侵害差止等請求事件 » 平成25年(ワ)25813号 「美容器」事件

名称:「美容器」事件
特許権侵害差止請求事件
東京地方裁判所民事部第46部:平成 25 年(ワ)25813 号 判決日:平成 26 年 9 月 25 日
判決:認容
キーワード:特許法70条、文言解釈

[概要]
被告製品(美容用ローラー)は、いずれも本件発明の技術的範囲に属するとされた事例。

[特許請求の範囲](囲み枠は争点)
【請求項1】
A ハンドルの先端部に一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支
持した美容器において,
B 往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように,ボールの軸線をハン
ドルの中心線に対して前傾させて構成し,
C 一対のボール支持軸の開き角度を40~120度,
D 一対のボールの外周面間の間隔を8~25mmとし,
E ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が
摘み上げられるようにしたことを特徴とする
F 美容器。

[争点]
(1)構成要件A
ボールは真球状のものに限定されるか。
一軸線は立体の中心を通る中心線と解すべきか。
(2)構成要件B
ボールの軸線も立体の中心を通る中心線と解すべきか。
(3)構成要件D
ボールの外周面間の間隔とは往復運動中における間隔が固定されたものに限定されるか。
(4)構成要件E
被告製品は肌面の摘み上げとその開放を周期的に繰り返すので作用効果が異なるか。

[裁判所の判断]
1.「ボール」について
「ボール」の語の通常の意味は「球又は球状のもの」であり,「球」とは「丸い形,丸いもの」
をいうが(広辞苑〔第6版〕・・・),ラグビーボールのような楕円球や長球も「ボール」と呼ば
れることがある。また,本件発明の「ボール」は支持軸を介してハンドルに取り付けられるので,
その構成上,取付部分は切り欠かれ,真球とはなり得ない。
本件発明は、・・・筒状のローラにおけるように幅を持った直線部分が肌に接触するのではなく,
肌に対して局部接触するようにしたものである。そうすると,「ボール」というためには,肌と接
触する部分が局部接触可能な程度に曲率半径を持ったものであれば足り,その全体が真球状であ
ることを要しない。
以上の解釈は,本件明細書に実施例として「ボール」の形状をバルーン状,断面楕円形状,断
面長円形状等に変更することができる旨記載されていることからも裏付けられる。
被告製品は、円筒状ではなく,真円形状に近い曲率半径を有しており,これを肌に当てて移動
させた場合,断面楕円の短軸部分の表面上に設けられた帯状の部分を中心とした局部において肌
に接し,特許請求の範囲にいう「ボール」に相当する。

2.「一軸線」について
構成要件Aに係る特許請求の範囲の記載は,「一対のボールを,相互間隔をおいてそれぞれ一軸
線を中心に回転可能に支持」するというものであるから,その文言上,「一軸線」が,ボールが回
転する際に中心となる回転軸を意味することが明らかである。
被告は,回転軸とボールの中心を通る線が異なる場合には,後者が「一軸線」である旨主張す
るが,特許請求の範囲の記載に反するばかりでなく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみ
ても被告の主張の根拠となるべき記載は見当たらない。
被告各製品は,「ボール」を「一軸線」を中心に回転可能に支持したものとして,構成要件Aを
充足する。

3.「(ボールの軸線が)一定角度を維持」について
「軸線」という文言自体が回転する際の「軸」を意味する上,特許請求の範囲には「ハンドル
の中心線」との記載があり,被告主張のように解釈すべきものとすれば「ボールの中心線」と記
載されたと考えられる。
構成要件Bにいう「ボールの軸線」は,ボールの中心線ではなく,ボールの回転軸を意味する
と解するのが相当である。
被告各製品の上記「ボール」に相当する部材は,ハンドルの中心線に対し前傾させて設けられ
た保持軸に軸着され,この保持軸を軸として回転するように構成されており,同部材を肌に押し
付けて被告各製品を往復動作させると,この保持軸は肌面に対して一定角度に維持される。

4.「外周面間の間隔」について
特許請求の範囲の文言上,ボールの外周面間の間隔は「8~25mm」という幅を持ったもの
として規定されており,ボールの軸線に関しては往復運動中に「一定角度を維持」するとされて
いるのに対し,上記間隔について一定に維持するとの限定はない。
外周面間の間隔が上記数値の範囲にあれば好ましい肌の摘み上げ効果が奏されるのであって,
これが変動した場合に上記効果が失われることをうかがわせる証拠はない。

5.「肌が摘み上げられる」との構成及び作用効果について
ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させると,一対のボール
に挟まれた部分の肌は,上記の構成から必然的に,ボールの外周面間の間隔により摘み上げる力
の強弱はあるものの,ボールの回転に伴って摘み上げられることになる。そして,被告各製品は
上記ア~エのとおり本件発明と同様の構成を有するものであるから,ハンドルの先端から基端方
向に移動させると,外周面間の間隔の変動により摘み上げる力が変化するとしても,肌は摘み上
げられるものと認められる。

以上によれば,被告各製品は本件発明の技術的範囲に属する。

[コメント]
特許請求の範囲に記載を解釈するに際して、明細書や図面の記載を参酌しており、基本に沿っ
た解釈手法である。結論も妥当である。