侵害差止等請求事件 » 平成26年(ワ)1690号「建築用パネル及び壁パネルの下端部の支持構造」事件

名称:「建築用パネル及び壁パネルの下端部の支持構造」事件
特許権侵害差止等請求事件
東京地方裁判所:平成26年(ワ)1690号  判決日:平成28年3月28日
判決:請求認容
特許法70条
キーワード:構成要件充足性

[概要]
被告製品は、本件発明1の構成要件をすべて充足するとして、原告の特許権1を侵害するとされた事例。
被告支持構造は、本件発明2の構成要件をすべて充足するとして、原告の特許権2を侵害するとされた事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第3898893号(本件特許1)、特許3455669号(本件特許2)の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
東京地裁は、原告の請求を認容した。

[本件発明1](筆者にて争点にアンダーラインを付した)
【請求項1】
1A:金属薄板材からなる方形の表面材と裏面材との間に断熱用芯材を挟持したパネルであって,
1B:パネルの一端側には芯材端部より突出した雌型係合部が形成され,対向する他端側には表裏両面材が内側に屈曲して形成される屈曲段差部に続く雄型係合部が形成され,隣接するパネルと嵌合接続が可能とされた建築用パネルにおいて,
1C:この嵌合接続方向に直角な方向の表面材の両端部が芯材の側面に沿ってL型に折り曲げられると共に,更にその先端が芯材厚みの中間部からパネルの表面方向と平行になるように再度L型に折り曲げられて,全体としてパネルの嵌合方向と直角方向の側面から表面材の先端が突出された接合部材を有し,
1D:芯材の側面に沿ってL型に折り曲げられてなるパネルの側面の表面材が内側に屈曲して形成される屈曲段差部を,雄型係合部の屈曲段差部を設けた位置のパネルの側面に形成してなる
1E:ことを特徴とする建築用パネル。

[本件発明2](筆者にて争点にアンダーラインを付した)
【請求項1】
2A:壁パネルの上端部に嵌合凹部もしくは嵌合凸部の一方を形成するとともに下端部に嵌合凹部もしくは嵌合凸部の他方を形成し,壁パネルの下端に下位の壁パネルの上端部の表面部を覆う覆い片を垂下した壁パネルの下端部の支持構造であって,
2B:スタータを,覆い片の背部の凹所に係入する係入片と,凹所よりもパネル背方のパネル下端面を受ける受片と,受片より下方に垂下されて壁下地に取付ける取付け片と,取付け片より前方に延出されて覆い片の下端と家屋構造部との間に充填するコーキング剤をバックアップするバックアップ片とで構成し,
2C:壁下地にスタータを取付け,スタータの受片にて壁パネルの下端部を支持し,
2D:スタータのバックアップ片と家屋構造部との間にバックアップ材を装填して成る
2E:ことを特徴とする壁パネルの下端部の支持構造。

[争点]
(1)被告各製品は本件発明1の構成要件1A,1Dを充足するか
(2)被告支持構造は本件発明2の構成要件2Bを充足するか
(3)他の争点は省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
(1) 本件発明1の構成要件1Aについて
『次に,本件発明1は「建築用パネル」に関するものであるから,構成要件1Aにいう「断熱用芯材」が建築物に用いられる断熱用の芯材を意味することは,本件明細書1の特許請求の範囲の記載から明らかであるところ,フェノールフォームが建築物に用いられる断熱材であることは当事者間に争いがないことからすれば,被告製品4-1及び同4-2の「フェノールフォーム31からなる芯材30」は,建築物に用いられる断熱用の芯材であるということができ,構成要件1Aにいう「断熱用芯材」に該当する。
また,証拠(甲15の1・2)によれば,被告製品1-1及び同1-2は,建築基準法施行令107条2号及び3号に規定する基準・・・(略)・・・に適合すると認定されていることが認められるから,被告製品1-1及び同1-2の「フェノールフォーム31と石膏ボード32からなる芯材30」も,建築物に用いられる断熱用の芯材であるということができ,構成要件1Aにいう「断熱用芯材」に該当するものと認められる。
この点について,被告は,複数の部材からなる芯材は構成要件1Aにいう「断熱用芯材」に当たらない旨主張するが,本件明細書1の特許請求の範囲には,「断熱用芯材」が単一部材よりなるものに限られるとの記載はないし,同明細書の他の部分の記載を参酌しても,そのように限定して解釈すべき根拠は見当たらないから,被告の上記主張は採用することができない。
したがって,被告各製品は,いずれも本件発明1の構成要件1Aを充足する。』

