侵害差止等請求事件 » 平成31年(ネ)第10003号「美容器」事件

名称:「美容器」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知財高裁:平成31年(ネ)第10003号 判決日:令和2年2月28日
判決:原判決変更
特許法第102条1項
キーワード:逸失利益、推定の覆滅、寄与度(寄与率)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/272/089272_hanrei.pdf

[概要]
特許発明を実施した特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎないとしても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるが、特徴部分の特許権者の製品における位置付け、特許権者の製品が特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力などの事情を総合考慮すると、事実上の推定が約6割覆滅され、これを限界利益から控除すべきであるとされた事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第5356625号等の特許権者である。
控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被控訴人の行為の差止め等を求めた(東大阪地裁平成28年(ワ)第5345号)ところ、大阪地裁は、控訴人の請求を一部認容する判決をしたため、控訴人(原審原告)は、原判決を不服として、控訴を提起した。なお、被控訴人(原審被告)も、控訴を提起している。
知財高裁は、控訴人(原審原告)の控訴を棄却した。

[本件発明1](特許第5847904号の本件発明2は、省略する)
ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、一対のボール支持軸の開き角度を65~80度、一対のボールの外周面間の間隔を10~13mmとし、前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにしたことを特徴とする美容器。

[原審]
原審は、被告製品の販売等は、本件特許権2を侵害するとして、被告製品の販売等の差止め、廃棄を認めるとともに、損害賠償請求の一部を認めた。
原審は、特許法102条1項の損害額の算定に当たって、原告製品の単位数量当たりの利益の額に被告製品の譲渡数量を乗じた額から、同項ただし書の事情として5割を控除し、さらに、寄与度を考慮して9割の減額をした。

