侵害差止等請求事件 » 平成22年(ワ)18041号「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」事件

名称:「ソレノイド駆動ポンプの制御回路」事件
特許権侵害差止等請求事件
大阪地方裁判所:平成 22 年(ワ)18041 号 判決日:平成 25 年 7 月 11 日
判決:請求棄却
特許法70条
キーワード:技術的範囲、文言侵害、均等侵害、意識的除外、進歩性

[概要]
被告製品の旧イ号、新イ号、ロ号につき、いずれも技術的範囲に属する(新イ号とロ号は均等)
としたが、本件特許1,2は進歩性欠如の無効理由があるとして、原告の請求を棄却した事例。

[特許請求の範囲](**アンダーラインは争点)
(本件特許1)
A1 ソレノイド駆動ポンプのソレノイド8に駆動電圧を供給して該ソレノイド8を駆動する駆
動回路7と,
B1 90~264Vの間で電圧が異なる交流電圧の電源1から整流されて駆動回路7に提供さ
れる直流電圧を分圧して検出する検出手段5と,
C1 該検出手段5で検出した直流電圧を一種の制御回路に対応した所望の直流電圧と比較し,且
つ駆動回路7に提供された直流電圧を所望の直流電圧に変換すべく該駆動回路7に制御信号を供
給する演算処理部6とを具備し,
D1 電源1の電圧に関わりなく前記所望の直流電圧を駆動電圧としてソレノイド8に供給する
ソレノイド駆動ポンプの制御回路であって,
E1 前記制御信号は,駆動回路7に提供される直流電圧をスイッチングし,オン・オフのデュー
ティを制御する信号である
F1 ことを特徴とするソレノイド駆動ポンプの制御回路。
* 本件特許2は本件特許1からの分割出願であるが、技術的範囲の属否は判断されていないので省略する。

[争点](侵害論)
(表はPDF参照)

[旧イ号の構成]
a1 ソレノイド駆動ポンプのソレノイド5に電圧を供給してソレノイド5を駆動するFET4
bと,
b1 100~240V±10%の間で電圧が異なる交流電源1から整流器2で整流されてFE
T4bに提供される全波整流電圧(直流電圧)を分圧する分圧回路3と,当該分圧した電圧をA
/D変換して検出するCPU8と,
c1 ソレノイド内のアーマチュア(鉄心)を押し出して往動させるための信号が出力されている
時間(アーマチュア押し出し信号出力時間)の前半及び後半における各通電時間及び遮断時間を,
CPU8で検出した電圧値に応じて特性テーブルから読み出すCPU12と,CPU12から受
信した上記通電時間及び遮断時間に従ってFET4bに提供された全波整流電圧の通電及び遮断
をすべくFET4bにポンプ制御信号を供給するCPU8とを具備し,
d1 上記通電及び遮断をされた全波整流電圧をソレノイド5に供給するソレノイド駆動ポンプ
の制御回路であって,
e1 上記ポンプ制御信号は,FET4bに提供される全波整流電圧のアーマチュア押し出し信号
時間内の通電時間及び遮断時間を制御する信号である
f1 ことを特徴とするソレノイド駆動ポンプの制御回路。

[旧イ号と新イ号の違い]
旧イ号・・・分圧回路14を整流器9及びFET11(駆動回路10)間に接続させる。
新イ号・・・分圧回路は、整流器15を介してトランス6に接続している。
[ロ号と新イ号の違い]
新イ号・・・通電時間、遮断時間の夫々に「前半」および「後半」という概念を有する。
ロ号・・・・上記概念を有しない。

[裁判所の判断]
(1)旧イ号は本件特許1の構成要件を文言上充足するか。
(所望の直流電圧について)
「電源1の電圧」の値に関わりなく,ソレノイド8へ供給される直流電圧を「所望の直流電圧」
とすることができる点に技術的意義があると解される。
「所望の直流電圧」とは,当該ソレノイド駆動ポンプの備える「一種の制御回路」で対応可能
な直流電圧値を意味すると解される一方,その直流電圧値が,1つに定まった電圧値を意味し,
一切の幅を許容しないと解すべき文言上の根拠はない。
ソレノイド駆動ポンプでは,駆動電圧の値に違いがあっても,それがある程度の範囲内にある
のであれば,「動作不良」や「焼損」(段落【0004】)といった問題が生じるわけではなく,同
一の制御回路及びソレノイドで対応させることができる。