(2) 本件発明1の構成要件1Dについて
『被告各製品において,「芯材30の側面に沿ってL型に折り曲げられてなるパネルの側面11の表面材10は,雄型係合部50の屈曲段差部6を設けた位置付近において,内側に屈曲して,約4mmの段差14を形成している」ところ,この「段差14」は,後述するとおり,芯材に沿って表面材を折り曲げる際に発生するしわを低減するものと認められるから,構成要件1Dにいう「パネルの側面の表面材が内側に屈曲して形成される屈曲段差部」に該当するものと認められる。
この点について,被告は,構成要件1Dにいう「パネルの側面の表面材が内側に屈曲して形成される屈曲段差部」は,「表面材を略直角に折り曲げ,さらに略直角に折り曲げて形成する段差部」と解釈されるべきところ,被告各製品には,表面材10が芯材30と略平行に折りたたまれるなどして不定形に生じた「しわ」が存在するのみであって,「表面材を略直角に折り曲げ,さらに略直角に折り曲げて形成する段差部」は存在しないと主張する。しかしながら,本件明細書1の特許請求の範囲には,「パネルの側面の表面材が内側に屈曲して形成される屈曲段差部」が「表面材を略直角に折り曲げ,さらに略直角に折り曲げて形成する段差部」に限られるとの記載はないし,同明細書の他の部分の記載を参酌しても,そのように限定して解釈すべき根拠は見当たらない。
被告は,被告各製品は,本件発明1の効果である「しわ」の低減を奏していないか,偶発的にのみ奏したにすぎないから,本件発明1の技術的範囲に属しないとも主張する。・・・(略)・・・被告各製品で用いられている芯材30は,雄型係合部50の屈曲段差部6が設けられている位置付近において,芯材30の表面側のみならず側面にも段差が設けられており,このような形状を採用することによって,芯材30の側面に段差を設けない場合と比べて,芯材30に沿って表面材10を折り曲げる際に発生するしわを低減するという,本件発明1の効果を構造的に奏するものと認められるから(甲67参照),被告の上記主張は採用することができない。
したがって,被告各製品は,いずれも構成要件1Dを充足する。』

(3)本件発明2の構成要件2Bについて
『証拠(甲9ないし12)によれば,・・・(略)・・・そうすると,「スタータ15」の「断面L字状のL字部8」は,「ひときれ」との意義を有する(甲34)「片」としての形状を有しているということができ,かつ,覆い片の背部の凹所4に入れられるものであるから,「係わり合って入ること」との意義を有する(乙3の1)「係入」される部材であるということができる。したがって,被告支持構造を構成する「スタータ15」の「断面L字状のL字部8」は,構成要件2Bにいう「係入片」に該当するものと認められる。
この点について,被告は,壁パネルを「受ける」形状のものは「係入する」ものに当たらないと主張するが,特許請求の範囲を含む本件明細書2の記載を検討しても,そのように限定して解釈すべき根拠は見当たらず,被告の上記主張は採用することができない。
被告支持構造において充填される「シーリング23」は,構成要件2Bにいう「覆い片の下端と家屋構造部との間に充填」されるものに該当すると認められ,したがって,被告支持構造を構成する「スタータ15」は,「取付け片より前方に延出されて覆い片3の下端と家屋構造部との間に充填するコーキング剤をバックアップするバックアップ片14」を有するものと認められる。
この点について,被告は,被告支持構造における「シーリング23」は「覆い片3」の下端に接していないから,「覆い片の下端と家屋構造部との間に充填」されていないと主張するが,本件明細書2の特許請求の範囲の記載上,コーキング剤が覆い片の下端に接していなければならない旨の限定はないこと,上記のとおり,シーリングないしコーキング剤を充填する目的は,外壁パネルと家屋構造部との間の隙間を埋めることにあることからすれば,仮にコーキング剤が覆い片の下端に接していないとしても,「覆い片の下端と家屋構造部との間に充填」されているとみて差し支えないというべきである。
以上によれば,被告支持構造は,構成要件2Bを充足する。』

[コメント]
被告の主張は、文言解釈を実施形態の構成に限定解釈した主張であったが、裁判所は、本件特許の明細書を参酌して、被告主張のように限定解釈すべき根拠はないとした。技術的範囲の解釈として原則に従うものであり、妥当である。
以上
(担当弁理士:谷口 俊彦)