[争点]
・争点1 被告製品は、本件発明1の技術的範囲に属するか
・争点2 本件特許1は、特許無効審判により無効にされるべきものか
・争点3 被告製品は、本件発明2の技術的範囲に属するか
・争点4 本件発明2に係る本件特許2は、特許無効審判により無効にされるべきものか
・争点5 一審原告の損害額
※以下、争点5のみ記載する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(3)侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額
ア 侵害行為がなければ販売することができた物
前記(1)のとおり、「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる。一審原告は、本件発明2の実施品として、「ReFa CARAT(リファ カラット)」という名称の美容器(以下「原告製品」という。)を、平成21年2月以降販売しており(甲23、24、弁論の全趣旨)、原告製品は、「侵害行為がなければ販売することができた物」に当たることは明らかである。
・・・(略)・・・
d 一審被告は、原告製品の売上高から、一審原告の全ての費用を、原告製品の売上比率に従って控除すべきであると主張する。・・・(略)・・・、同項の損害額は、侵害行為がなければ特許権者等が販売できた特許権者等の製品についての逸失利益であるから、同項の「単位数量当たりの利益の額」を算定するに当たっては、特許権者等の製品の製造販売のために直接関連しない費用を売上高から控除するのは相当ではなく、管理部門の人件費や交通・通信費などが、通常、これに当たる。また、一審原告は、既に、原告製品を製造販売しており、そのために必要な既に支出した費用(例えば、当該製品を製造するために必要な機器や設備に要する費用で既に支出したもの)も、売上高から控除するのは相当ではないというべきである。
一審被告が、売上高から控除すべきであると主張する上記費用のうち、前記cの①~⑨の費用以外の費用は、全て上記の売上高から控除するのが相当ではない費用に当たるというべきであるから、一審被告の上記主張は理由がない。
(ウ) 原告製品の限界利益の額は、原告製品の前記(ア)の売上高から前記(ア)の製造原価と前記(イ)cの各費用の合計額を控除した69億6809万2706円であり、これを、前記(ア)の期間における原告製品の販売数量125万6410個で除すると5546円(69億6809万2706円÷125万6410個≒5546.03円。1円未満切り捨て)となる。
(エ) 前記第2の2で認定した本件発明2の特許請求の範囲の記載及び前記1で認定した本件明細書2の記載からすると、本件発明2は、回転体、支持軸、軸受け部材、ハンドル等の部材から構成される美容器の発明であるが、軸受け部材と回転体の内周面の形状に特徴のある発明であると認められる(以下、この部分を「本件特徴部分」という。)。
原告製品は、前記アのとおり、支持軸に回転可能に支持された一対のローリング部を肌に押し付けて回転させることにより、肌を摘み上げ、肌に対して美容的作用を付与しようとする美容器であるから、本件特徴部分は、原告製品の一部分であるにすぎない。
ところで、本件のように、特許発明を実施した特許権者の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるというべきである。
そして、原告製品にとっては、ローリング部の良好な回転を実現することも重要であり、そのために必要な部材である本件特徴部分すなわち軸受け部材と回転体の内周面の形状も、原告製品の販売による利益に相応に貢献しているものといえる。
しかし、上記のとおり、原告製品は、一対のローリング部を皮膚に押し付けて回転させることにより、皮膚を摘み上げて美容的作用を付与するという美容器であるから、原告製品のうち大きな顧客誘引力を有する部分は、ローリング部の構成であるものと認められ、また、前記アのとおり、原告製品は、ソーラーパネルを備え、微弱電流を発生させており、これにより、顧客誘引力を高めているものと認められる。これらの事情からすると、本件特徴部分が原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから、原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく、したがって、原告製品においては、上記の事実上の推定が一部覆滅されるというべきである。
そして、上記で判示した本件特徴部分の原告製品における位置付け、原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮すると、同覆滅がされる程度は、全体の約6割であると認めるのが相当である。
・・・(略)・・・
以上より、原告製品の「単位数量当たりの利益の額」の算定に当たっては、原告製品全体の限界利益の額である5546円から、その約6割を控除するのが相当であり、原告製品の単位数量当たりの利益の額は、2218円(5546円×0.4≒2218円)となる。
(4) 実施の能力に応じた額
特許法102条1項は、前記(1)のとおり、侵害者の譲渡数量に特許権者等の製品の単位数量当たりの利益の額を乗じた額の全額を特許権者等の受けた損害の額とするのではなく、特許権者等の実施の能力に応じた額を超えない限度という制約を設けているところ、この「実施の能力」は、潜在的な能力で足り、生産委託等の方法により、侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきであり、その主張立証責任は特許権者側にある。
そして、前記(3)アのとおり、一審原告は、毎月の平均販売個数に対し、約3万個の余剰製品供給能力を有していたと推認できるのであるから、この余剰能力の範囲内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当である。
したがって、一審原告は、一審被告が本件侵害期間中に販売した被告製品の数量の原告製品を販売する能力を有していたと認められる。
(5) 一審原告が販売することができないとする事情
ア 前記(1)のとおり、特許法102条1項ただし書は、侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができないとする事情(以下「販売できない事情」という。)があるときは、販売できない事情に相当する数量に応じた額を控除するものとすると規定しており、侵害者が、販売できない事情として認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場合には、同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除される。そして、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの事情がこれに該当するというべきである。
・・・(略)・・・
(ア) 一審被告は、原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異を、販売できない事情として主張する。