「所望の直流電圧」につき,1つに定まった電圧値を意味し,一切の幅を許容しないと解すべ
き技術的な必然性はなく,むしろ,動作不良や焼損といった問題を生じさせない限りでの幅を許
容する趣旨と解するのが合理的かつ自然である。
旧イ号製品は,電源電圧の値が「90~264V」(構成要件B1)という大きな範囲で異なる
場合でも,「FET4b」に提供された直流電圧の平均値を80V弱から110V弱という狭い範
囲内に変換している。→,旧イ号製品は,構成要件A1を充足する。

(オン・オフのデューティを制御する信号の意義について)
1周期の間で,スイッチをオンにしている時間をデューティ,その時間の割合をデューティ比
という(電気工学の分野)
「ソレノイド駆動ポンプ」は,ソレノイドによってポンプ動作体を往復運動させるものである
ため,この1往復をもって1周期と解するのが相当である。
出願経過において,パルスがオンされてから次のパルスがオンされるまでの時間が電圧によっ
て変化するような場合は,「オン・オフのデューティを制御する」とはいえない旨述べていた。
しかし、ポンプ動作体の運動周期が変化するような制御方式を「オン・オフのデューティを制
御する」に当たらないと述べていたに過ぎない。

特性テーブルは,アーマチュア押し出し信号出力時間を前半と後半に分け,電源電圧の値に対
応した通電時間及び遮断時間を,前半及び後半のそれぞれに設定している。つまり,ポンプ駆動
体の1往復内にあるアーマチュア押し出し信号出力時間の中で,スイッチをオンにする時間(通
電時間)と,スイッチをオフにする時間(遮断時間)を制御し,このことによって「FET4b」
に提供された直流電圧を「所望の直流電圧」へと変換しているのであり,まさに「直流電圧をス
イッチングし,オン・オフのデューティを制御する」ものといえる。前半と後半とで通電時間及
び遮断時間に差が設けられていることが,この該当性を左右する理由にはならない。
→,旧イ号製品は,構成要件E1を充足する。

(2)新イ号は本件特許1の構成要件を文言上充足するか。
(検出手段5について)
「検出手段5」は,その文言上,「所望の直流電圧」の比較対象たる「90~264Vの間で電
圧が異なる電源電圧」の値の測定において,交流電圧を整流してから「駆動回路7」に提供され
るまでの間で,その直流電圧を分圧して検出する構成に限定している。
新イ号は、本件特許発明1の「駆動回路7」に当たる「FET4b」へ提供する「整流器2」
とは別の分岐先において,「トランス6」により降圧し,「整流器17」で整流した後の直流電圧
を「分圧回路18」及び「CPU8」により分圧して検出する。
→構成要件B1を文言上充足するとは認められない。

(3)新イ号は本件特許1と均等か
・第2要件・・・「駆動回路7」に提供された直流電圧を「所望の直流電圧」に変換するという本件
特許発明1の目的は達することができ,同一の作用効果を奏する。
・第3要件・・・別の分岐先で整流された直流電圧を分圧して検出することでも同様に可能なことは,
技術常識上明らかである。
・第1要件・・・「駆動回路7」に提供された直流電圧を「所望の直流電圧」に変換する点に特徴が
ある。
・第5要件・・・原告は拒絶理由通知を受けた後、検出手段5の構成を補正した。しかし、36条の
要件を満たしていないとする拒絶理由であり、新規性及び進歩性に係る拒絶理由通知ではなかっ
たし,電圧の検出手段に係る記載の不備を指摘するものでもなかった。

[コメント]
均等を認めた上で特許が無効であると判断した珍しい事例である。旧イ号の「所定の」解釈に
つき、均等ではなく文言上に含まれるとの解釈は妥当である。拒絶理由通知に対応して補正した
場合、その部分は意識的除外(第5要件)であると判断される事例は近年増えているが、いずれ
も引例に対する差別化を図るための補正であったと思われ、今回の事例は36条の拒絶に対応す
るものであり、しかも検出手段の記載不備とは関係がないものであった。