不正競争防止法 » 平成28年(ネ)第10094号「競合会社の取引先に対する虚偽の事実の告知行為による不正競争」事件

名称:競合会社の取引先に対する虚偽の事実の告知行為による不正競争事件
損害賠償請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成28年(ネ)第10094号 判決日:平成29年3月22日
判決:控訴棄却
不正競争防止法2条1項14号(現2条1項15号)
キーワード:信用毀損行為
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/623/086623_hanrei.pdf

[概要]
特許権者Xが競合会社Y1とその取引先Y3を共同被告として侵害訴訟を提起したのは、正当な権利行使の一環というべきであって、それが外形的には不正競争(信用毀損行為)に該当し得る行為であったとしても、正当行為として違法性が阻却されるものと認めるのが相当であるとされた事例。

[事件の経緯]
1.別件侵害訴訟
法人Xが、法人Y1及び法人Y3を被告として、法人Y1及び法人Y3の行為の差止め等を求めた(東京地裁平成25年(ワ)第4303号)ところ、東京地裁が、特許が特許無効審判により無効にすべきもの(進歩性欠如)であるとして、法人Xの請求を棄却する判決をしたため、法人Xは、控訴を提起した(知財高裁平成26年(ネ)第10109号)。
知財高裁が、特許が特許無効審判により無効にすべきもの(新規性欠如)であるとして、法人Xの控訴を棄却したため、法人X敗訴の一審判決は、確定した。

2.本件訴訟
法人Y1らは、法人Xの法人Y2及び法人Y3に対する行為が不正競争に該当すると主張して、法人Xらに対して損害賠償の支払いを求めた(大阪地裁平成27年(ワ)第11759号)ところ、大阪地裁が、法人Y1らの請求を棄却する判決をしたため、法人Y1らは、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、法人Y1らの控訴を棄却した。

[事実関係]
法人Y1(コスメディ製薬)は、法人Y1ら製品を製造して法人Y2(資生堂)に販売し、法人Y2は、商品として完成させて法人Y3(岩城製薬)に販売し、法人Y3は、市販していた。
法人X(バイオセレンタック)は、法人Y1及び法人Y3を共同被告として、侵害訴訟を提起し、法人Y2に対しては、警告や侵害訴訟の提起を行わなかった。

