その他 » 平成26年(ワ)第20279号「鋼管圧入工法及び鋼管圧入機」事件

名称:「鋼管圧入工法及び鋼管圧入機」事件(通常実施権確認請求事件)
東京地裁民事第47部:平成26年(ワ)第20279号 判決日:平成27年4月28日
判決:請求認容(審決取消)
特許法35条1項
キーワード:通常実施権、職務発明、業務発明

[概要]
被告(発明者兼特許権者:伸栄株式会社に在職中に「本件発明」をして「本件特許」を取
得)に対して,「伸栄」を吸収合併した原告が,「本件発明」は特許法35条1項に定める職
務発明である旨を主張して,被告に対し,通常実施権を有することが確認された。

[前提事実]
(1)当事者等
ア 伸栄及び原告
伸栄は,—平成26年10月1日,原告に合併し解散した。
イ 被告
被告は,伸栄の創業者であり,平成21年11月19日までは伸栄の代表取締役—–してい
たが,そのころ,その有する伸栄の株式を全てヒロセ株式会社に対して売り渡すと共に,伸
栄の代表取締役を辞任し,—,平成23年6月21日,取締役を退任した。
(2) 本件特許権
ア 被告は,伸栄在職中に本件発明を行い,平成23年5月31日,本件特許に係る特許
出願をし,平成26年2月21日,設定登録を受けた本件特許権の特許権者である。

[争点]
本件発明は特許法35条1項所定の職務発明に当たるか否か。

[原告の主張]
(1) 本件発明は鋼管圧入工法及び鋼管圧入機に関するものであるところ,本件発明がされ
た当時,伸栄は鋼管圧入工事を業として行っていたのであるから,本件発明は伸栄の業務範
囲に属する。
(2) 被告は,伸栄の創業者であり,前代表取締役であったことから,本件株式譲渡後も,
伸栄の取引先との交渉,————-を行っていた。伸栄での営業活動には,機械の施工能力や
施工方法に関する知見や,———職務の一環として,顧客の工事内容や意向に応じて随時技
術開発を行うことも当然に予定ないし期待されていた。
(3) —-本件発明は,被告の職務に属する発明であった。

[被告の主張]
(1) —–本件発明の発明行為が鋼管矢板・鋼管杭圧入工事等の土木工事を業とする原告の
業務範囲に属することについては否認する。
(2) 被告は,本件株式譲渡以降は,営業のみを担当しており,技術指導・技術開発等は担
当していなかった。—–,営業活動の一環として,その参考見積をコーワンに依頼したことは
あるが,機械の仕様の決定や発注には関与していない。原告の主張するような機械の仕様に
関する打合せをコーワンとしたことはない。
(3) 本件発明は,被告が友人や家族と雑談をする中で思い至ったものであり,伸栄の業務
とは全く関係がない。被告は本件株式譲渡後に伸栄の工事担当部門から機械が使いにくいと
いった特段の相談を受けたことは一度もないから,本件発明は被告の職務に属するものでは
ない。
[裁判所の判断]
2 事実認定に関する補足説示
被告は,本件株式譲渡後は伸栄において営業のみを担当していたため,伸栄が本件工事の
ためにΦ1400の鋼管矢板打設工事に対応できる鋼管圧入機の製作をコーワンに依頼しよ
うとしていたことは認識しており,営業活動の一環としてコーワンに鋼管圧入機の見積を依
頼したことはあるが,その仕様の決定や発注については関与していない旨主張し,これに沿
う供述をして前記1(5)ないし(7)認定のコーワン側との打合せの事実を否認する。そして,被
告は,平成23年1月24日には引越作業をしていたため,コーワンの社員と打合せを行っ
たことはないとして,引越しの見積書(乙4)及び同日のETC利用状況を示すご利用代金
明細書(乙5の2)を提出する。
しかしながら,被告は,その供述において,平成23年1月18日付けのコーワンからの
被告宛ファクシミリ送信(甲24)や同月28日付の被告宛ファクシミリ送信(甲8)を受
領してこれらに目を通したことは認めているところ,上記認定のとおり,これらには,「先日
打ち合わせさせて頂きました,PZ―1500鋼管圧入引抜機の仕様について」とか「先日
の打ち合わせでの検討結果資料一式送らせて頂きます」などの記載があり,これらの記載か
らすれば,被告がコーワン側と鋼管圧入機の仕様等について上記認定の打合せをしたことは
明らかである。この点,被告は,これらのファクシミリ送信を受領して目を通した当時はあ
まり関心がなくおかしいとは思わなかったなどと供述するが,不自然不合理な内容であって
到底採用することができない。そして,被告が平成23年1月24日に引越作業をしていた
ことの証拠として提出する書証についても,引越作業が午後からであった可能性や被告自身
が引越作業に立ち会っていなかった可能性があることからすれば,いずれも,同日の午前中
に被告が伸栄でコーワンとの打合せ業務をしていたという認定と矛盾するものではないから,
前記認定を覆すに足りず,他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。したがって,被告
の主張は採用することができない。

3 判断
上記認定事実によれば,被告は,伸栄の業務として,本件工事を受注するために必要な鋼
管圧入機を発注するための検討をしている際に,本件発明をしたと認められるから,本件発
明は,その性質上伸栄の業務範囲に属し,かつ,本件発明をするに至った行為が伸栄におけ
る被告の職務に属するものであったと認められる。
なお,仮に被告の主張するように,友人や家族との雑談が本件発明のきっかけとなったと
しても,前記1(1)認定の被告の地位によれば,被告には職務上発注する機械の仕様について
検討することも求められていたと考えられるから,本件発明をするに至った行為が伸栄にお
ける被告の職務に属するものであったことに変わりはないというべきである。
したがって,伸栄を吸収合併した原告は,当然に特許法35条1項に基づく通常実施権を
有するものと認められる。

[コメント]
職務発明の対象は従業員に限られず取締役にも適用される。本件では、代表取締役辞任後
の取締約(肩書は会長)の被告についても職務発明が適用された事例である。
被告である発明者と特許権者は同一人であり、本件特許は法人(被告設立)には予約承継
されていないが、当該法人は職務発明に基づく通常実施権を有しているとこと、当該法人を
吸収合併した原告に、通常実施権が認められた。