーを作製するのに十分な量の水;
前記組成物を作るために成分(a)~(e)を混合する時,少なくとも90°Fの
温度を有するスラリー。
[審決の理由]
本願発明は,引用発明,及び,周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで
きたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない
[裁判所の判断]
<(取消事由1)引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点の認定の誤り>
・・・引用例には,組成物を構成する各成分を混合する時に,スラリーが「外気温度を有
する」ことが記載されているとはいえない。したがって,本件審決が,引用発明の認定にお
いて,「早強性セメント組成物を作るために成分(a’),(c’)ないし(f’)を混合
する時,外気温度を有するスラリー」と認定したことは誤りである。・・・そして,正しく
は、以下のとおり認定されるべきものである。
・・・(イ)相違点5’ 本願発明は,「以下の(a)~(e)を含む」ものであり,「組
成物を作るために成分(a)~(e)を混合する時」,スラリーが,「少なくとも90°F
の温度を有する」ものであるのに対して,引用発明は,「以下の(a’),(c’)ないし
(f’)を含む」ものであるが,これら各成分を混合する時のスラリーの温度は不明である
点。・・・
(3)小括・・・本件審決の引用発明の認定には誤りがあり,同認定を前提とする本件審
決の一致点及び相違点5の認定にも誤りがあるが,それを前提としても,後記4のとおり,
本件審決が,本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものと
判断したことは,その結論において誤りはないから,上記認定の誤りは,本件審決の結論に
影響を及ぼすものではない。
<(取消事由2)相違点5’に係る容易想到性の判断の誤り>
・・・イ そうすると,引用発明は,基本的にはコンクリート製品を短時間で製造すること
を前提とするものであり,そのためにコンクリート(モルタルも含む。以下,同じ。)を早
期に硬化させるものと認められる。また,引用例の前記2(1)カ(ア)の【0028】,【0
029】の記載によれば,実施例1において凝結の始発及び終結時間を測定していることか
ら,「コンクリートを早期に硬化させる」ことには,少なくとも「コンクリートを早期に凝
結させる」ことが含まれているということができる。したがって,引用発明は,コンクリー
ト製品を短時間で製造するために,コンクリートを早期に凝結させるものと理解することが
できるから,引用発明において,より短時間でコンクリート製品を製造するために,更にコ
ンクリートを早期に凝結させるための手段を適用する動機付けがあるということできる。
ウ 一方,前記アで認定したとおり,引用発明は,コンクリートの打設終了までは良好なワ
ーカビリティを確保しようとするものであるが,これは,エトリンガイトの生成があまりに
も短時間に起こり,コンクリートがあまりにも早期に凝結してしまうと,所望のワーカビリ
ティを得ることが困難となるからである。そうすると,引用発明は,良好なワーカビリティ
を確保する点から,コンクリートの打設終了までは,コンクリートがあまりにも早期に凝結
しないようにするものと理解することができる。
しかし,そうであるからといって,引用発明において,更にコンクリートを早期に凝結さ
せるための手段を適用することが妨げられるものではない。所望のワーカビリティを得るこ
とが困難となるのは,上記のとおり,コンクリートがあまりにも早期に凝結してしまうため
である。引用発明において,更にコンクリートを早期に凝結させるための手段を適用したと
しても,コンクリートがあまりにも早期に凝結してしまうような設定を採用しない限りは,
良好なワーカビリティが確保されるのであって,早期凝結と良好なワーカビリティの確保と
は両立し得るものである。実際に,前記2(1)カ(イ)の引用例の段落【0035】のと
おり,引用発明の実施例2において,本願優先日前から凝結促進物質(硬化促進物質)とし
て公知であったトリエタノールアミン(前記1(2)イ及び(3)アの本願明細書の段落【0
011】及び【0017】,乙9の段落【0022】)が,コンクリートを早期に凝結させ
るための手段として用いられている。
以上のとおり,引用発明が,良好なワーカビリティを確保する点から,コンクリートの打
設終了までは,コンクリートがあまりにも早期に凝結しないようにするものであるとしても,
より短時間でコンクリート製品を製造するために,更にコンクリートを早期に凝結させるた
めの手段を適用することが妨げられるものではなく,かかる手段を適用する動機付けがある
ことに変わりはない。
<結論>
以上のとおり・・・上記認定の誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。し
たがって,取消事由1及び2にはいずれも理由がなく,本件審決には,これを取り消すべき
違法はない。よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のと
おり判決する。

平成24年(行ケ)第10423号 「高速凝結性セメント組成物」事件

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