特許法・実用新案法 » 平成24年(ネ)10052号「排尿障害治療剤職務発明対価請求」事件

名称:「排尿障害治療剤職務発明対価請求」事件
職務発明対価支払請求控訴事件
知的財産高等裁判所 平成24年(ネ)10052号
判決日:平成25年1月31日
判決:第1審被告控訴一部認容(認容額原審1億6538円に対し4478万円に変更)
特許法35条
キーワード:相当の対価,消滅時効,使用者が受けるべき利益,使用者貢献度

[概要]
在職中にされた発明の名称を「スルフアモイル置換フエネチルアミン誘導体」とする発明及び
「置換フエネチルアミン誘導体の製造法」とする発明の共同発明者の1人である第1審原告が,
第1審被告に対し,各職務発明に係る特許を受ける権利を承継させたことによる相当の対価の支
払を求めた控訴事件である。相当対価の額を「第1審原告の相当対価請求権は,米国物質特許
及び欧州物質特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権のうち当該各特許による平成17
年4月1日以降の利益に基づく部分についてのみ消滅時効の効力が及ばないものというべきであ
る」と認定し、本判決において「第1審被告は,第1審原告に対し,4478万1600円・・
を支払え。」として、該当特許実施後の超過利益全体に適用された原判決(平成24年4月2
7日判決東京地裁平成21年(ワ)第34203号)の内容が変更された。

[争点]:別紙表1参照
(1)使用者が受けるべき利益:ア 自己実施による独占の利益(争点1)
:イ ライセンス収入(争点2)
(2)使用者貢献度(争点3)
(3)相当対価額の算定(争点4)
(4)消滅時効(争点5)
(5)その他:外国特許についての特許を受ける権利の承継についての準拠法

[裁判所の判断]
第1審被告の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)第1審被告は,第1審原告に対し,4478万1600円・・を支払え。
以下、各争点について、原審との対比において纏めた。

<争点5について>
(1)消滅時効について、原審同様、①~⑤が認定された。
①本件物質発明に係る特許は国内外を含めて平成2年2月8日が経過することにより,
②本件製法発明に係る特許は国内外を含めて平成7年11月13日が経過することにより,
消滅時効の期間が経過したものと解される。
③第1審被告は、第1審被告規程3が施行される平成17年4月1日までは,いつでも消滅時
効を援用することにより債務を免れることができる状態にあった。
④第1審被告は,第1審原告に対し,第1審被告職務発明制度に基づき,平成17年4月~平
成20年3月に第1審被告が実施し利益を得ている特許(米国物質特許,欧州物質特許及び日
本製法特許)について,実施時補償額を合計335万9900円(本件物質特許補償額とし
て309万8400円,本件製法特許補償額として26万1500円)の支払いを平成21
年3月6日実施した。
⑤第1審被告は,平成21年11月11日の本件第1回口頭弁論期日において,上記各請求
権について消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

(2)その上で、「本件支払④により,米国物質特許及び欧州物質特許等を受ける権利の承継
に基づく相当対価請求権のうち当該各特許による平成17年4月1日以降の利益に基づく部
分について時効利益を放棄した一方,本件発明に係るその余の特許を受ける権利の承継に基
づく相当対価請求権については,消滅時効の完成後に本件援用を行っており,いずれも本件
援用により確定的に消滅した。したがって,第1審原告の相当対価請求権は,米国物質特許
及び欧州物質特許を受ける権利の承継に基づく相当対価請求権のうち当該各特許による平成
17年4月1日以降の利益に基づく部分についてのみ消滅時効の効力が及ばず,専ら当該部
分の相当対価が算定の対象である。」との認定がされた。該消滅時効の認定により、原審の認
定範囲に比べ、相当対価の算定の対象特許および対象期間が限定された。

<争点1について>
使用者が受けるべき利益の基準となる「自己実施による独占の利益」について
超過利益として、原審同様、以下のように「超過売上高(使用者等に認められる無償の通常
実施権分に基づく売上高を除いた売上高)に想定実施料率を乗じた額」が認定された。ただ
し、認定された金額については表示されない。
①日本物質特許:独占の利益50%=[ハルナールの超過売上高1929億円]*[想定実
施料率]。
②日本製法特許:独占の利益30%=[超過売上高105億円]*[想定実施料率]。
③欧州物質特許等:独占の利益10%=[超過売上高]*[想定実施料率]。

<争点2について>
使用者が受けるべき利益の基準となる「ライセンス収入」について
原審同様、以下のように「ライセンス収入の額」が認定された。ただし、認定された金額に
ついては表示されない。
①米国BI社からのライセンス収入の額。
②欧州BI社からのライセンス収入の額。

<争点3について>
使用者貢献度について
原審同様「本件における第1審被告の貢献度は99%,発明者側の貢献度は1%と認める」
とされた。

<争点4について>
相当対価額の算定について
上記争点1~3,5の認定に基づいて、以下のような額が認定された。ただし、個別の認定
された金額については表示されない。
①欧州物質特許に基づいて算出される第1審被告の欧州子会社による自社販売分に係る平成
17年4月1日以降の超過利益の額に発明者貢献度(1%)及び発明者割合(40%)を乗
じて得られる相当対価の額。
②BI社からの本件物質発明について想定される米国(米国物質特許)における平成17年
4月1日以降のライセンス収入の額に発明者貢献度(1%)及び発明者割合(40%)を乗
じて得られる相当対価の額。
を合計すると,4788万円となる。
③本件支払分310万を控除して第1審原告に対する相当対価の未払分の合計は,4478
万1600円となる。
一方、原審では、相当の対価請求権に基づく本件物質特許および製法特許についての該当
全期間に対して以下のように認定していた。
①自己実施による我が国及び欧州における相当対価の額:3550万円
②ライセンス分:1億6424万円
③第1審被告は合併後の現行規程に基づいて,ハルナールに関して,物質特許補償額309
万8400円,製法特許26万1500円の合計335万9900円を支払った。

<その他>
外国特許についての特許を受ける権利の承継についての準拠法について、以下のように認
定された。基本的には原審における認定との差異はない。
①本件では,特許を受ける権利が諸外国においてどのように取り扱われ,どのような効力を
有するかという問題ではなく,当事者間の特許を受ける権利の譲渡の対価という,当該譲渡
の原因関係である債権的法律行為の効力が問題となっている。
②当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようという当事者の通常の意思にあるのであ
り,本件でも法35条3項,4項の類推適用の基礎が存在する。

[コメント]
原審において認容された相当の対価が、控訴審において減額された事案(直近では平成2
4年3月21日判決知財高裁平成22年(ネ)第10062号があるが対価請求事件におい
ては稀である)であり、消滅時効の認定基準が大きな争点となり、使用者側のみならず、発
明者側の留意点として参考になる事案である。使用者側の「消滅時効の援用」と「時効利益
の放棄」の証明行為を含め、原審との認定基準の差異および本判決の射程範囲を精査する必
要がある。なお、相当対価の算定の根拠となる実際に認定された金額について表示されなかっ
たために、正確な原審との認定・判断の相異点を特定することができなった。上告審あるい
は今後の裁判所における判断を待ちたい。