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平成22年(ワ)第48102号「簡易メンブレンアッセイ法及びキット等」事件(特許権移転登録等請求事件)

名称:「簡易メンブレンアッセイ法及びキット等」事件(特許権移転登録等請求事件)
東京地裁民事第40部:平成22年(ワ)第48102号 判決日:平成24年1月27日
判決:請求棄却
特許法第36条第1項第2号
キーワード:発明者
[概要]
その発明の発明者であるとして原告のした特許権の移転登録等請求が棄却された事案
[主な争点]
(1)原告Xは本件発明等の発明者,考案者か(争点1)
(2)本件特許権に係る移転登録手続請求の可否(争点2)
(3)本件発明等の実施に係る不当利得返還請求の可否(争点3)
(4)発明者名誉権侵害の成否と損害額(争点4)
[本件発明1]
【請求項1】被測定物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装
置を用いる,検体試料中の被測定物の簡易メンブレンアッセイ法であって,検体試料を濾過
フィルターを用いて濾過した後に前記メンブレン上に滴下し,前記検体試料中の被測定物の
存在を検出あるいは定量することを含み,前記メンブレンの孔径または保留粒子径が,濾過
フィルターの孔径または保留粒子径以上であり,前記濾過フィルターの孔径または保留粒子
径が0.45㎛以上であり,該濾過フィルターが,ガラス繊維フィルター,またはガラス繊
維フィルターとニトロセルロースフィルターの組み合わせであり,かつ前記被測定物がイン
フルエンザウイルスであることを特徴とする方法。
[裁判所の判断]
争点1(原告は本件発明等の発明者,考案者か)について
(1)共同開発の経緯と本件発明等の完成
原告らは,平成12年3月9日,被告から開発担当者を原告Xとする本件デバイスの共同
開発の提案があり(甲2),以後,原告Xは被告の提案に基づいて本件デバイスの設計と改良
を重ね(甲3,4,6~51),平成13年8月7日,原告Xが作成した甲52図面を被告が
了承したことをもって,本件発明等が完成したと主張する。
しかしながら,甲2は,被告担当者Eが原告Xに宛てて送信したファクシミリ文書であり,
「診断用デバイスのハウジングに関してお知恵を拝借したく,是非一度直接お話をさせてい
ただきたい」と記載されているが,本件デバイスの共同開発の提案に当たるような趣旨の記
載はない。また,上記甲3,4,6~52は,いずれもその大半が本件デバイスのハウジン
グの試作及び量産に関する原告ベセルと被告との間のやり取りで交わされた連絡文書や図面
にすぎず,これらの証拠から,原告べセルと被告が本件デバイスの共同開発を行った事実を
認めることはできない。
そして,仮に本件発明等の特徴的部分が原告ら主張のとおりであったとしても,各特徴的
部分について,着想,具体化に係る創作的行為に原告Xが現実に加担した事実が認められな
いことは,後記(2)に説示するとおりである。
(2)本件発明等の発明者,考案者
ア 本件発明について
原告らは,請求項1の発明の特徴的部分は別紙1記載の技術要素ⅲ~ⅴにあると主張し,
技術要素ⅲを満たすメンブレンを原告Xが創作した証拠として甲62を,技術要素ⅳ,ⅴを
満たす濾過フィルターを原告Xが提案した証拠として甲63をそれぞれ引用する。
しかしながら,請求項1の発明の特徴的部分が原告ら主張のとおりであるとしても,甲6
2は,「組立て」と題する単なる箇条書の書面であって,そこにはメンブレンの孔径又は保留
粒子径に関する記載はなく,甲63も,「抽出液」,「デバイス」,「吸収体」及び「メンブレン」
についてそれぞれの個数(枚数)や金額が記載されたメモ書にすぎず,濾過フィルターに関
しては,「フィルター 3枚」との記載があるにすぎない。したがって,上記証拠からは,原
告ら主張の各特徴的部分の着想,具体化に係る創作的行為に原告Xが現実に加担した事実を
認めることはできず,ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。
よって,原告Xが請求項1の発明の発明者又はその共同発明者であると認めることはでき
ない。
[コメント]
発明者たるには発明の完成への実質的な関与が求められるところ、単にその製品の製作過
程に補助的に参加しただけでは発明者とは認められないとした判決は妥当と考えられる。
なお、平成23年改正法で冒認者に対する特許権移転請求権が規定されるので、今後はそ
ちらに基づく請求が行われることになろう。特許権移転請求権が法定されたことで、当該規
定が冒認出願又は共同出願違反に対する抑止力となることが期待される。

平成22年(ワ)第48102号「簡易メンブレンアッセイ法及びキット等」事件(特許権移転登録等請求事件)

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