[争点]
・不正競争(信用毀損行為)の成否について(争点1関係)
※その他の争点については省略。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(1) 不正競争(信用毀損行為)の成否について(争点1関係)
ア 特許権侵害の事実を告知したとの点について
(ア) 控訴人コスメディは、原判決が、被控訴人バイオが別件侵害訴訟の訴訟手続を通じて控訴人ら製品が本件特許権の侵害品であるとの事実を岩城製薬に告知した面はあると認定しながら、不正競争防止法2条1項14号の不正競争(虚偽事実の告知)に該当しないと結論付けた論旨が不明であると主張する。
よって検討するに、確かに、別件侵害訴訟は、控訴人コスメディのみならず、その取引先である岩城製薬をも共同被告(侵害者)として提起されたものであるところ、同訴訟においては、本件特許の無効を理由に、本件特許権の侵害を理由とする被控訴人バイオの請求が認められず、同請求を棄却した一審判決が控訴棄却により確定したのであるから、結果として、同訴訟において被控訴人バイオが主張していた事実(控訴人ら製品が本件特許権の侵害品であるとの事実)は、虚偽であったことになり、また、かかる訴訟手続を通じて、その虚偽の事実が岩城製薬に告知されたことになる。したがって、かかる岩城製薬に対する告知は、形式的には不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当する。
しかしながら、かかる告知は岩城製薬に対する訴訟提起によってなされたものであるから、これを違法とするかどうかは、別の観点からの考察も必要である。すなわち、訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる(最高裁第三小法廷昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。かかる要件を満たさないのに、訴訟提起という形による虚偽事実の告知が形式的に不正競争に当たることを理由として、これを違法とすることは、たとえ訴訟提起の相手方(本件では岩城製薬)との関係で違法と評価するものではなかったとしても(不正競争かどうかは、飽くまで競業者である控訴人コスメディとの関係において問題となるものである。)、結局はこれを不当提訴であると断じるに等しく、裁判制度の自由な利用を著しく阻害することとなり妥当でない(むしろ、特許権者が自己の権利を侵害されているとの認識の下に、当該侵害者を相手方として訴訟を提起することは、当該訴訟が不当訴訟と評価されるような特段の事情がない限り、裁判を受ける権利の行使として当然許される行為であるというべきである。)。
したがって、かかる制度的観点からは、特許権者が、競業者ないしその取引先に対する関係でおよそ請求が成り立たないことを知りながら、あるいは、当然そのことを知り得たはずであるのに、あえて当該取引先をも共同被告として訴訟を提起するなど、訴訟制度を濫用的に利用したと評価し得るような特別な事情が存する場合は格別として、そのような場合でなければ、外形的には不正競争に当たり得るとしても、訴訟提起自体を違法と評価することはできないというべきである。
これを本件についてみるに、控訴人コスメディは、控訴人ら製品を製造して資生堂に販売し、資生堂において商品として完成させて岩城製薬に販売し、岩城製薬において市販していたというのであるから、仮に控訴人ら製品が本件特許権の侵害品に当たるとすれば、岩城製薬の行為自体が本件発明の実施行為として本件特許権の侵害に当たるものであることは明らかである。また、別件侵害訴訟においては、結果的に新規性欠如の無効理由によって本件特許が無効にされるべきものであるとの判断が確定しているが、被控訴人バイオが、あらかじめ本件特許にかかる無効理由が存することを知りながら、あるいは、これを当然知り得たはずであるのに、あえて(無理を承知で)同訴訟を提訴したというような事情はうかがわれないし(別件侵害訴訟の提起に先立ち控訴人コスメディから無効審判請求がなされていたが、被控訴人バイオとしては、これを争っており、かつ、提訴の時点ではまだ確定的な判断は示されていなかったのであるから、それだけでは、被控訴人バイオが無効理由の存在を知り、あるいは、当然知り得たというには足りない。)、被控訴人バイオに、専ら控訴人コスメディの信用を毀損する目的など、訴訟制度を濫用的に利用したと評価されるべき不当な目的があったことを認めるに足りる的確な証拠もない。
以上によれば、被控訴人バイオが岩城製薬を共同被告として別件侵害訴訟を提起したのは、正当な権利行使の一環というべきであって、それが外形的には不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当し得る行為であったとしても、正当行為として違法性が阻却されるものと認めるのが相当である。原判決の認定判断もかかる趣旨を述べるものと理解することが可能であって、論旨不明との指摘は当たらない。
よって、これに反する控訴人コスメディの主張は採用できない。
(イ) 控訴人コスメディは、資生堂に対する告知行為の有無に関して、被控訴人バイオは、別件侵害訴訟の被告商品の中間流通段階に位置する資生堂をあえて飛ばして、控訴人コスメディと岩城製薬とを被告にしたものであって、当然、別件侵害訴訟の顛末は控訴人らから資生堂にも伝わることを知悉していたものであるから、被控訴人バイオは、控訴人らを介して、資生堂に伝達した(告知した)と評価すべきものであると主張する。
しかしながら、原判決が指摘するとおり、不正競争防止法2条1項14号における告知とは、自己が関知した一定の事実を特定の人に知らせる伝達行為をいうものと解されるところ、別件侵害訴訟は飽くまで控訴人コスメディと岩城製薬を被告とするものであって資生堂を被告とするものではないから、同訴訟の提起とその後の訴訟手続をもって資生堂に対する告知行為と評価することは相当でないし、被控訴人バイオにその意図があったと認めるに足りる証拠もない。
したがって、資生堂に対する告知行為を認めなかった原判決の認定判断は正当であり、これに反する控訴人コスメディの主張は採用できない。』

[コメント]
裁判所は、特許権者Xによる取引先Y3への訴訟提訴による告知行為が競合会社Y1に対する不正競争に該当しないと判断した。
特許権者Xがあらかじめ本件特許に係る無効理由の存在を知っていた等の事情がなく、また、特許権者Xに、競合会社Y1の信用を毀損する等の不当な目的があったことを認めるに足りる証拠がない以上、裁判所の判断は妥当であろう。

また、競合会社Y1と取引先Y3との間の中間流通段階に位置する取引先Y2に対して、特許権者Xが警告や訴訟の提訴を行わなかったことにより、取引先Y2に対する告知行為がないと判断された。
実際のところ、特許権者Xに大手企業である取引先Y2に対する告知の意図が本当になかったのか不明である。しかしながら、特許権者Xによる取引先Y2への行為が競合会社Y1に対する不正競争に該当するためには、原則は、取引先Y2に対して直接の告知があった事実が必要であるし、少なくとも、取引先Y2に対して告知の意図があったと認定できる証拠が必要であると思う。したがって、そのような証拠さえもない以上、特許権者Xによる取引先Y2への行為が競合会社Y1に対する不正競争に該当しないとした裁判所の判断は、妥当であろう。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)