審決が,意匠1及び意匠2から,包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器は,本願の出願前に公然知られた形状であり,意匠3を基礎として,塗布具部の径をやや大きくして,本願全体意匠とすることは,容易に創作することができたと判断したことには誤りがあるとして、拒絶審決が取り消された事例。(請求認容)。

 判決日H91226、知財高裁、平成19(行ケ)10210号、10209号事件(部分意匠)

 Key:審判の審理構造および審理対象、美観の相違

 

1.原告の主張

(1)審決(2)(全体意匠に係る審決)の認定判断の誤り

@本願全体意匠は「塗布具部」及び「キャップ」を「口部」に対して径を大きくしながらも,側面視した場合に,「キャップ」が容器本体部から飛び出したり,頭部が大きすぎるとの印象を与えないような均整の取れたプロポーションを有し,優れた美感を与える構成を有する。審決(2)は,かかる本願全体意匠の重要な特徴を看過した誤りがある。

A)意匠1及び2は「口部」の径に比べて「塗布具部」及び「キャップ」が大きな容器が存在することを示しているにすぎず,どのような基準で大きくするかという美的観点を示唆するものでない。また,意匠1はガラス撥水剤充填用容器,意匠2は窓ガラスの撥水剤等を塗布するための容器であり,いずれも被塗布面がガラスであることから「塗布面」を大きくし「口部」の傾斜を緩やかにしたものであって,「キャップ」が飛び出さないようにするとか,頭部が大きすぎないようにするという美観を示唆するものではなく,むしろ頭部を大きくするという観点を示唆させる。このように,プロポーションをいかにするかという美的な観点からの示唆がないにもかかわらず,意匠3の「塗布具部」及び「キャップ」の径を,意匠1又は2に示されるように大きくしても,本願全体意匠を創作することはできない。

2.被告の反論

 「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくする着想ないし手法が存在するのであるから,当業者であれば,このような着想ないし手法に基づいて「塗布具部」及び「キャップ」を「口部」の径より大きくするに当たり,側面視した場合に「キャップ」が容器本体部から飛び出したりしない程度に「塗布具部」及び「キャップ」の径を大きくすることは容易である。

3.裁判所の判断

(1)本願全体意匠の特徴及び創作容易性

ア 本願全体意匠は,「キャップ」の径を口部(正確には,容器本体の口部に連続する部分)の径に対して1.7倍として,径方向に大きく拡大させ,また,「キャップ」の縦と横の直径の比率を約1対2として,径方向に大きく拡げて,塗布具部表面の面積を広く確保している点で特徴があるが,そのような特徴があるとともに,「キャップ」の縦の長さを極力短く抑えていること,滑り止め用縦ギザを「キャップ」の周側面の底部方向から2分の1部分のみに施していること,「キャップ」上面は緩やかな丸みを帯びた形状としていること,「キャップ」の径を容器本体の前後幅とほぼ同じ長さとしていることなどの点において,「キャップ」を径方向に大きく拡大させたことに由来する欠点,すなわち,頭部が目立ちすぎて,威圧感を与えたり,容器形状として異様な印象を与えたり,容器との調和を乱したりするなどの欠点を解消させ,均衡を保つための美観上の工夫が様々施されており,そのような点でも特徴があるといえる。

イ 意匠1及び意匠2によれば,包装用容器の分野において,容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな包装用容器が本願(2)の出願前より公然知られていたことが認められる。

 しかし,本願全体意匠と意匠3を対比すると,前記(1)ウのとおりの美観上の相違があり,また,本願全体意匠は上記アのとおりの各特徴を備えている点に照らすならば,本願全体意匠は,多様なデザイン面での選択肢から,創意工夫を施して創作したものであるから,意匠3を基礎として,意匠1及び意匠2(容器本体口部よりも塗布具部の径が大きな公知の包装用容器に係る意匠)を適用することによって,本願全体意匠を容易に創作することができたはいえない。

 

5.付言(審判の審理構造及び審理対象に関して)

(1)審判の対象は,審査の過程で審査官が発した「拒絶理由の通知」の当否でもなく,また,拒絶査定に係る拒絶理由の当否でもなく,さらに,請求人の主張の当否でもない。

(2)審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論を導くためには,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)のいずれかに該当する理由(該当するとの判断に至った論理の過程)を明示することを要する。

(3)同条項に該当すると判断するに至った論理の過程を明示するということは,審判体において,

@前提となる法律の解釈に疑義がある場合には,当該法条の解釈を示すこと,

A法条の要件に該当する事実が存在することを明らかにすること,

B事実を法条に適用した結果として,意匠法17条所定の条項(例えば同法3条1項,2項など)に該当するとの論理の過程が成り立つ点を明示することを含む。

 審判体は,この論理過程を説明する責任を負担し,文書をもって明示することを要する(意匠法52条,特許法157条。)

 ところで,・・審判体の判断の論理過程を直接的に示した記載部分はなく,・・。このような審決書(1)及び(2)の理由記載は,その体裁だけで直ちに審決の違法を来すとの結論を導くものであるか否かはさておき,審判体が,本願部分意匠又は本願全体意匠が意匠法3条2項に該当すると判断した論理の過程を的確に示したものということはできない。すなわち,審決書(1)及び(2)の理由は,論理付けの根拠とは無関係かつ不要な事項を含み,審判体の判断の基礎となる論理付けが明りょうでなく,審判の構造に対する誤った認識に基づいた判断であるとの疑念を生じさせるという意味において,妥当を欠くものといえる(特に本件では,少なくとも拒絶理由通知における理由部分は,僅か5行ないし7行からなる,ごく簡単で定型的な記載にすぎないから〔甲13の1,2〕,審判体において,そのような理由が妥当であるとの判断に至ったからといって,当然に,審判体としての結論に至る論理付けとして十分であるとすることはできない。)。上記の趣旨は,一般の審決書における理由記載においても,同様に留意を要すべき点であるといえる。