侵害差止等請求事件 » 平成29年(ワ)第28884号「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質」事件

名称:「敗血症及び敗血症様全身性感染の検出のための方法及び物質」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:平成29年(ワ)第28884号 判決日:平成30年11月28日
判決:請求棄却
特許法101条4号及び5号
キーワード:文言解釈、間接侵害
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/203/088203_hanrei.pdf

[概要]
「プロカルシトニン3-116を測定すること」は、プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味し、被告方法ではプロカルシトニン3-116の量が明らかにされているとは認められないから、被告方法は構成要件を充足せずその実施は非侵害であるとされた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5215250号の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権の間接侵害を構成すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
東京地裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む、敗血症及び敗血症様全身性感染を検出するための方法。

[主な争点]
被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『2 争点1(被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1)「プロカルシトニン3-116を測定すること」の意義
ア 構成要件Aは「患者の血清中でプロカルシトニン3-116を測定することを含む」というものであるところ、一般に、「測定」に、長さ、重さ、速さといった種々の量を器具や装置を用いてはかるという字義があることからすると、「プロカルシトニン3-116を測定すること」は、プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると解するのが文言上自然である。
また、前記1(2)認定のとおり、本件発明は、敗血症等の患者の血清中に比較的高濃度で検出可能なプロカルシトニンがプロカルシトニン1-116ではなく、プロカルシトニン3-116であることが確認されたことを踏まえて新規な敗血症等の検出方法を提供することを目的とするものであり、このような本件発明の目的に照らせば、本件発明は、患者の血清中においてプロカルシトニン3-116が比較的高濃度で検出されるか否かを見ることを可能とすることが求められているということができる。
以上から、構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定すること」は、プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると解するのが相当である。
イ この点につき、原告は、「プロカルシトニン3-116を測定すること」は、プロカルシトニン3-116を敗血症等の検出に必要な精度で測定ないし検出することができれば、プロカルシトニン3-116だけを特異的、選択的に測定することに限られず、プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116及びその他のプロカルシトニン由来の部分ペプチドとを区別することなく測定することも含むと主張しており、その意味するところは明確でないが、血清中のプロカルシトニン3-116を検出しさえすれば足りるものである旨の主張であるとすれば、それはプロカルシトニン3-116の存在を明らかにすることで足り、その量を明らかにすることは必要ではないことをいうものであって、前記アでみた「測定」の文言の解釈に反するものであり、採用することができない。
また、血清中のプロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116等とを区別することなく測定することがプロカルシトニン3-116を測定することに該当すると主張するものであると解しても、そのような測定方法では、血清中にプロカルシトニン3-116が存在するかも明らかにならず、もとより、血清中のプロカルシトニン3-116の量も確認できないから、これを「プロカルシトニン3-116を測定すること」に該当するというのは文言上困難である。
(2) 被告方法
前記第2の2(5)ア認定のとおり、被告装置及び被告キットを使用すると、患者の検体中において、プロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116とを区別することなく、いずれをも含み得るプロカルシトニンの濃度を測定することができ、その測定結果に基づき敗血症の鑑別診断等が行われていると認められるものの、本件全証拠によっても、被告装置及び被告キットを使用して敗血症等を検出する過程で、プロカルシトニン3-116の量が明らかにされているとは認められず、更にいえば、プロカルシトニン3-116の存在自体も明らかになっているとはいえない。
したがって、被告方法は、構成要件Aの「プロカルシトニン3-116を測定する」を充足するとはいえない。』

[コメント]
裁判所は、「測定」の一般的字義や本件明細書における敗血症患者の血清中においてプロカルシトニン3-116が比較的高濃度で検出されるとの記載等に照らし、「プロカルシトニン3-116を測定すること」は、プロカルシトニン3-116の濃度等の量を明らかにすることを意味すると認定し、被告方法ではプロカルシトニン3-116の量を確認することができないとして、構成要件非充足を理由に原告の請求を棄却した。
本件発明が敗血症患者の血清中におけるプロカルシトニン3-116の発見に基づくものであることや、被告方法により、全血及び血漿検体中のプロカルシトニン3-116とプロカルシトニン1-116が区別されることなく測定され、敗血症等を検出することができるものの、プロカルシトニン3-116の存在及び量を検出ないし測定することができないことに鑑みると、裁判所の判断は妥当であると考える。
なお、「測定」の解釈に関し、本件明細書の実験セクションにおける「敗血症患者の血清からの内因性プロカルシトニンペプチドの単離と確認」との記載や、「ポジティブなプロカルシトニン免疫反応性を有する全てのフラクションを、窒素ガス処理によって乾燥させた。その後、それらのサンプルをマススペクトロメトリーで分析し、N-末端塩基配列決定を行った。」との記載からすると、「測定」ではなく「同定」、「検出」あるいは「定性的又は定量的に測定」とする方がより本件発明の技術思想に即していると感じられた。「同定」等としていれば、少なくとも存在を確認できればよいことになるので、裁判所が指摘する「量」の確認までは求められないことになり、原告の立証負担が軽減されることになったのではなかろうか。ただし、その場合であっても、被告方法によるプロカルシトニン3-116の「同定」はできないので、構成要件非充足との結論は変わらないであろう。
以上
(担当弁理士:藤井 康輔)