審決取消請求事件 » 平成 24 年(行ケ)10196 号「孔なし且つむき出しのエラストマー層を含有する使い捨て吸収性物品」事件

名称:「孔なし且つむき出しのエラストマー層を含有する使い捨て吸収性物品」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 24 年(行ケ)10196 号 判決日:平成 25 年 1 月 21 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条2項
キーワード:課題、動機付け

[概要]
本件は、原告が請求した拒絶査定不服審判に対する審決の取消訴訟であり、争点は、相違
点2に関する判断の誤り(取消事由2)である。

[相違点2の内容]
伸縮部材を得る方法について、本願発明は、当該エラストマー層の1以上の表面への粉末
の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す工程を含む方法によって得
られ」という特定をしているのに対して、引用発明では、ブロッキング防止に係る工程に関
する特定のない点。

[審決の内容]
相違点2について、「多層樹脂フィルムの技術分野において、製造に際して、ブロッキング
防止処理として、ブロッキング防止剤を樹脂に混合したり、塗布や、撒布をすることは周知
技術であり(特開昭64-64845号公報・・・、特表2003-513159号公報・・・
参照)、積層工程を含む方法であればブロッキング防止処理は、当業者が必要に応じて適宜行
う技術的事項であるのだから、引用発明において、伸縮部材を得る方法についての特定に、
エラストマー層表面へのブロッキング防止処置工程を含むとすることは、当業者が容易に想
到しうるものといえる」と判断した。

[裁判所の判断]
伸縮部材を含む使い捨て吸収性物品に関し、単層エラストマーフィルムを備える剥離ライ
ナーを使用して伸縮積層体の製造を試みる場合、フィルム材をさらに加工する際に、大抵、
剥離ライナーはエラストマーフィルムから分離され、除去され、巻き上げられるため、剥離
ライナーと組み合わされたエラストマー単分子層又は単層フィルムの操作は、不織布とのそ
の後の積層における層の操作を促進する他の機構を次に必要とするとの課題があり、本願発
明は、上記の課題を解決するため、不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進す
るのに必要とされるブロッキング防止を助ける機構を備えるものであることが認められる。
また、本願発明における伸縮部材は、「前記エラストマー層を得る工程と、当該エラストマー
層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施す
工程と、当該エラストマー層を1以上の不織支持ウェブ層に積層する工程」の3つの工程を、
このとおりの順序で含む方法により得られるものであると解される。

引用発明は、エラストマー部材を有する伸縮性複合体ないしその製造方法に関するもので
あって、伸縮性積層体が「カット・アンド・スリップ」プロセスで、製品の望ましい位置に
粘着剤で貼り付けられる必要があり、異なる伸縮性の伸縮性積層体を用いたり、これらを製
品の異なる位置に貼り付けたりするには、複数のカット・アンド・スリップユニットが必要
なことがあるため、プロセスが厄介で複雑なものになるとの課題があり、これを解決する手
段として、エラストマー構成成分を形成する工程とエラストマー構成成分を基材に結合する
工程とが1つの工程の連続したプロセスに組み合わされた、新しいプロセスを提供するもの
であることが認められる。

すなわち、引用発明の課題及びその解決手段は、異なる伸縮性の伸縮性積層体を「カット・
アンド・スリップ」プロセスで製品の望ましい位置に貼り付ける工程を効率化する目的で、
エラストマー構成成分を形成する工程と基材に結合する工程を1つの工程の連続したプロセ
スに組み合わせるというものであって、本願発明の課題及びその解決手段である、エラスト
マーフィルムから剥離ライナーを分離、除去し、巻き上げるためのプロセスを促進する目的
で、不織布層を含むかかるフィルムの積層プロセスを促進するのに必要とされるブロッキン
グ防止を助ける機構を備えることとは全く異なるというべきである。また、引用刊行物1に
は、エラストマー材をグラビア印刷等により基材に直接付加する方法と、エラストマー材を
中間体の表面に配置した後、オフセット印刷のように間接的に基材に移す方法が挙げられる
ところ、前者の方法は、流体状のエラストマー材が基材に直接付加されるため、エラストマ
ー層がブロッキングすることはなく、後者の方法は、エラストマー材はいったん中間体の表
面に配置されるものの、引き続き中間層ごと基材に圧着、転写されるため、やはりエラスト
マー層がブロッキングすることはないから、引用発明における伸縮性複合体の製造方法で、
エラストマー構成成分を形成した後、基材に結合する前にブロッキングが生じるおそれはな
いといえる。

そうすると、引用発明における伸縮性複合体の製造方法において、エラストマー構成成分
を形成後、基材に結合する前に、ブロッキング防止処理を適用する動機付けはないというべ
きであり、これにブロッキング防止処理工程を含むとすることは、当業者が容易に想到する
ことではないから、引用発明から、相違点2に係る本願発明の構成である「当該エラストマ
ー層の1以上の表面への粉末の塗布を含むブロッキング防止処置を当該エラストマー層に施
す工程を含む方法によって得られ」との構成に至ることは、当業者にとっても容易ではない
というべきである。したがって、相違点2について、「引用発明において、伸縮部材を得る方
法についての特定に、エラストマー層表面へのブロッキング防止処置工程を含むとすること
は、当業者が容易に想到しうる」とした審決の判断は誤りである。

[コメント]
裁判所は、主引例と周知技術とを組み合わせるに際し、主引例の課題を詳細に検討し、主
引例に周知技術を組み合わせる動機付けがあるか否かを判断している。審査官が、所謂後知
恵に基づき、主引例に周知技術を簡単に組み合わせて進歩性を否定するケースが散見される
が、本判決は、主引例に周知技術を組み合わせる動機付けが無いとの反論を行う際の有力な
根拠となり得ると思われる。