a 本件においては、前記(2)ウ、(3)アのとおり、原告製品は、大手通販業者や百貨店において、2万3800円又はこれに近い価格で販売されているのに対し、被告製品はディスカウントストアや雑貨店において、3000円ないし5000円程度の価格で販売されているが、このように、原告製品は、比較的高額な美容器であるのに対し、被告製品は、原告製品の価格の8分の1ないし5分の1程度の廉価で販売されていることからすると、被告製品を購入した者は、被告製品が存在しなかった場合には、原告製品を購入するとは必ずしもいえないというべきである。したがって、上記の販売価格の差異は、販売できない事情と認めることができる。
そして、原告製品及び被告製品の上記の価格差は小さいとはいえないことからすると、同事情の存在による販売できない事情に相当する数量は小さくはないものと認められる。
一方で、上記両製品は美容器であるところ、美容器という商品の性質からすると、その需要者の中には、価格を重視せず、安価な商品がある場合は同商品を購入するが、安価な商品がない場合は、高価な商品を購入するという者も少なからず存在するものと推認できるというべきである。また、前記(3)アのとおり、原告製品は、ローラの表面にプラチナムコートが施され、ソーラーパネルが搭載されて、微弱電流を発生させるものであるから、これらの装備のない被告製品に比べてその品質は高いということができ、したがって、原告製品は、その販売価格が約2万4000円であるとしても、3000円ないし5000円程度の販売価格の被告製品の需要者の一定数を取り込むことは可能であるというべきである。以上からすると、原告製品及び被告製品の上記価格差の存在による販売できない事情に相当する数量がかなりの数量になるとは認められない。
b このように、原告製品と被告製品との価格の差異は、需要者の購入動機に影響を与えているといえるが、大手通販業者や百貨店において商品を購入する者がディスカウントストアや雑貨店において商品を購入しないというような経験則があるとは認め難いから、価格の差を離れて、原告製品と被告製品の上記販売態様の差異が、需要者の購入動機に影響を与えているとは認められず、販売態様の差異は、販売できない事情として認めることはできないというべきである。
(イ) 一審被告は、競合品が多数存在することを、販売できない事情として主張する。
平成31年4月の時点で、原告製品と被告製品の同種の製品として、少なくとも29種類の製品が販売されていることが認められる(乙176、弁論の全趣旨)が、本件証拠上、本件侵害期間(平成27年12月4日ないし平成29年5月8日)に、市場において、原告製品と競合関係に立つ製品が販売されていたと認めるに足りないから、この点を、販売できない事情と認めることはできない。
(ウ) 一審被告は、本件発明2は軸受けについての発明であるところ、被告製品における軸受けの製造費用は全体の製造費用の僅かな部分を占めるにすぎず、軸受けは付属品に類するものであることを販売できない事情として主張する。
しかし、本件発明2が美容器の一部に特徴のある発明であるという事情は、既に原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たって考慮しているのであるから、重ねて、これを販売できない事情として考慮する必要はないというべきである。
(エ) 一審被告は、軸受けの部分は外見上認識することができず、代替技術が存することなどを販売できない事情として主張する。
しかし、一審被告の主張する上記の事情は、被告製品及び原告製品のいずれにも当てはまるものであるから、同事情の存在によって、被告製品がなかった場合に、被告製品に対する需要が原告製品に向かわなくなるということはできず、したがって、これらの事情を販売できない事情と認めることはできない。
(オ) 一審被告は、原告製品は、微弱電流を発生する機構を有しているが、被告製品はそのような機構を有していないことを販売できない事情として主張する。
確かに、前記(3)アのとおり、原告製品は、微弱電流を発生する機構を有しており、一方で、被告製品はそのような機構を有していないが、このことは、被告製品は、原告製品に比べ顧客誘引力が劣ることを意味するから、被告製品が存在しなかった場合に、その需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはいい難い。したがって、上記の点は、販売できない事情と認めることはできない。
(カ) 一審被告は、一審被告の営業努力を、販売できない事情として主張するが、本件証拠上、一審被告に、販売できない事情と認めるに足りる程度の営業努力があったとは認められない。
ウ 以上によれば、本件においては、前記イ(ア)aで判示した事情を考慮すると、この販売できない事情に相当する数量は、全体の約5割であると認めるのが相当である。
(6) 本件発明2の寄与度を考慮した損害額の減額の可否について
前記(3)及び(5)のとおり、原告製品の単位数量当たりの利益の額の算定に当たっては、本件発明2が原告製品の販売による利益に貢献している程度を考慮して、原告製品の限界利益の全額から6割を控除し、また、被告製品の販売数量に上記の原告製品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た一審原告の受けた損害額から、特許法102条1項ただし書により5割を控除するのが相当である。仮に、一審被告の主張が、これらの控除とは別に、本件発明2が被告製品の販売に寄与した割合を考慮して損害額を減額すべきであるとの趣旨であるとしても、これを認める規定はなく、また、これを認める根拠はないから、そのような寄与度の考慮による減額を認めることはできない。
(7) 損害額の算定
以上からすると、特許法102条1項による一審原告の損害額は、被告製品の譲渡数量35万1724個のうち、約5割については販売することができないとする事情があるからその分を控除し、控除後の販売数量を原告製品の単位数量当たりの利益額2218円に乗じることで、3億9006万円(2218円×35万1724個×0.5≒3億9006万円)となる。
また、一審被告による本件特許権2の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は、認容額、本件訴訟の難易度及び一審原告の差止請求が認容されていることを考慮して、5000万円と認めるのが相当である。したがって、一審原告の損害額は、合計で4億4006万円となる。』

[コメント]
一審(大阪地裁)および知財高裁における法102条1項の損害額の判断において、特許発明の特徴的部分が特許製品に占める寄与度(一審では「寄与率」と呼ぶ。)に大きな差がみられた。寄与度について、原告は100%(減額するとしても80%を超える)、被告は0%であると主張していたところ、裁判所は『特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定される』とし、個別具体的な事情である、特許発明の特徴、利益貢献度、顧客吸引力などを総合的に勘案して、寄与度40%(一部覆滅60%)と判断した。
この寄与度は、法102条第2項の侵害品の利益、同条第3項の実施料率、ライセンス契約における実施料率、金銭的価値評価の判断においても重要な一指標として考慮されているため、過去裁判例の寄与度を整理しておくことは実務家にとって大変役立つもの考える。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)