侵害差止等請求事件 » 平成 26 年(ワ)第 3343 号「ピタバスタチンカルシウム塩の結晶」事件

名称:「ピタバスタチンカルシウム塩の結晶」事件
特許権侵害行為差止等請求事件
東京地方裁判所(民事第46部):平成 26 年(ワ)第 3343 号 判決日:平成 27 年 2 月 10 日
判決 : 請求棄却
特許法100条
キーワード:特許権侵害行為差止

[概要]
被告製品は原告特許の構成要件を充足しないから差止めを認めることはできないと判断さ
れた事案である。

[前提事実](P.2 第 5 行目~P.5 第 11 行目)
(2) 原告の特許権
ア 特許番号 特許第5186108号
ウ 本件結晶発明1(本件結晶特許権に係る特許請求の範囲の請求項1)は,以下の構成要件
に分説される。
(請求項1)
A 式(1)
【化1】

で表される化合物であり,
B 7~13%の水分を含み,
C CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,
9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,1
8.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°
の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°
の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピーク
を有することを特徴とする
D ピタバスタチンカルシウム塩の結晶
E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。

(3) 被告の行為
ア 被告製剤(「YD錠」)は被告原薬を使用して製造されている。被告原薬はピタバスタチン
カルシウム塩を含有している。
イ 被告は,被告製剤の製造承認を受けてその製造・販売の準備を進めている。

[主な争点]
構成要件Cの回折角の充足性について

[裁判所の判断]
(2) 前記前提事実及び上記認定事実に基づき,構成要件C・C’の回折角について検討する。
ア 本件各発明の構成要件C・C’においては,発明の構成が15本のピークの小数点以下
2桁の回折角により特定されており,その数値に一定の誤差が許容される旨の記載や,15
本中の一部のピークのみの対比によって特定される旨の記載はない。

また,上記認定の発明の詳細な説明の記載によれば,本件各発明は,ピタバスタチンカル
シウム原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向
上すること,及び,結晶形態A~Cの中で結晶形態Aが医薬品の原薬として最も好ましいこ
とを見いだしたというものである。そして,結晶形態B及びCは,水分量が結晶形態Aと同
等で,単に,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図で結晶形態Aに特徴的な3
本のピークの回折角が存在しないことによって結晶形態Aと区別される結晶多形というので
あるから,構成要件C・C’の小数点以下2桁の数値で表される15本のピーク中3本のみ
相違することが,技術的範囲の属否を判別する根拠とされていることになる。

さらに,本件明細書のその余の記載をみても,結晶形態Aは構成要件C・C’の回折角等
の粉末X線回折パターンによって特徴付けられるという以上の特定がされておらず・・・回
折角に一定の誤差が許容されることなどをうかがわせる記載も見当たらない。

そうすると,本件各発明の技術的範囲に属するというためには構成要件C・C’の回折角
の数値が15本全てのピークについて小数点第2位まで一致することを要するというべきで
ある。

(3) これを被告原薬等についてみると,・・・原告測定においては,15本全てのピークにつ
いて回折角の数値が小数点第2位まで一致するような測定結果は得られなかったというので
ある(前記前提事実(3)エ)。そして,原告が被告原薬等に含まれるとするピタバスタチンカル
シウム塩における15本のピークの回折角は別紙物件目録記載1のとおりであり,うち12
本は構成要件C・C’と相違している。そうすると,同目録記載の回折角自体から,被告原
薬等は構成要件C・C’を充足しないと判断すべきことになる。

(4) 以上の認定判断に対し,原告は,①本件発明の対象は本件明細書記載の結晶形態Aであり,
その充足性は当該ピタバスタチンカルシウム塩の結晶の粉末X線回折測定で得られたチャー
トにおいて結晶形態Aとの同一性を判断するのに十分な数のピークが確認されれば足りる,
②上記の同一性の判断は,日本薬局方等の記載によれば,X線粉末回折法において±0.2°
以内の誤差で一致するピークが10本以上確認されるなどすれば十分である,③別紙原告測
定結果によればYD錠及びこれに用いられた被告原薬は構成要件C・C’の回折角を充足す
ると主張する。

しかしながら,本件各発明の特許請求の範囲に結晶形態Aという記載はなく,また,前記
発明の詳細な説明によっても,結晶形態Aとの同一性は構成要件C・C’の回折角の数値が
全て一致するか否かにより判定すべきものと解されるから,構成要件C・C’の回折角の充
足性は,端的に,当該結晶がその数値を全て充足するか否かにより判断すべきものであって,
上記①の主張は失当である。

また,日本薬局方は,厚生労働大臣が医薬品の性状及び品質の適正を図るため,医薬品,
医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律41条(平成25年法律第84
号による廃止前の薬事法41条も同趣旨)に基づき定める医薬品の規格基準書であり,原告
の挙げる各文献中の記載も,上記法律の目的とする保健衛生の向上という公益的見地から医
薬品の同一性等を判断する基準として記載されたものと解される。これに対し,医薬品等に
係る特許発明の技術的範囲は,明細書の記載及び図面を考慮し当該発明に係る特許請求の範
囲の記載に基づいて定めるべきものであるから(特許法70条1項,2項),日本薬局方の記
載と常に一致しなければならないものではない。したがって,上記②の主張も理由がない。
さらに,上記③の主張は,原告の主張する回折角の解釈を前提とするものであるから,明
らかに失当である。